腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2017.12
Barra CN, Macedo BM, Cadrobbi KG, et al. Vet Comp Oncol. 2017 Jun 13. doi: 10.1111/vco.12330. [Epub ahead of print]
肥満細胞腫瘍(MCT)は、最も頻繁に発症する犬独立円形細胞腫瘍であり、高い転移性および再発率といった生物学的挙動を示す。MCTsは外科的に治療され、広いマージンをとることが推奨されている。この疾患で使用されるアジュバント化学療法および放射線療法は腫瘍細胞においてDNA損傷を引き起こし、アポトーシス細胞死を誘発することを目的としている。耐性細胞死は癌の特徴であり、腫瘍の発生および進行に寄与する。この研究の目的は、アポトーシスの内因性経路に関与するタンパク質の発現を調べ、それらがイヌのMCTsの予後マーカーとして用いることのできる可能性を評価することであった。 BAX、BCL2、APAF1、カスパーゼ-9、およびカスパーゼ-3の免疫組織化学染色をMCTsの50匹のイヌの症例において実施した。高いBAX発現は、高い死亡率および短い生存率と関連していた。 BCL2およびAPAF1発現は、病理組織学的グレーディングシステムにさらなる予後情報を付与した。本結果は、アポトーシスタンパク質の発現の変動が、イヌにおけるMCTsの悪性度に関連することを示している。
BAX発現量の増加が実際に細胞のアポトーシスを増加させているかどうかは本研究では示されていないため、肥満細胞腫内で増加したBAXが実際に機能しているかどうかは不明である。現在一般的に用いられている組織学的グレード分類に加えてこれらのタンパク発現を評価すべきかどうかは、今後のさらなるデータの蓄積が必要であろう。
2017.12
Ong SM, Saeki K, Kok MK, et al. Res Vet Sci. 2017;113:130-135.
犬の骨肉腫(OSA)は、局所浸潤を起こし極めて悪性である。死因としては遠隔転移によるものが最も多い。現在のところOSAに罹患した犬の長期生存率は低い。エトポシドがもつ犬のOSA細胞株に対する細胞毒性については、単独の場合についてもピロキシカムとの併用の場合についても、vitroについては以前報告がなされた。今回の研究の目的は、マウスを用いて、犬OSAに対するエトポシド単独とピロキシカムとの併用での抗腫瘍効果を評価することである。エトポシド単独での治療は有意に腫瘍の進行を抑制した。そこでは、腫瘍組織においてKi-67免疫活性が減少するということが示された。ピロキシカムとの併用の治療では、エトポシドの抗腫瘍効果を増強させることはなかった。エトポシド単独治療と併用治療ではサバイビンの発現が下方制御された。しかし、それはアポトーシスの活性の増加によって起こるものではなかった。これらの結果によって、エトポシドは犬OSAに対する新たな治療薬となる可能性があると考えられる。獣医腫瘍学の臨床応用に向けて、その可能性についてさらなる研究が必要である。
エトポシドのin vivoでの抗腫瘍効果がきれいなデータとして示されている。アポトーシスの誘導について否定的な考察がされているが、サバイビンの発現がエトポシド投与群で低下していることから、まだ断定はできないと思う。獣医療での使用経験が少ない抗がん剤であり、今後の成果に期待したい。
2017.12
Kake S, Tsuji S, Enjoji S, et al. Sci Rep. 2017;7(1):4279.
犬の乳腺腫瘍は雌犬で最もよくみられる腫瘍であり、人の乳がんの動物モデルとして注目されている。Ser/Thrプロテインホスファターゼ2A (PP2A)は腫瘍抑制因子として重要な役割を果たしており、PP2Aの内因性の抑制タンパク質であるSET/I2PP2AはPP2Aと直接結合しホスファターゼ活性を抑制する。我々は、犬の乳腺腫瘍の腫瘍成長および従来の治療法に対する感受性におけるSETの役割を調査した。
正常組織と比較し、進行期の乳腺腫瘍組織においてSETのタンパク質レベルの上昇がみられた。犬の乳腺腫瘍株CIP-m でSETの発現をノックダウンしたところPP2A活性が増加し、細胞増殖、コロニー形成、ビボでの腫瘍成長が抑制された。我々は、SETのノックダウンによるmTOR、β-カテニン、NFκBシグナリングの抑制を調査した。CIP-m細胞のドキソルビシンの感受性はSETのノックダウンによって低下したが、4-OHタモキシフェン、カルボプラチン、ボルテゾミブ、X線照射の感受性は影響を受けなかった。
これらのデータは犬の乳腺腫瘍の一部において、SETはPP2A活性を抑制し、mTOR、β-カテニン、NFκBシグナリングを強化することで、腫瘍の進行における重要な役割を果たすことを示す。
乳腺腫瘍初期症例と進行期症例、もしくは原発巣由来の細胞株と転移巣由来の細胞株との間で結果が大きく異なることは興味深く、今後そのメカニズムの解明に期待したい。