Journal Club 202002

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.02

犬の褐色細胞腫に対するトセラニブの有効性は

Retrospective evaluation of toceranib phosphate (Palladia®) use in the treatment of inoperable, metastatic, or recurrent canine pheochromocytomas: 5 dogs (2014-2017).

Musser ML, Taikowski KL, Johannes CM, et al. BMC Vet Res. 2018;14(1):272.

背景:手術不能、転移性、または再発したイヌの褐色細胞腫に対する効果的な治療選択肢は不足している。ヒトでは、褐色細胞腫の発生を促進させる特定の生殖細胞変異が存在する。これらの異常に対する小分子阻害剤による治療は効果的な治療戦略である。イヌにも同様の変異が存在する可能性があるため、同様の小分子阻害剤による治療は生存期間を改善させる可能性がある。この研究の目的は、手術不能、転移性、または再発したイヌの褐色細胞腫に対するリン酸トセラニブの役割を評価することであった。
結果:回顧的に褐色細胞腫と診断された、または疑わしいと診断された犬の医療記録が、リン酸トセラニブへの反応および全生存期間に関する情報のためにレビューされた。5例のイヌが組入れ基準を満たした。 全5例が臨床的有用性を示した(1例が部分奏効、4例が維持病変)。部分奏効を示したイヌの無増悪期間(PFI)は61週間であった。測定可能であった維持病変の2例のイヌのPFIは36週間と28週間であった。転移性疾患を有する2例の維持病変であったイヌのPFIは、少なくとも11週間および18週間であった。
結論:この限られた症例群の結果は、トセラニブが原発性および転移性の褐色細胞腫のイヌにおいて生物学的活性を持っているかもしれないことを示唆している。肉眼的、顕微鏡的、および転移性褐色細胞腫のイヌにおけるトセラニブの使用と奏効性を確定させるには、より大規模な研究が必要である。

コメント

5例のみでのcase seriesのため有効性の評価は保留とせざるを得ないが、褐色細胞腫は静脈内への浸潤を含む強い浸潤性を示すことから、外科手術を断念しなくてはならない状況に遭遇することも多い。そうした中で有効な内科治療が示されれば使用する機会は多いのではないかと思われる。ただしトセラニブの副作用として高血圧が生じうることについては、特に褐色細胞腫の症例においては気をつけなければいけない問題点であろう。