Journal Club 201707

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2017.07

肺エコーを用いた犬と猫の心原性肺水腫の診断精度

Accuracy of point-of-care lung ultrasonography for the diagnosis of cardiogenic pulmonary edema in dogs and cats with acute dyspnea.

Ward JL, Lisciandro GR, Keene BW, et al. J Am Vet Med Assoc. 2017;250(6):666-675.

目的:呼吸困難の犬、猫における心原性肺水腫(CPE)と診断するために作られたポイントオブケア肺エコープロトコールの精度を測定する。
研究デザイン:診断検査の評価。
動物:呼吸困難と診断された76匹の犬と24匹の猫
研究方法:犬、猫を肺エコーによって評価した。B lineを半胸部の4つの解剖学的部位で計測した。1つの部位で4つ以上のB lineが認められた時、陽性と判断した。2つ以上陽性が認められた場合はCPEと診断した。CPEの診断のための肺エコーおよび胸部レントゲンの感度、特異度の計算の最終診断(参考標準)を得るためにカルテを評価した。
結果:CPEと最終診断された犬、猫は非心原性の呼吸困難の症例より陽性の部位が多かった。CPE診断のための肺エコーの感度と特異度は84%と74%であった。この結果は胸部レントゲンと類似していた(85%と87%)。肺エコーによってびまん性の間質性や肺胞性疾患の犬猫におけるCPEの誤診(偽陽性とする)を導いた。観察者間の肺エコー結果に関する一致率は高かった。
結論と臨床的意義:肺エコーは犬や猫の呼吸困難の原因としてCPEを予測するのに有用であったがびまん性の間質性や肺胞性疾患を起こす他の原因とCPEを区別することはできなかった。ポイントオブケア肺エコーは呼吸困難の犬や猫の診断ツールとして有望である。

コメント

肺は空気を含むためエコーでは評価できない、と教えられてきた身としては驚きの文献であった。肺水腫をエコーで診断できれば、動物へのストレスがX線検査よりも軽減できるため、非常に有用だと思う。

2017.07

犬の心臓血管肉腫に対する放射線治療の安全性と効果

Pilot study to determine the feasibility of radiation therapy for dogs with right atrial masses and hemorrhagic pericardial effusion.

Nolan MW, Arkans MM, Lavine D, et al. J Vet Cardiol. 2017;19(2):132-143.

目的:心臓血管肉腫と暫定的に診断された犬に対する放射線療法(RT)の短期間の安全性および生物学的活性を決定すること。
動物:右心房/右心耳の腫瘤および出血性心膜滲出液を心エコー検査にて認めたイヌ6頭を、シングルアームの前向き臨床試験に登録した。
方法:12Gyの単回放射線照射を実施。血管内皮成長因子(VEGF)と血清心筋トロポニンI(cTnI)濃度をRT前、4時間後および24時間後に測定した。 RT前後で週ごとの心膜穿刺回数を比較した。全生存期間を算出した。
結果:RTに関連する合併症は認められなかった。心膜穿刺回数は、RT前が平均0.91回/週、RT後が平均0.21回/週であり、統計的に有意に減少した。治療前および治療後血漿VEGF濃度は、いずれの時点でも有意差がなかった。照射4時間後のcTnI濃度において統計的に有意な増加が認められた。全生存期間中央値は79日であった。
結論:今回の研究対象集団では、RTは合併症なく実施され、心膜穿刺を必要とする心タンポナーデの頻度を低下させたと思われる。血清cTnI濃度は、RT後に変化することが認められた。 RT単独、または化学療法との併用により、心臓血管肉腫と暫定診断されるイヌに臨床的利益を提供しうるものである。

コメント

現在の治療法では長期予後が期待できない心臓血管肉腫では、QOLの向上・維持が重要である。そういった点では、1回のみの照射で心嚢水貯留を軽減できた本治療法は理に適っているかもしれない。

2017.07

犬の結直腸リンパ腫の臨床症状、治療、予後

Clinical presentation, treatment and outcome in 31 dogs with presumed primary colorectal lymphoma (2001 – 2013).

Desmas I, Burton JH, Post G, et al. Vet Comp Oncol. 2017 Jun;15(2):504-517.

この多施設間の回顧的研究の目的は、結腸直腸原発と考えられるリンパ腫(presumed primary colorectal lymphoma:PCRL)の犬の臨床症状・治療・予後を明らかにし、予後因子を特定することである。合計で31例の犬が組み入れられた。PCRLの主な特徴は、高グレード(n=18)であり、免疫表現型がB細胞性であった(n=24)。殆どの犬がサブステージb(n=25)で最も認められたのは血便(n=20)であった。1例は外科治療のみが行われた。30例の犬で化学療法がおこなわれた;それらの中で13頭は外科もしくは放射線治療が併用された。PFSは1318日で、疾患関連MSTは1845日だった。14例の犬が研究終了時まで生存しており、フォローアップ期間の中央値は684日(3-4678日)だった。より若い犬でPFS(P=0.031)と疾患関連MST(P=0.01)が長かった。血便の有無はより長いPFSに関係していた(P=0.02)。化学療法に局所治療を加えることは予後を明らかに改善はしなかった(P=0.584)。犬のPCRLは他のタイプのnon-Hodgkin’sリンパ腫よりPFSとMSTが非常に長かった。

コメント

一般に予後が悪いとされる消化器型リンパ腫とは対照的に、結直腸リンパ腫は非常に良好な経過をたどることが明らかとなった。診断した獣医師は発生部位をしっかりと把握し、オーナーに誤った情報を提供しないようにすることが非常に重要である。

2017.07

人工知能による皮膚がんの識別

Dermatologist-level classification of skin cancer with deep neural networks.

Esteva A, Kuprel B, Novoa RA, et al. Nature. 2017;542(7639):115-118.

最も多い人の悪性腫瘍である皮膚がんは、主に視診により初期臨床スクリーニングが行われたのち、ダーモスコピー解析、生検、病理組織学的検査が行われる。画像を用いた皮膚病変の自動分類は、皮膚病変の外観に細かなばらつきがあるため難しい課題である。深層畳み込みニューラルネットワーク(CNN)には、多くの細かな対象カテゴリー全体にわたり、一般的で変動性の高い課題をこなせる可能性がある。本研究において私達は、入力としてピクセルと病気のラベルのみを用い、画像からエンドツーエンドで直接学習させた単一のCNNを用いた皮膚病変の分類を示す。私達は2032の異なる病気からなる129450の臨床画像(以前のデータセットよりも2桁多い)のデータセットを用い、CNNを学習させた。私達は生検で確認した臨床画像について、CNNの成績を21人の皮膚科認定医と比較した。角化細胞癌と良性脂漏性角化症、悪性メラノーマと良性母斑という2つの分類を行った。前者は最も多いがんの識別であり、後者は最も致死的な皮膚がんの識別である。CNNはどちらの課題においても、試験に参加したすべての専門医と同等の成績を達成したことから、人工知能は皮膚専門医と同等の能力で皮膚がんを分類できることが示された。深層ニューラルネットワークを装備した携帯装置により、皮膚科専門医の診察が病院外で受けられる可能性がある。2021年までにスマートフォン契約者は63億人に達する見込みがあり、それゆえ重要な診断があらゆる場所で安価に受けられる可能性がある。

コメント

人工知能(AI)は、今後あらゆる分野において人間社会に利用されていくものと予想される。この論文では、医療分野においてもAIが力を発揮できる可能性があることを示しており、今後医師や獣医師による診療への貢献が期待される。