Journal Club 201706

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2017.06

犬の骨肉腫に対するドキソルビシンとカルボプラチンを用いた加速療法

Canine osteosarcoma treated by post-amputation sequential accelerated doxorubicin and carboplatin chemotherapy: 38 cases.

Frimberger AE, Chan CM, Moore AS. J Am Anim Hosp Assoc. 2016;52(3):149-56.

犬の四肢の骨肉腫は臨床上重要な問題である。近年のスタンダードな治療では、断脚の後に予後を改善するための化学療法が行われている。しかし長期間生存する割合は15~20%とまだ比較的低い。予後因子と確定されたものの中には血清アルカリホスファターゼ濃度、組織的グレード分類、リンパ球と単球の数がある。我々は薬剤強度を増加させることが予後を改善させるかどうかを調査するため、有効性があると知られている薬剤を基に、標準治療よりも間隔が短いがそれでも良好な耐容性を示すと予測されたプロトコールを用いて検討した。肺への転移がなく四肢の骨肉腫と確定され、断脚後にこのプロトコールで化学療法を行った38頭の犬を回顧的に評価した。生存期間の中央値は317日で1年生存率は43.2%、2年生存率は13.9%であった。毒性は標準プロトコールを行ったものと同様で、合併症によって入院した5.2%の犬はサポートケアにより回復し、さらに化学療法に関連した死亡はなかった。正常もしくは高値の血清アルカリホスファターゼ濃度(p=0.004)および、化学療法が最後まで行われたかどうか(p=0.001)が多変量解析において生存期間に有意な影響を与えるとわかった。予後は骨肉腫のある犬に対して化学療法を行ったほとんどの報告と同様であった。

コメント

さまざまなプロトコルが研究されている犬の骨肉腫であるが、本報告を含めなかなか今までの成績を上回ることができていないのが現状である。しかし、抗がん剤の投与間隔を短縮しても毒性が増強されないという結果は、他の腫瘍においては有益な結果をもたらすかもしれない。

2017.06

犬の肝疾患に対するバイオマーカーとしての血清microRNA

Use of serum microRNAs as biomarker for hepatobiliary diseases in dogs.

Dirksen K, Verzijl T, Grinwis GC, et al. J Vet Intern Med. 2016;30(6):1816-1823.

現在の生化学検査では、肝胆道系疾患において、それが肝実質性、胆道系、血管系、腫瘍性のうちのいずれなのかは識別できない。MicroRNAs は人や犬において、肝胆道系の病気を識別するための新たなバイオマーカーとして期待されている。今回の研究は、ヒトの文献に基づいた腫瘍由来のmiRNA であるmiR-21・miR-126、肝細胞由来のmiRNA であるmiR-122・miR-148a、胆管細胞由来のmiRNA であるmiR-200c・miR-222 をそれぞれの肝胆道系の病気を患った犬において、①血清中の濃度を測ることができるかどうか、また②血清miRNA をバイオマーカーとして犬の肝胆道系の病気の鑑別に用いることができるか、を目的とした。動物は肝胆道系の病気と診断されている46 頭の犬と、コントロールとして11 頭の健康なラブラドール・レトリーバーのそれぞれの血清サンプルを用いた。今回の研究は後ろ向き研究である。肝実質性・胆管系・血管系・腫瘍性の肝胆道系の病気のグループと、コントロール群の医療記録を回顧的に調査する。また血清に存在する6 つのmiRNA の濃度をリアルタイムPCR で定量した。結果は以下のようになった。miR-21 は慢性肝炎、粘液嚢腫、肝細胞癌、リンパ腫で有意に上昇した。miR-122 は急性肝炎、慢性肝炎、粘液嚢腫、その他の胆管疾患、肝細胞癌、リンパ腫で有為に上昇した。miR-126 は慢性肝炎で有意に上昇した。miR-200c は肝細胞癌で有意に上昇した。またmiR-222 は粘液嚢腫、肝細胞癌で有意に上昇した。miR-148a はどの病気のグループも有意な上昇を示さなかった。結論として、miR-148a を除く6 種類で構成されたmiRNA のプロファイリングは肝胆道系の病気を、血管系を除き、鑑別することができる可能性を示していた。

コメント

人医療においても、いくつかのmicroRNAを組み合わせることで、腫瘍の早期診断をする研究が盛んに行われている。肝臓ではさまざまな疾患が発生しうるため、高精度な診断のためには、それぞれのmicroRNAのカットオフ値の設定が重要であると考えられる。

2017.06

犬リンパ腫の寛解と再燃をモニタリングする血清バイオマーカー

Utility of a multiple serum biomarker test to monitor remission status and relapse in dogs with lymphoma undergoing treatment with chemotherapy.

Alexandrakis I, Tuli R, Ractliffe SC, et al. Vet Comp Oncol. 2017;15(1):6-17.

化学療法を受けているリンパ腫罹患犬における寛解と再発の評価を行うために盲検化後ろ向き研究を行った。本研究の目的は、臨床医の評価(触診および細胞診)と血清生化学的検査結果(ハプトグロビン [Hapt] とC反応生蛋白 [CRP] )を比較することである。これら複数の血清生化学的検査結果は344頭の犬からのデータを用いて開発された診断アルゴリズムを用いて一つの数値に統括した。この多変量解析にて算出した検査結果(Canine Lymphoma blood test [cLBT])を用いて、治療中もしくは治療後のリンパ腫罹患犬57頭について評価した。
寛解期および再発時のcLBTは臨床医の評価より先に(リンパ節腫脹が見られるより前に)有意に早期に評価を行うことができた (p<0.001)。予後不良症例では治療前段階におけるcLBT値がその後の予後の客観的指標となり、治療期間中にcLBT値が最低値を達成した場合は予後が良好である可能性が示唆された。したがって、本研究は犬リンパ腫の治療経過をたどる上で有益なものとなる可能性がある。

コメント

cLBTは国内ではまだ測定できない状態である。早期に再燃を検出し、抗がん剤治療を再開することがリンパ腫の予後を改善させるのかどうか、海外からの報告が待ち遠しい。

2017.06

手術誘導性のリシンオキシダーゼを制御することによる肺転移抑制

Blocking surgically induced lysyl oxidase activity reduces the risk of lung metastases.

Rachman-Tzemah C, Zaffryar-Eilot S, Grossman M, et al. Cell Rep. 2017;19(4):774-784.

がん治療において外科手術は依然として最も有効な治療法である。しかし、手術を受けた早期がん患者において、結果的に遠隔転移が起こることがある。今回我々は、手術侵襲によって生じた細胞外基質の変化により、肺が転移の影響を受けやすくなることを示した。手術を経験したマウス、または手術を経験したマウスの血漿を前処理されたマウスは、コントロールと比べて早期に肺転移を起こした。リシンオキシダーゼ(LOX)活性と発現の増加、線維状コラーゲンの架橋、接着点シグナルがこの効果を引き起こす、LOXの供給源としての低酸素の術創によって。さらに、大腸がん患者の術後血漿を接種されたレシピエントマウスは、正常な血漿を接種したマウスよりもより転移性播種を引き起こしがちであった。LOXの活性またはレベルを抑制することで、術後の肺転移を減少させて生存日数を増加させるが、このことは術後の転移リスクの減少においてLOX抑制の重要性を強調している。

コメント

腫瘍と無関係の部位に手術を加えても転移が促進されるという結果は興味深い。臨床現場において、手術後に腫瘍の悪性度が増したような印象を受けることを時々経験するため、妙に説得力のある文献であった。