Journal Club 201807

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2018.07

犬の口腔内メラノーマと由来不明肉腫におけるPD-L1をターゲットとしたモノクローナル抗体

A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma.

Maekawa N, Konnai S, Takagi S, et al. Sci Rep. 2017;7(1):8951.

治療抗体を用いた免疫チェックポイント分子を標的とした免疫療法、プログラム細胞死1(PD-1)とPDリガンド1(PD-L1)は、ここ5年間に人の悪性腫瘍に対し広く用いられてきた。共刺激受容体であるPD-1はそのリガンドであるPD-L1に結合したときにT細胞上に発現し、エフェクターの効果を抑制する。異常なPD-1の発現はあらゆる人の腫瘍で報告されており、免疫回避メカニズムであると考えられている。PD-1/PD-L1軸をブロックしている抗体は、悪性メラノーマやその他の腫瘍の人の患者において抗腫瘍効果を誘発する。一方犬では、犬に用いることができる治療抗体がないため、そのような臨床研究は行われていない。今回の研究では、犬キメラ抗PD-L1モノクローナル抗体であるc4G12の免疫調節効果をin vitroにおいて評価した。それにより、サイトカインの産物と犬抹消血単球の増殖を有意に増強することが証明された。7頭の口腔内悪性メラノーマ(OMM)の犬と2頭の未分化肉腫の犬を用いて、予備実験を行った。1頭のOMM (14.3%, 1/7) の犬と、1頭の未分化肉腫の犬(50.0%, 1/2)において c4G12 を2週間おきに 2もしくは 5mg/kgで投与した際に抗腫瘍効果が認められた。c4G12は犬の腫瘍に対して安全で効果的な治療の選択肢となりうる。

コメント

人の革新的治療薬として脚光を浴びた抗PD-L1抗体薬を、早速犬用の治療薬として作製し臨床的にも有効性を確認したという北海道大学発の研究。奏効率は決して高くはなかったが、適応症例や投与用量を検討していくことでより高い有効性が期待できるのではないかと思われる。本研究をpilot studyとして、さらなるデータの蓄積に期待したい。

2018.07

猫の心基底部腫瘍に対する定位放射線治療

Stereotactic body radiation therapy fot heart-base tumors in six dogs.

Magestro LM, Gieger TL, Nolan MW. J Vet Cardiol. 2018;20(3):186-197.

Introduction:心基底部腫瘍に対し徐々に放射線治療が行われるようになってきたが、未だ安全性と有効性は不明である。この症例シリーズはケモデクトーマと推定される腫瘍に対し定位放射線治療(SBRT)を実施した症例の転帰を示す。
Animals:6例の犬
Methods:回顧的研究。ケモデクトーマの臨床症状を有し、3分割のSBRT(計30Gy)を実施した犬を組み入れた。
Results:心基底部腫瘍は組織病理あるいは画像検査によりケモデクトーマと推定または確定診断された。強度変調およびコーンビーム断層撮影画像ガイダンス、線形加速器、ロボット天板を用いて治療を実施した。照射中の呼吸運動は神経遮断薬と呼吸停止(n=3)または高頻度ジェット換気(n=3)によりコントロールした;1分割につき各処置(呼吸停止と高頻度ジェット換気)に対する合計の麻酔時間の平均値はそれぞれ165分と91分であった。4例についてはSBRT後に腫瘍の評価を行った;腫瘍体積は30-76%減少した。起こりうる治療に関連した合併症として咳、頻脈性不整脈、うっ血性心不全があった。2例についてはSBRT後150日、294日に突然死した。3例はSBRT後408-751日生存しており、1例はSBRT後1228日に非関連死した。
Conclusions:このSBRTプロトコールは急速な腫瘍体積の縮小をもたらし、高頻度ジェット換気は処置時間を短縮するのに効果的であった。しかしSBRT後、心不整脈(腫瘍もしくは治療に関連すると考えられる)や突然死が起こった。それゆえSBRTは有用な治療法である可能性あるが、偶発的に診断され、成長速度が遅い心血管障害を起こさない腫瘍の犬には適さないと推測された。安全性と長期間の生存性への治療の影響については長期間のフォローアップや症例数の蓄積が必要である。

コメント

大動脈小体腫瘍は比較的境界明瞭かつ転移を起こしにくい腫瘍であるため、定位放射線治療の良い適応になるのではないかと思われる。ただしフォローアップの中で不整脈や突然死といった心臓の放射線障害を強く疑う事象が発生しているため、この文献だけでは安全性の面で疑問が残る。呼吸管理や麻酔時間の煩雑さ、設備の少なさを考えると普及は難しいように思われる。3D CRTでの報告を待ちたい。