Journal Club 201704

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2017.04

口腔内腫瘍に対する根治的切除術を実施した犬の転帰と予後因子

Outcome and prognostic factors following curative-intent surgery for oral tumours in dogs: 234 cases (2004 to 2014).

Sarowitz BN, Davis GJ, Kim S. J Small Anim Pract. 2017;58(3):146-153.

目的;犬の口腔内腫瘍に対して根治的⼿術を行った際の転帰と予後因⼦の分析。
方法;根治的⼿術を⾏った口腔内腫瘍の⽝のカルテを回顧的に評価。データはシグナルメント、体重、術式、リンパ節のステージング、CT、腫瘍サイズ、マージン評価を含めた病理、合併症、補助治療、局所再発または転移、⽇付、死因、オーナーの満⾜度。
結果;⽣存期間中央値は悪性メラノーマ(206 ⽇)、⾻⾁腫(209 ⽇)で最短であった。局所再発率は線維⾁腫(54.2%)で、遠隔転移は悪性メラノーマ(30%)で最も⾼かった。根治的⼿術による完全切除は全体の85.2%であった。
臨床的意義;腫瘍のタイプ、完全切除、腫瘍サイズ、年齢は無再発期間や疾患特異的⽣存率に影響を及ぼすかもしれない。線維⾁腫は他の腫瘍と⽐べて再発の危険性が⾼い。

コメント

CTやMRIなどを術前に利用することで、広範囲な切除が可能になってきていると思われる。しかし腫瘍の種類や発生部位によっては再発率が未だ高いため、他の治療法の併用が必要になる機会も多いようである。

2017.04

犬の膀胱移行上皮癌に対する部分切除手術の効果

Clinical outcome of partial cystectomy for transitional cell carcinoma of the canine bladder.

Marvel SJ, Séguin B, Dailey DD, et al. Vet Comp Oncol. 2017 Feb 20. doi: 10.1111/vco.12286. [Epub ahead of print]

犬の膀胱移行上皮癌(TCC)は、現在まで抗がん剤とCOX阻害剤及び放射線治療の併用で治療されている腫瘍である。一方、外科療法は膀胱移行上皮癌にかつては用いられた治療法であるが、未だその効果のほどは確立されていない。膀胱部分切除を実施した37頭の犬を対象に、追加治療の有無による転帰の違い及び予後因子の決定を回顧的に実施した。膀胱部分切除+/-補助療法の無病期間中央値(PFI)と生存期間中央値(ST)はそれぞれ235日と348日であった。STの予後因子は単変量解析にて年齢、腫瘍の位置、全層切除の実施、ピロキシカムの投与頻度において有意な差が認められた。PFIの予後因子は全層切除とピロキシカムの投与頻度に有意差が得られた。STは化学療法の有無に関わらず、膀胱部分切除術及び毎日のピロキシカム投与にて772日であった。非膀胱三角発生の膀胱TCCにおいて、全層切除+ピロキシカムの毎日投与によって従来の内科療法と比較し、予後が改善される可能性がある。

コメント

ピロキシカムの投与頻度が予後因子として挙げられていることは興味深い結果である。しかし、今回の症例群は部分切除術が適応できる程度の病変であることから、生存期間には解釈に注意が必要と思われる。

2017.04

犬の肥満細胞腫における、細胞診による悪性度分類と臨床経過

Cytologic criteria for mast cell tumor grading in dogs with evaluation of clinical outcome.

Camus MS, Priest HL, Koehler JW, et al. Vet Pathol. 2016;53(6):1117-1123.

犬の皮膚肥満細胞腫(MCT)に用いられる2段階の組織学的グレード分類は、核の大小不同、多核、核の多形性、核分裂像を含む腫瘍細胞の形態学的特徴に基づいている。MCTの針吸引では同様な情報がより迅速に安価かつ低侵襲に得られるかもしれない。本研究では細胞学的グレード分類を発展させ、犬のMCTの転帰を予測するための検討を行った。3人の解剖病理医は、152頭のMCTの組織学的サンプルをグレード分類した。3人の臨床病理医が同様の基準を用いて、これらの腫瘤の針吸引サンプルを評価した。細胞学的グレード分類は組織学的グレードとの一致率に基づき作成され、κ統計量により評価された。生存期間はカプランマイヤー生存曲線により評価された。Cox比例ハザード回帰は腫瘍グレードのハザード比や個々のグレードの構成要素を評価するために用いられた。単純ロジステッィク回帰はリスク因子と死亡率との関連を評価するために実施された。細胞学的グレード分類は、顆粒が乏しいかあるいは以下の4つのうち2つを最低満足した際に高グレードとした場合、組織学的グレードと最も一致した(kappa = 0.725±0.085):核分裂像、二核あるいは多核、核の多形性、>50%の核の大小不同。細胞学的グレード分類と組織学的グレード分類との比較では感度88%、特異度94%であった。組織および細胞診で高グレードのMCTの犬では2年以内のフォローアップ期間においてそれぞれ低グレードの犬よりも39倍、25倍死亡しやすい傾向にあった。高グレードの腫瘍は新規の腫瘍病変や腫瘍の再増大が発生する確率の増加と関連があった。本研究の結果から、細胞学的グレード分類は治療計画や予後予測に有用であることが結論づけられた。

コメント

細胞診で肥満細胞腫のグレード分類が可能になることの最大のメリットは、術前にその腫瘍の挙動を把握できるということであろう。今後、診断法として標準化されることが期待される。