Journal Club 201904

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2019.04

犬の体表面積算出のための計算式をCTで導くことができるか

Use of computed tomography and radiation therapy planning software to develop a novel formula for body surface area calculation in dogs.

Girens R, Bukoski A, Maitz CA, et al. J Vet Intern Med. 2019;33(2):792-799.

Background:体表面積(BSA)を用いることで、幅広くばらつきのある体重を持つ動物種に対して標準化された抗がん剤投与量を決定することができる。現在のイヌのBSAの公式には体高、体長、体の状態が欠如している。
Hypothisis:CT はイヌにおけるBSA のアロメトリックモデルにおいて形態学的変数を加える助けとなり、BSA 式の向上をもたらすかもしれない。
Animals:4 施設において全身CT を撮影した48 頭のイヌ。
Methods:レトロスペクティブおよびプロスペクティブな症例集積。体表面積は、CTおよび放射線治療計画システムを用いて輪郭を描出することで求められた。体長と体高はCT 画像によって測定され、9 症例に関しては身体測定によっても測定された。非線形回帰はアロメトリック式を用いてBSAのモデルを作成するために使用された。モデル選択基準にはMSE、r2、AIC、ARD が用いられた。
Results:輪郭の描出によって求められたBSA は、現在のBSA 式とは-9%から+19%異なっていた。非線形回帰は、BSA = 0.0134×体重[kg]0.4746×体長(cm) 0.6393 を導いた。分散不均一性(BSA の増加に伴う形態計測的変動の増加)は重要な発見であった。
Conclusion and clinical importance:CTから導出されたBSAを用いて体長をBSA 式に組み入れた。この式が化学療法による有害事象と相関するかを前向き研究するべきである。

コメント

CTを用いることで確かに正確な体表面積を算出することが可能となるかもしれない。しかし、そもそも体表面積に基づいた抗がん剤投与量の決定が真に薬物動態を反映しているのかについては疑問が残る。体表面積ベースと体重ベースの両方で投与量が決定される抗がん剤もあり、臨床医としては命に関わる抗がん剤投与量の決定に今後も悩まされ続けるだろう。ともあれ、データ収集から計算式算出に至る本文献の解析方法は興味深い。

2019.04

CTで犬肥満細胞腫の肝臓・脾臓への転移は検出できるのか

Abdominal CT evaluation of the liver and spleen for staging mast cell tumors in dogs yields nonspecific results.

Hughes JR, Szladovits B, Drees R. Vet Radiol Ultrasound. 2019 Feb 20. doi: 10.1111/vru.12717. [Epub ahead of print]

イヌの肥満細胞腫の病期分類として、腹部超音波検査や腫瘤、リンパ節、肝実質および脾実質の細胞診が一般的に行われている。著者の施設では、一度の検査で複数の体の部位の評価が可能になるために、肥満細胞腫の病期分類に腹部、胸部、全身のCT検査が実施されている。本研究の目的は、肥満細胞腫の犬の病期分類のために取得したCT画像所見とその後の肝臓や脾臓の細胞診結果を比較することであった。原発性の肥満細胞腫で腹部のCT検査および肝臓や脾臓の細胞診を受けた犬の臨床記録を回顧的に分析した。CT画像所見は、肝臓と脾臓の減衰性(CT値)、大きさおよび辺縁の特徴から評価された。CT所見と細胞診結果とが分析された。49頭の犬が組み入れ基準に合致し、そのうち5頭に肝臓や脾臓への転移が確認された。肝臓や脾臓への転移が確認された5頭のうち、肝臓については4頭がCT値とサイズに異常がなく、1頭で肝臓原発の腫瘍の併発が認められた。また、脾臓については、5頭中1頭がCT値に異常がなく、4頭で脾臓実質に異常が認められた(2頭は結節性の所見、2頭はび漫性の不均一性を示した)。また、その4頭は主観的な脾腫が認められた。肥満細胞腫の肝臓転移に対して特異的なCT所見は認められず、細胞診結果を予測することには繋がらなかった。脾臓に認められた多発性の低減衰性領域はより一般的に脾臓転移と合致した。
肝臓や脾臓の細胞、組織を採ることは、CT画像上異常が認められない場合にも考慮されるべきである。

コメント

腫瘍症例の精査としてCT所見を解析した文献が、近年着実に増えてきている。犬の肥満細胞腫において肝臓や脾臓への転移を検出することは予後予測として重要だが、この文献によるとCTでは特異的な画像所見は得られなかったと結論している。特に結節を形成しない際には信頼性に乏しく、やはり現段階では病理検査に頼らざるを得ないだろう。ただしこの論文における転移陽性症例は5例のみであり、さらに評価基準が主観に依っているところも多いため、情報を蓄積すれば有用な基準が得られるかもしれない。

2019.04

ドキソルビシンによる心毒性発現は予測可能か

Incidence and risk factors associated with development of clinical cardiotoxicity in dogs receiving doxorubicin.

