Journal Club 201908

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2019.08

多小葉性骨軟骨肉腫に定位放射線治療は有効か

Stereotactic radiation therapy for canine multilobular osteochondrosarcoma: 8 cases.

Sweet KA, Nolan MW, Yoshikawa H, et al. Vet Comp Oncol. 2019 Apr 15. doi: 10.1111/vco.12481. [Epub ahead of print]

放射線療法は、しばしば犬の多小葉性骨軟骨肉腫(MLO)の治療方法として考えられているが、巨大MLO 腫瘍に対するその有効性はほとんど説明されていない。今回のレトロスペクティブ研究では、Total 30 Gy/3fr の定位放射線治療(SRT)で治療されたMLO の犬の臨床転帰を説明している。画像診断(CT スキャンによる)および/またはMLO の病理学的診断を受けた犬が組み入れられた。患者の人口統計、腫瘍の特徴、放射線計画の線量測定、放射線障害および結果のデータは遡及的に記録から得られた。無増悪生存期間中央値(MPFST)および全生存期間中央値(MST)は、LOGLOG 検定を使用して計算した。SRT の時点で転移は認めなかった。MLO に関連した臨床徴候には、飼い主によって指摘された腫瘤、狭窄音、前庭徴候、眼球突出、および異常な精神状態が含まれた。SRT の3~9ヶ月後にCT スキャンを実施した5 例の犬のうち、4 例の犬で腫瘍体積が26~87%減少し、1例の犬で32%増加した。晩期障害が3 例のイヌで記録された(VRTOG グレード1 の皮膚および/または眼球,n = 2;グレード3 のCNS, n = 1)。PD(n=3;2例ではSRTを2 回行った)および肺転移疑い(n=2)がSRTの90~315日後に確認された。 MPFST は223 日であった(四分位範囲(IQR):144.5-276.5日)。MST は329 日であった(IQR:241.5-408 日)。このプロトコルは忍容性が高かったが、応答期間は一時的であった。

コメント

骨産生を伴いつつ増大するMLOは従来の放射線治療にまったく反応しない印象が強い。したがって,できる限り手術により減容積した後の再発予防として放射線治療が使用されることがほとんどである。これはたとえSRTを持ってしても変わらないのではないかと考えていたが,5例中4例で縮小が得られたという結果は驚きである。特にFigure 4は必見に値する。しかしMSTは決して延長しておらず晩期障害も重篤となりうるという結果に目をそらすことはできず,今後の課題であろう。

2019.08

放射線治療を実施した猫副鼻腔リンパ腫の治療成績は

Outcome and failure patterns of localized sinonasal lymphoma in cats treated with first-line single-modality radiation therapy: A retrospective study.

Meier VS, Beatrice L, Turek M, et al. Vet Comp Oncol. 2019 Jun 29. doi: 10.1111/vco.12517. [Epub ahead of print]

放射線療法で治療したネコの限局性副鼻腔リンパ腫では、失敗率やその場所は明確に定義されていない。この研究では、(a)失敗パターン(b)転帰(c)過去に報告された予後因子が転帰に及ぼす影響を調査した。この多施設後ろ向き研究では、放射線療法単独で治療された51匹の猫を調査し、プロトコルは10x4.2Gy(n = 32)、12x3Gy(n = 11)、または5x6Gy(n = 8)であった。 24/51例(47.1%)の症例では局所リンパ節が予防的に照射された。 25例(49.0%)の症例では進行性疾患を発症した:進行は5例(9.8%)において局所(鼻腔)、2例(3.9%)においてリンパ節,3例(5.9%)において局所およびリンパ節,9例(17.6%)において全身,そして6例(11.8%)において局所および全身に認められた。予防的リンパ節照射を受けた症例は、局所領域リンパ節に転移がなかった。進行までの期間の中央値は974日(95% CI:286-1666日)で、1年および2年無病率はそれぞれ58%、53%だった。全生存期間の中央値は922日(95% CI:66-1779日)で、1年および2年生存率はそれぞれ61%と49%だった。再発/進行により死亡した症例の半数(13/26例)はRT終了後6ヶ月以内に死亡しており、病期分類の不正確性、疾患の急速な進行および新規リンパ腫の発生が示唆された。評価された予後因子(プレドニゾロン使用、貧血、鼻咽頭病変、犬のアダムス改変病期分類、RTプロトコル、総線量)はいずれも転帰の予測因子ではなかった。放射線療法は、限局性副鼻腔リンパ腫に対して効果的な治療法である。ただし、猫の3分の1では、放射線療法後早期に全身性疾患の進行が起こる。

