Journal Club 201809

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.09

呼吸困難を示す患者における強オピオイドの有効性

Symptomatic therapy of dyspnea with strong opioids and its effect on ventilation in palliative care patients.

Clemens KE, Klaschik E. J Pain Symptom Manage. 2007;33(4):473-481.

本研究は呼吸困難の緩和のために強オピオイドによる対症療法を受けた患者において換気へのオピオイドの影響を評価した. モルヒネとヒドロモルフォンのタイトレーション中における動脈血酸素飽和度(SaO2), 経皮二酸化炭素分圧(tcPCO2)、呼吸数(f)、脈拍数(PF)の変化を計測し評価した. 本研究の目的は, 呼吸困難の管理におけるオピオイドの有効性を検証し, 換気への影響を評価し, オピオイド投与前の経鼻酸素吸入は呼吸困難強度の低減に寄与するかどうかを示すことである. 我々の緩和ケア病棟に入院した11人の患者をプロスペクティブな非ランダム化試験に組み入れた. 入院時すべての患者は呼吸困難を呈しており, tcPCO2, SaO2, PFはSenTec Digital Monitorを用いて経皮的に計測された. 酸素吸入中, 呼吸困難強度は変化しなかった.一方で, オピオイドは呼吸困難の有意な改善を認めた(P=0.003). 平均呼吸数は初回のオピオイド投与後30分後, 呼吸数は1分あたり41.8±4.7から35.5±4.2へ、90分後には25.7±4.5へ低下した. しかしながら, モニターしたその他のパラメーターには有意な変化を認めなかった. オピオイドに起因する呼吸抑制は認められなかった.

コメント

呼吸困難に関する研究は患者の主観的な評価に基づくため, 何かを投与されたという行為に対する心理的な要因が影響している可能性が否定できない.また疼痛を呈している症例の割合の記載がなく, 呼吸困難を低減させた機序に関する考察が乏しい点が残念であった. 本研究においては低酸素血症を呈していない患者がほとんどであり, 低酸素血症の症例においてもオピオイドが安全に使用可能かについてはさらなる検討が必要と思われる.
現在, 呼吸困難を呈するがん患者に対するモルヒネの使用は人医療において強く推奨されており(エビデンスレベル:1B), 獣医療においても使用は考慮されるが不安感や恐怖などの心理的な要因がどの程度動物の呼吸困難に関与しているかは不明であり, 人と同様の効果が得られるかは定かではない. また呼吸困難の程度は患者本人の申告に依存しているため, 動物では薬物療法が奏功しているかどうかの評価が困難である(家族による主観的な評価に依存するしかない).それゆえ動物におけるタイトレーションは人よりも難しく, モルヒネは人よりもさらに慎重に投与しなければならない.

2018.09

犬の膀胱癌に対する近赤外線光線免疫療法(NIR-PIT)

Near infrared photoimmunotherapy targeting bladder cancer with a canine anti-epidermal growth factor receptor (EGFR) antibody.

Nagaya T, Okuyama S, Ogata F, et al. Oncotarget. 2018;9(27):19026-19038.

抗EGFR抗体を用いた治療は、肺癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌などEGFRの発現がある癌で行われてきたが、報告はあまり多くはない。近赤外線光線免疫療法(NIR-PIT)は、近赤外線光によって活性化される抗体-光吸収接合体を活用した高度に選択性の高い癌治療法である。NIR-PITはcetuximab-IR700接合体を用いて、再発性の頭頸部癌の臨床試験が行われている。しかし、その利用はそれ以外においてはマウスモデルに限られている。NIR-PITはより広く動物モデルに用いられるように検討されてきた。我々は、犬の臨床研究の可能性を見るため、3つのEGFR発現犬移行上皮癌(TCC)細胞株を用い、組み換え犬抗EGFRモノクローナル抗体(mAb)であるcan225IgGと光吸収因子のIR700DXの接合体の効果を検討した。in vitroの実験において、Can225-IR700接合体はEGFR発現細胞において、NIR-PIT後に特異的な発現と細胞特異的な細胞毒性を示した。in vivo研究において、can225-IR700接合体は、高い腫瘍—背景比蛍光高度を示した。腫瘍を移植したマウスは、4群に分けた。(1)無治療群(2)can225-IR700 を100ug iv投与群(3)NIR光線投与群(4)can225-IR700 を100ug iv投与し、NIR光線を当てた群。腫瘍の成長は他の群と比較してNIR-PIT治療群で有意に抑制された(p<0.001)。また、治療群において生存期間が有意に延長した(他の群と比較してp<0.001)。can225-IR700を用いたNIR-PITは、犬の浸潤性移行上皮癌を含む犬のEGFR発現癌治療に有効であり、人への治療にも応用できる可能性があると結論づけることができる。

コメント

NIR-PIT治療に関する論文は、昨年から多く出されている。アメリカに続き2018年3月から日本においても再発性頭頸部癌に対する臨床試験が始まり、その成果が注目されるところである。今回犬のEGFRに対してのモノクローナル抗体であるcan225IgGとIR700の接合体を用いて、犬の膀胱癌に対してin vitro及びin vivoで効果が認められたことは大きな意味があると考える。今後犬の他のEGFR発現癌に対する効果にも期待したい。