Hallman BE, Hauck ML, Williams LE, et al. J Vet Intern Med. 2019;33(2):783-791.

Background:ドキソルビシン(DOX)は犬に累積性の心毒性を引き起こす可能性があるが、DOXを投与されている犬における臨床的心毒性の発生率は決定されていない。
Hypothesis/Objective:DOXの投与時間が心毒性の発生率に影響を与えるかどうかを決定すること、DOXでの化学療法中または治療後の犬における臨床的心毒性の発生率を特徴付けること、および心毒性に関連する危険因子を特定すること。
Animals:がんの治療のために、少なくとも1回はDOXを投与されたことのある犬494例。
Method:2006年から2015年までにDOXを投与された犬の回顧的研究
Results:494頭の犬のうち、20頭(4.0%)が臨床的心毒性を発現した。DOX投与速度は臨床的心毒性と有意に関連していなかったが、DOXの累積投与量の増加、体重の増加、DOXの5回投与後の左室内径短縮率(FS)の減少、および心室性期外収縮(VPC)の発生は臨床的心毒性と有意に関連していた。拡張型心筋症の好発犬種における心毒性発生率は15.4%であった一方、その他の犬種の発生率は3.0%であった。
Conclusions and Clinical importance:DOX投与速度は心毒性の発生率に影響を及ぼさなかったが、VPCおよびFS減少は臨床的心毒性の発現に対して注意すべきである。全体として臨床的にはDOX誘発性心毒性の発生率は低いが、拡張型心筋症の好発犬種(ボクサーおよび他の犬種)についてはリスクが高い可能性がある。

コメント

10年間のドキソルビシン投与症例計500頭を回顧的に見直し、心毒性発現のリスクファクターを解析した文献。FSの変化率に着目しているが、3回目投与後では心毒性発現を予測できず、5回目では変化率に有意差が見られている。しかし心毒性がドキソルビシンの累積平均145 mg/m2で発現しているとなると、5回目の検査ではすでに遅いという結論となる。最近注目されているAMPやトロポニンIなどのバイオマーカーを利用する方が、客観的評価が可能でかつ早期発見に有用かもしれない。

2019.04

犬の大腿動脈に対するエコーガイド下カテーテル留置は有用か

Ultrasound-guided catherization of the femoral artery in a canine model of acute hemorrhagic shock.

Pavlisko ND, Soares JHN, Henao-Guerrero NP, et al. J Vet Emerg Crit Care. 2018;28(6):579-584.

目的:麻酔下の急性出血性ショックの実験モデル犬における大腿動脈への超音波ガイド下でのアクセスの技術評価
要約:呼吸力学研究に登録され、繁殖された健康な成犬雄のビーグル5匹を使用。脱血により平均動脈血圧を55mmHg以下の状態にした。後肢を尾側に伸ばした状態で仰臥位にし、プローブを後肢の内側にあて大腿動脈を短軸で描写、動脈は圧迫による消失と拍動の存在によって識別した。プローブを90°回転させ動脈を長軸で抽出、19Gの針で修正セルジンガー法によりカテーテルを設置。設置が良好であるかは動脈血圧波形で評価した。検査終了後犬は安楽死された。
4/5の犬でカテーテル挿入に成功、1/5で血腫が認められた。
研究の意義:急性出血性ショックを併発した麻酔下の犬において超音波ガイド下での大腿動脈カテーテル設置は実行可能である。

コメント

獣医療においては観血的な血圧測定や血液ガス測定がまだ一般的ではなく、動脈留置が技術的に難しい問題点もある。しかし動脈留置が入っていれば良いのにと思える状況は多々あり、その必要性は高いと感じている。動脈に留置をするときは触診で拍動を確認しながら行う方法が一般的であるが超音波で確認しながらのほうが視認できるためアプローチしやすいと考えられ、興味深い報告であった。一方で本研究は全て体重が10kg以上あったことから、猫や小型犬が圧倒的に多い日本において同じような成功率になるとは考えづらく、さらにアプローチしている体位やセルジンガー法なども実際の現場で使用するのはかなり限られた場合と思われる。人では血腫以外にも仮性大動脈瘤の合併症が確認されており動物では動脈留置による大動脈瘤の報告は無いが、確実な止血のためには超音波での出血の確認も必要かもしれない。