診断・治療 顕微鏡下手術

脳や脊髄は非常にデリケートな組織であるため、手術操作によって傷つけないよう細心の注意が必要です。そのため、当科では外科治療に手術用顕微鏡を用いて、侵襲度の低いMinimum Invasive Neurosurgeryに力を入れています。

手術用顕微鏡を用いることで、肉眼では見えない部分も詳細に観察できるため、より繊細な操作が可能となり、組織損傷を最小限にすることができます。また顕微鏡で見える映像はスクリーンに写しだされ、術者や助手以外の人も手術状況を詳細に確認できるため、より高度なチーム医療を実現できます。

脳疾患の顕微鏡下手術

近年、獣医領域においても人医療と同様にMRI検査やCT検査などの高度画像診断診断が普及しました。これらの高度画像診断機器の普及により、脳疾患の診断が可能になり、それに伴って外科手術を含む様々な治療法を選択できるようになりました。

脳外科手術の適応としてもっとも多いのが脳腫瘍です。脳腫瘍の手術では、「可能な限り腫瘍を切除」し、かつ「可能な限り正常な脳は傷つけない」ことが重要となります。そのためには、腫瘍へ正確にアプローチをすること、腫瘍と正常脳組織の境界を見極めることが大事です。

MRIの画像でははっきりと見える腫瘍でも、実際は皮膚や骨、場合によっては正常な脳組織に覆われており、外からはどこに腫瘍があるかは見えません。また、犬や猫は人に比べて頭のサイズが小さく、数cm四方の限られた術野の中で手術を行うため、手術中にどこからどこまでが腫瘍なのか(正常組織なのか)を判断するのは、実際には難しいことがあります。当科では、最新の手術支援法を用いて、その問題に取り組んでいます。

脳外科用手術顕微鏡の導入

手術顕微鏡を用いることで、術野を細かい部分まで観察することができ、正常脳組織と腫瘍の微妙な性状の違いを捉えることができます。また、当科で使用している顕微鏡(Leica Microsystems)はアーム部分が自由に動くため、様々な角度から術野を観察でき、腫瘍の取り残しを最小限にすることができます。

手術顕微鏡下での術野
後頭骨の切除後。小脳(矢印)が観察される。吸引管(矢頭)の先端の太さは1.5 mmである。小さな術野でも構造を詳細かつ鮮明に観察することができる。

3D画像による手術支援

腫瘍切除のアプローチの際に重要なことの一つとして、「頭蓋骨のどの部分の骨を切除するか」が挙げられます。CT検査で得られた骨のデータと、MRIで得られた腫瘍のデータをフュージョン(融合)させることで、正確な頭蓋骨切除が可能となりました。

手術支援用の3D fusion画像
側頭葉の腫瘍切除のイメージ画像。紫色の部分がMRI検査のデータから構築した脳腫瘍のイメージ。頭蓋骨3D画像はCT検査データから構築した。腫瘍へアプローチするための頭蓋骨切除範囲を容易にイメージできる。

術中腫瘍染色

腫瘍か腫瘍ではないかを判断するのは、正常脳組織との性状の違い(色調や柔らかさなど)で判断されますが、狭くて暗い術野の中では、判りにくいこともあります。その問題を解決してくれるのが、腫瘍染色という方法です。特殊な染色液を血管内に投与すると、染色液は腫瘍内にとりこまれ、腫瘍組織と正常組織に色調差が生じます。当院では「フルオレセイン」という黄色の色素を用いて、術中腫瘍染色を行っています。フルオレセインを用いることで、アプローチの正確性や腫瘍の切除率の向上が期待できます。手術中のフルオレセイン投与の有用性については、Veterinary Surgeryに論文投稿しました。

フルオレセインで染色した脳腫瘍
転移性脳腫瘍の手術画像。白色の正常脳組織の中に、フルオレセインで黄色く染色された腫瘍組織(矢印)が認められる。

術中超音波

脳の中にある腫瘍(実質内腫瘍)は、脳の表面から見てもどこに腫瘍があるかわかりません。正常な脳組織をなるべく傷つけずに腫瘍を摘出するには、最短距離でのアプローチが理想的です。手術中に脳の表面から超音波検査を行うことで、脳の中のどの部分に腫瘍があるかがわかり、直下に腫瘍がある部分から脳実質内にアプローチすることができます。

脳幹部腫瘍の術中超音波画像
脳幹(矢印)の上に腫瘍(矢頭)が明瞭に確認できる。

脊髄疾患の顕微鏡下手術

脊髄にできた病変や脊髄を下方から圧迫する椎間板ヘルニアの摘出では、いかに正常脊髄を損傷せずに病変を摘出するかが、手術成績に大きく影響します。動物(犬や猫)の脊髄の直径は太いところでも1cm程度ですので、この操作を肉眼的に行うことは非常にリスクが高いのです。また脊髄の下方に隠れるように存在する病変や、奥深く浸潤する病変に対しては、拡大視野を得ることが重要になります。アームが自在に動く手術用顕微鏡は、これらの病変の摘出に向いています。また深部まで光が届くのもメリットです。当科では、最も多い椎間板ヘルニアの手術の際にも、必ず手術用顕微鏡を使用して手術を行っています。

胸部椎間板ヘルニア(椎間板摘出前)
椎間板物質が脊髄を圧迫している
椎間板物質の摘出後
椎間板が摘出され、脊髄の圧迫が除去された

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岐阜大学附属動物病院 神経科

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