コメント

高い奏功率と、プロトコルやステージ分類に依存しない点で、猫の鼻腔リンパ腫には全例で放射線治療を実施することが望ましい。ただし本論文が示すように,再発や進行についてのインフォーム、モニタリングの重要性を理解しておくことは重要である。化学療法の併用については結論が出ていないが,全身性に進行する症例をあらかじめ予測することは現時点でできないため,基本的には推奨すべきではないかと思われる。

2019.08

健常犬の頚部リンパ節群はエコー検査により特徴的な所見が得られるか

Ultrasonographic characterization of cervical lymph nodes in healthy dogs.

Ruppel MJ, Pollard RE, Willcox JL. Vet Radiol Ultrasound. 2019 Jul 16. doi: 10.1111/vru.12784. [Epub ahead of print]

超音波検査は、頭頸部がんの病期診断法として、犬の頸部リンパ節を評価するための低侵襲な方法である。しかしながら、正常なリンパ節の大きさおよび描出性に関する標準化されたまとまった報告は乏しい。今回の前向き研究の目的は、27例の臨床的に健康な犬における頭頸部リンパ節の超音波検査上の特徴をまとめることであった。下顎リンパ節および内側咽頭後リンパ節、浅頸リンパ節のサイズ、形状、エコー源性、および辺縁を評価し、年齢、犬種、性別、体重、および歯科疾患の病期と相関させた。リンパ節の外観は様々だったが、大部分は葉巻形か卵円形で、平滑な辺縁を示した。下顎リンパ節のエコー源性は主に低エコーであり、内側咽頭後リンパ節は主に等エコーだった(唾液腺との比較)。浅頸リンパ節は周囲の筋腹に対して主に高エコーだった。体重が大きい個体および若齢の個体は、内側咽頭後リンパ節および浅頸リンパ節のサイズの増加と関連していた。性別および犬種とリンパ節の特徴との相関は見出されておらず、歯科疾患に関連したリンパ節の特徴の傾向は見られなかった。今回のデータは、正常な犬の頸部リンパ節の超音波検査のサイズおよび描出性に関する基準を確立し、頭頸部がんの日常的な病期分類手順のために考慮される将来の犬の頸部超音波の比較の基準を提供できる可能性がある。

コメント

エコーやCTによってリンパ節を評価している報告が近年増えている。内側咽頭後リンパ節については細長い形状を有していることが多く,長さだけで評価することは非常に困難である。年齢や体重についても検討材料に入れており,今回の研究結果は臨床診療にすぐに役立ちうるデータであった。

2019.08

犬の鼻腔腫瘍は,癌腫と肉腫で奏効率が変わるのか

Evaluation of tumor volume reduction of nasal carcinomas versus sarcomas in dogs treated with definitive fractionated megavoltage radiation: 15 cases (2010−2016).

Morgan MJ, Lurie DM, Vilamil AJ. BMC Res Notes. 2018;11(1):70.

Objective:犬の鼻腔内腫瘍に対して局所制御は大きな課題であり、放射線治療後の手術による切除は生存期間を延ばし再発を遅らせるため推奨されている。今回の目的は、肉腫と癌腫の根治的放射線治療による効果を体積の変化で比較することである。最初にCT検査を受け,1ヶ月以内に放射線治療を行った犬15症例に対して評価した。放射線治療後のCT検査は放射線治療が完遂してから3ヶ月以内に行った。CT画像に基づいて腫瘍体積の減少を計算し癌腫と肉腫で比較した。
Results:癌腫は8/15例、肉腫は7/15例であった。放射線治療前の腫瘍体積は24.5cm3であり治療後は13.5cm3であった。全腫瘍の体積減少率は平均で55.1%であった。癌腫の体積減少率は67.1%(SD±16.9)、肉腫の体積減少率は21.3%(SD±39.7)であった。研究期間内においてメガボルテージで分割照射を行った場合、癌腫の方が肉腫よりも大きな体積減少が認められた。

コメント

鼻腔腫瘍も他の部位の腫瘍と同様,肉腫が癌腫よりも放射線が効きにくい(縮小しにくい)ということは診療をしながら感じていたことであり,この文献はそれを実証している。大切なことは縮小後再増大までの期間にも差があるかということであるが,本研究では放射線治療後に全例手術を実施しているためその評価はできていない。「癌腫はよく効くが再増大が早く,肉腫は効きにくいが増大が遅い」という印象である。