Journal Club 201709

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2017.09

骨腫瘍の、細胞診と組織診による診断精度の比較

Comparative assessment of the accuracy of cytological and histologic biopsies in the diagnosis of canine bone lesions.

Sabattini S, Renzi A, Buracco P, et al. J Vet Intern Med. 2017;31(3):864-871.

背景:骨肉腫 (OSA) は他の骨原発の悪性腫瘍、転移性病変、腫瘍様病変のような疾患とは、治療や予後が変わってくるため、区別されるべきである。よって術前に組織診断を行うことが一般的に推奨される。この手技では全身麻酔下での複数部位からのバイオプシーが必要であり病的骨折を含む合併症の可能性がある。FNAによる細胞診は、不快感や合併症が有意に低い迅速診断法である。
目的:本研究では、犬の骨破壊性病変の診断における細胞診と組織生検の診断精度を比較することを目的とする。
動物:骨病変を患った68頭の犬
方法:レトロスペクティブ研究。診断精度の評価は、細胞診や組織生検の結果と、外科摘出または剖検にて得られたサンプルの最終的な組織診断の結果または腫瘍症例以外のものについてはフォローアップデータを比較することで行った。
結果:68頭の内訳は、50頭が骨原発の悪性腫瘍(OSA40頭、軟骨肉腫5頭、線維肉腫2頭、未分化肉腫3頭)、6頭が悪性腫瘍の転移病変、12頭が非腫瘍性病変だった。細胞診の診断精度は83%(感度83.3%、特異度80%)であり、組織診断では82.1%(感度72.2%、特異度100%)であった。腫瘍タイプを正確に特定したものは細胞診では全症例のうち50%、組織診では全症例のうち55.5%であった。
結論と臨床的意義:細胞診の診断精度は腫瘍タイプの決定でさえも組織診と同じような結果になった。細胞診にて悪性腫瘍と診断されたものには組織診断で良性腫瘍と診断が変わるケースはなかった。このことが最も重要な阻止すべきエラーである。なぜなら悪性の骨腫瘍であった場合積極的な外科治療が選択されるからである。細胞診が、犬の骨病変において手術前の決定を担えるほどに信頼できる診断法になるには、更なる調査が必要である。

コメント

骨破壊病変に対して、細胞診のみで”腫瘍ではない”と言い切ることは、臨床的に勇気が必要だ。そういった意味では特異度80%という数値は、やや心もとない気がする。

2017.09

2つの受容体を発現させたT細胞による免疫療法

Combining a chimeric antigen receptor and a conventional T-cell receptor to generate T cells expressing two additional receptors (TETARs) for a multi-hit immunotherapy of melanoma.

Uslu U, Schuler G, Dörrie J, et al. Exp Dermatol. 2016;25(11):872-879.

体外で設計されたT 細胞を養子移植するという免疫療法は、メラノーマの免疫治療に対して重要なアプローチを示している。しかし、腫瘍細胞が獲得した抗原喪失、MHC提示機構の低下、抗原プロセッシングの破綻などの免疫回避機構により、腫瘍細胞は再発するかもしれない。これらの機構に対抗するため、今回の研究ではメラノーマ関連抗原の1つであるgp100 に特異性を有するT 細胞受容体と、メラノーマ関連抗原の1つであるMCSP に特異性を有するキメラ抗原受容体を組み合わせて、これらの受容体を受容体の情報がコードされたmRNA を電気穿孔でT 細胞に導入することで、機能性を維持したまま2つの受容体を発現できるCD8陽性T 細胞(TETARs)を生み出した。これらのTETARs は、それぞれの受容体が特異性を有する抗原を認識した後、サイトカインを分泌したり、細胞溶解性を示したりする。さらには導入された2つの受容体どうしで相互阻害は起こらない。2つの抗原を発現している標的細胞によって刺激を受けたとき、増強効果が提唱されている。キメラ抗原受容体とT 細胞受容体は機能的に組み合わせることができ、このことはがんの免疫治療に新たな道を開いた。またTETARs を生み出すことは、腫瘍細胞が免疫応答から逃れる主要な免疫回避機構に対する対抗策を打ち出す。

コメント

理論に裏打ちされた次世代の免疫療法といえる。実用化のためには技術面や費用面などでハードルが高いようだが、メラノーマ以外の腫瘍にも応用できると思われるので、今後の研究に期待したい。

2017.09

犬の腫瘍細胞株に対する食品由来成分の抗腫瘍効果

Effects and synergy of feed ingredients on canine neoplastic cell proliferation.

Levine CB, Bayle J, Biourge V, et al. BMC Vet Res. 2016;12(1):159.

背景:人のがんに対して機能性食品の補助的な使用は効果があると示されてきたが、犬の腫瘍に対してはほとんど研究されていない。以前人に対して行った実験では、ポリフェノールとカロチノイドはin vivoでもin vitroでも複数の経路を標的にすることができることを示した。ポリフェノールとカルチノイドは現在行われている化学療法と相乗もしくは拮抗し、これらの化学療法で用いる薬剤の効果を増強もしくは減弱する。ほとんどの犬に対して食事をうまく管理、ルーチン化できることを考えれば、ペットフードと共に与える機能性食品の使用は魅力的であり、機能性食品として用いられる抽出物が寛解率を向上させられるのではないかと考えた。この研究の目的は、5つの成分の抗腫瘍効果と、in vitroで犬の腫瘍細胞株を扱う際にトセラニブリン酸塩やドキソルビシン塩酸塩との相互作用についても調べる事である。
結果:MTT増殖アッセイを用いたスクリーニングでは、緑茶、ターメリックそしてローズマリーの抽出物が最も効果的であった。ターメリックの抽出物(TE)は最も強力であり、1~25μg/mlの濃度ではローズマリーの抽出物(RE)と相乗効果を示した。この組み合わせはそれぞれの細胞株について決められた濃度では、化学療法で用いる薬剤と相加的もしくは相乗的な効果があった。組み合わせ療法が正常細胞に対して用いられた時には、細胞生存率に有意な低下は見られなかった。
結論:ターメリックとローズマリーの抽出物の組み合わせが従来の化学療法の効果に悪影響を及ぼさないのであれば、前臨床もしくは臨床において使用する価値があるかもしれない。さらに、抽出物の薬物動態や作用機序に関する研究はなされるべきである。

コメント

抗腫瘍効果を最大限に引き出すための食品の摂取量などは、血中濃度を調べないと分からないだろう。また、腫瘍細胞株は3種類、抗がん剤についても2種類しか調べられておらず、「ローズマリーとターメリックは摂取すればどんながんにも効く」というような拡大解釈をしないよう気をつけるべきである。