Journal Club 201906

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2019.06

犬の口腔内腫瘍診断時の所属リンパ節はどこまで生検すべきか

Histologic evaluation of mandibular and medial retropharyngeal lymph nodes during staging of oral malignant melanoma and squamous cell carcinoma in dogs.

Grimes JA, Mestrinho LA, Berg J, et al. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(8):938-943.

目的:口腔内扁平上皮癌(OSCC)や口腔内悪性メラノーマ(OMM)罹患犬のステージングにおいて、下顎リンパ節(MLN)や内側咽頭後リンパ節(MRLN)への転移病巣を組織学的に調べ、評価すること。
研究デザイン:多施設における回顧的研究
供試動物:OMM罹患犬27頭、OSCC罹患犬21頭
方法:2004年1月から2016年4月までの間にOMMもしくはOSCCに罹患し、片側もしくは両側のMLNやMRLNを切除した犬の症例を8つの施設の医療記録から調べた。記録には、シグナルメント、原発腫瘍の部位とサイズ、診断的画像検査結果、原発腫瘍とすべてのリンパ節の組織学的評価および転移の有無が含まれた。
結果:リンパ節転移の発生率は、OMM罹患犬で37%(10/27)、OSCC罹患犬で29%(6/21)と有意差はなかった。遠隔転移はOMM罹患犬で11頭(41%)見つかり、OSCC罹患犬では1頭のみが疑われた。また、リンパ節への転移が見つかった16頭の犬のうち、13頭でMRLNへの転移があり、そのうち3頭ではMLNへの転移はなく、MRLNへのみ転移が見つかった。原発腫瘍の反対側のリンパ節の切除を受けた17頭中4頭で転移が見つかった。
まとめと臨床的意義:結果は、OMMやOSCCに罹患した犬においてリンパ節への転移を評価するには同側のMLNだけで判断しては不十分であることを示している。それゆえ、このような犬ではMLNやMRLNなどのリンパ節のグループ全てを切除することが推奨される。

コメント

著者らの主張の通り、一般的には下顎リンパ節へ転移を起こす口腔内腫瘍が、同側の内側咽頭後リンパ節や対側の下顎もしくは内側咽頭後リンパ節へと転移するケースが時々見られる。したがって同側の下顎リンパ節のみを評価していては正しいステージングができていないということであり、本研究の結果の示す意義は大きい。しかし同側および対側の下顎および内側咽頭後リンパ節をすべて摘出すべきである、という著者らの結論は臨床診療への普及を考えるとやや言い過ぎのような気もする。そういった意味ではセンチネルリンパ節を同定し、それのみを評価するという診断プロセスが有用なのではないかと考える。

2019.06

永久気管切開を行った犬は長期生存ができるのか

Long-term outcome and risk factors associated with death or the need for revision surgery in dogs with permanent tracheostomies.

Grimes JA, Davis AM, Wallace ML, et al. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(9):1086-1093.

目的:永久気管切開(PTs)を行なった犬の予後評価と死因の特定。
研究デザイン:レトロスペクティブコホート研究
症例:2002年1月~2016年6月の間に4つの獣医教育病院に来院しPTを受けた犬69頭。
方法:カルテよりシグナルメント、ヒストリー、臨床症状、レントゲン検査所見、頚部触診所見、食道の異常、PTを受けた理由と日にち、術後合併症、死因、生存期間について抽出した。術後2週間以内に死亡した症例は除外した。
結果:重大な合併症は42/69頭(61%)で見られた。主な合併症は誤嚥性肺炎(13頭[19%])、皮膚のたるみによる閉塞(skinfold occlusion)(13頭[19%])、孔の狭窄(12頭[17%])が見られた。再手術は24/69(35%)頭で行い、主な理由は皮膚のたるみによる閉塞や孔の狭窄だった(それぞれ9/24頭[38%])。短頭種はそうでない犬種に比べ再手術のリスクが高まった(OR, 3.5; 95% CI, 1.2〜10.2)。全生存期間中央値は1825日であり生存期間を短縮させる要因は、術前のステロイド使用、気管虚脱の存在、老齢であることだった。
結論と臨床的意義:本研究結果からPTは上部気道閉塞病変のある症例に対して長期生存を期待できる治療オプションだが誤嚥性肺炎のリスクは避けられない。

コメント

飼い主にとっても獣医師にとっても永久気管切開は大きな決断であり,本研究はその術前のインフォームに必要な重要な情報が含まれている。短頭種や気管虚脱の存在など避けられないリスク要因がある一方で,手術手技や術後管理などは経験やチーム医療により改善させていくことができる。本研究の解釈には術後2週間以内に死亡した症例を除外していることには注意が必要で,周術期の気道閉塞等の合併症についても当然のことながら獣医師は留意しなければならない。