診療

岐阜大学動物病院腫瘍科では、腫瘍症例に対して腫瘍の種類や動物の状態、飼育状況などに応じて多くの選択肢の中から最適と思われる治療法をご提示しています。腫瘍の治療には外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、免疫療法など、様々な方法がありますが、1つの方法のみで腫瘍を十分に治療することは困難です。より高い治療効果を期待し、これらの治療法を組み合わせて行う治療を集学的治療と呼んでいます。腫瘍症例をお預かりした際、当院では治療の種類によって転科することなく集学的治療を実施できるため、より効率的な診療が可能です。

診療実績

外科治療(手術)

腫瘍が原発巣のみに限局している場合には完全切除が望めることがあり、局所の制御には最も効果的な治療法です。ただし、腫瘍の中には浸潤性が高いものや転移しやすいものもあり、術前にすべてが把握できるわけではありません。切除した腫瘍は病理検査に提出し、腫瘍細胞が切除断面に届いていないか、血管やリンパ管への浸潤がないかを確認する必要があります。また、術後に再発や転移の有無を定期的に観察すべきです。

腫瘍の種類によっては腫瘍切除の際に大きなマージンをとる必要があります。完全切除を目指すことで後遺症や合併症の発生が予想される場合に緩和を目的とした減量手術が考慮されることもありますが、残った腫瘍細胞がすぐに増殖してくる可能性が高いため、多くの場合単独で実施されることはありません。再発や転移の可能性を下げるため、あるいは完全切除の可能性を高めるために、手術前後に化学療法や放射線治療を組み合わせることがあります。

外科手術実績

岐阜大学動物病院 医療設備:手術

放射線治療

局所治療の手段として、単独もしくは外科治療や化学療法と併用して用いられます。根治目的以外にも緩和目的や鎮痛目的で使用されます。治療の際には鎮静もしくは麻酔を行います。照射そのものに伴う苦痛はほとんどありません。

腫瘍の種類や使用目的によりプロトコールは異なりますが、1回の治療で終了することはほとんどなく、複数回の治療が必要です。 副作用には数週間から数か月で発生する急性障害と、数か月から数年後に発生する晩発障害があり、どちらも放射線照射部位に認められます。障害をなるべく軽度にするため、照射プランを工夫しています。

放射線治療実績

岐阜大学動物病院 医療設備:放射線治療

化学療法(抗がん剤)

抗がん剤を用いた全身療法であり、腫瘍細胞の増殖を抑えたり、再発や転移を防いだりする効果があります。腫瘍の種類によっては単独で使用されますが、外科治療や放射線治療といった局所治療との併用でも多く用いられます。抗がん剤には様々な種類があり、腫瘍の種類や動物の状態に応じて選択されます。腫瘍細胞だけでなく正常な細胞も攻撃するため、白血球減少や消化器症状などの副作用が生じることがあります。副作用の程度は個体によっても異なりますので、より効果的でなるべく副作用を軽減できるよう、経過を見ながら投与量や投与間隔を調整していきます。

また、特異的治療として近年急速に臨床応用されている分子標的薬を積極的に導入しています。副作用がまったくないわけではありませんが、腫瘍のもつ特定の分子を狙い撃ちにするため正常な細胞へのダメージが少なく、負担が軽減できることがあります。

緩和ケア

WHOが2002年に改訂した、人の緩和ケアに対する定義は以下の通りです。『緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、 苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである』。

緩和ケアは末期医療のイメージがありますが、近年、人医療でもがんの診断時、もしくはがん治療の初期から基本的な緩和ケアを提供することが提唱されています。当院でも積極的な治療が困難な動物たちはもちろん、闘病中の動物たちに対しても苦痛を少しでも和らげる治療をご提案しています。また、治療に伴い飼い主様の抱える不安や疑問に対するカウンセリングや、一時的に介護を代替するデイサービスもお受けしております。

緩和ケア受診の際の注意事項

  • ご家庭で飼育されている犬と猫が対象となります。
  • 岐阜大学動物病院を受診されたことのない患者様の場合、かかりつけ医からの紹介状が必要となります。
  • 現在岐阜大学動物病院を受診中の患者様は、病状に応じて転科していただくか、もしくは現在の診療科と平行しての受診が可能です。
  • 病状を正確に把握するため、いくつかの検査をおすすめする場合があります。
  • 健康な動物のペットホテルはお受けしておりませんので、ご了承ください。

緩和ケア担当獣医師川部美史

所属学会 公益法人 日本獣医師会
日本獣医がん学会
日本医療・環境オゾン学会
日本緩和医療学会
資格 獣医師免許
第1種放射線取扱主任者
上級心理カウンセラー