Journal Club 201909

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2019.09

外科手術を行った犬小腸腺癌の臨床所見と転帰は

Retrospective study of survival time and prognostic factors for dogs with small intestinal adenocarcinoma treated by tumor excision with or without adjuvant chemotherapy.

Smith AA, Frimberger AE, Moore AS. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(2):243-250.

目的:補助化学療法を伴うまたは伴わない小腸腺癌(SIACA)切除後の犬の生存期間を評価し、生存期間に関連する要因を特定する。
研究デザイン:後ろ向き研究。
動物:外科切除によって組織的にSIACAと診断された29匹の犬。
方法:医療記録をレビューし、臨床徴候,身体診察所見,PCV,血清総固形分濃度,画像診断の結果,腫瘍の大きさ、位置、および組織学的特徴(漿膜浸潤、リンパ浸潤、外科的切除マージン、およびリンパ節転移),補助化学療法の種類(NSAID、抗悪性腫瘍薬)、そして生存時間に関するデータを収集した。Kaplan-MeierおよびCox比例ハザード分析により、生存時間とハザード率との関連について変数を評価した。
結果:腫瘍切除後のSIACAの犬の全生存期間の中央値は544日(95%信頼区間、369〜719日)だった。1年および2年生存率はそれぞれ60%と36%だった。多変量解析では、年齢のみが生存期間に関する独立した予測因子であった。8歳未満の犬(1,193日)は、8歳以上の犬(488日)よりも生存期間中央値が有意に長かった。リンパ節転移、補助化学療法、NSAID投与、およびその他の評価された変数は、生存時間と関連していなかった。
結論と臨床意義:調査結果は、リンパ節転移が存在する場合でさえ、犬のSIACAが切除後によりよい予後をもたらすことを示唆している。生存期間に対する補助化学療法またはNSAID投与の効果をより特徴付けるためには前向き研究が推奨される。

コメント

犬の小腸腺癌に関する文献は今まであまりなく,今回ようやくある程度の症例数をまとめた研究が報告された。とはいえn数は29例と十分とは言い難く,かつ抗がん剤の種類にばらつきがあったりリンパ節転移の診断が不十分であったりと,データの解釈には気をつけなければならない。現状では,積極的に手術を実施すべし,といったことにとどまるだろう。

2019.09

猫の肛門嚢アポクリン腺癌の臨床所見と転帰は

Apocrine gland anal sac adenocarcinoma in cats: 30 cases (1994-2015).

Amsellem PM, Cavanaugh RP, Chou PY, et al. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(6):716-722.

目的:外科手術を受けた肛門嚢アポクリン腺癌(AGASACA)の猫のシグナルメント、臨床徴候、生物学的挙動、および転帰について評価すること。
研究デザイン:後ろ向き研究。
症例:30 頭の家庭飼育猫。
方法:獣医腫瘍外科学会に所属する13施設のメンバーが,腫瘍の摘出を受けAGASACAと病理組織学的に診断を受けた猫の診療記録を回顧した。それぞれの猫はシグナルメント,臨床徴候,検査結果,治療法,および転帰についての情報を診療記録から抽出された。局所再発までの期間(TLR),無病期間(DFI),および生存期間はKaplan-Meier法を用いて求められた。TLR,DFI,および生存期間に関連する因子の決定にはCox回帰が用いられた。
結果:最も一般的な臨床徴候は会陰部の潰瘍/分泌物の排出であった。11匹の猫が術後中央値96日で局所再発を起こした。不完全な腫瘍マージンおよび高い核異型スコアは局所再発のリスク因子であった。核異型スコアはDFI と負の相関があった。局所再発および高い核異型スコアが死亡のリスク因子であった。DFI中央値および生存期間中央値はそれぞれ234 日、260 日だった。
結論と臨床意義:今回の結果は,猫における会陰部の潰瘍や排液はAGASACAを疑わなければならず,早期の直腸や肛門嚢の検査が推奨されるということを示している。手術実施症例における局所再発はもっとも一般的な予後因子であることから,可能な限り広範囲なマージンを確保する必要があることが示された。抗がん剤治療や放射線治療の有効性についてはさらなる調査が必要である。

コメント

猫の肛門嚢アポクリン腺癌は非常に稀な疾患であり,本研究でも13施設,約20年間で30例しか認められていないため,遭遇する機会は極めて少ない腫瘍であろう。犬との違いは,腫瘍の発生部位の違いから病変部の自壊排膿を起こす症例が85%ということで,これは重要な臨床所見として覚えておかなければならない。局所再発率も高いため,手術と放射線の併用による制御を積極的に検討した方が良さそうである。

2019.09

犬のStage 4肛門嚢アポクリン腺癌に対するトセラニブの効果は

Response and outcome following toceranib phosphate treatment for stage four anal sac apocrine gland adenocarcinoma in dogs: 15 cases (2013-2017).

Elliott JW. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(8):960-966.

目的:トセラニブ単独で治療したステージ 4 のアポクリン腺癌 (ASAGA : anal sac apocrine gland adenocarcinoma) の犬の反応と転帰を評価すること
研究デザイン:回顧的研究
動物:2013 年 3 月から 2017 年 6 月までにリン酸トセラニブで治療した Stage4 の ASAGA に罹患した15頭の飼い犬
方法:医療記録を検索し、シグナルメント、臨床兆候、身体検査と診断手順の結果、治療、反応、追跡情報、転帰に関する情報を収集した。
目的:トセラニブで完全寛解(CR)または部分寛解(PR)した犬はいなかったが、13 頭の犬で臨床的有用性が認められた。トセラニブに関連した毒性を示す犬や有害事象によって治療から完全に離脱する症例はいなかった。無増悪期間と生存期間の中央値はそれぞれ 354 日と 356 日だった。
結論と臨床的意義:本研究において、トセラニブで治療した stage 4 のASAGA の犬は、過去の研究で示されたチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受けていないASAGA の犬と比較して、転帰が向上することが示された。いくつかの症例では臨床兆候が向上したが、局所症状のためにしばしば安楽殺が実施された。それゆえASAGA に起因する臨床症状が顕著な犬において生活の質が低下している場合は、トセラニブ単独治療は適切ではないかもしれない。進行した ASAGA の集学的治療におけるトセラニブのさらなる研究が必要である。

コメント

トセラニブは血管新生阻害作用などを理由としてさまざまな腫瘍に使用されてきたが,肛門嚢アポクリン腺癌はその効果を実感する腫瘍の一つである。本文献では遠隔転移ありの症例群に対してトセラニブ単独の有効性を評価しており,MSTやPFIが約1年に達していることから一般的に末期と言われる状態であっても希望を持って治療に臨むことができるだろう。ただし転帰を確認すると,原発腫瘍の増大を理由に安楽死されている症例が少なからずいることから,筆者らの述べている通り局所治療の併用も重要な治療となることが分かる。

2019.09

犬多中心型リンパ腫に対し,ドキソルビシンの代替としてミトキサントロンを使用すると効果は減弱するのか

Substitution of mitoxantrone for doxorubicin in a multidrug chemotherapeutic protocol for first-line treatment of dogs with multicentric intermediate- to large-cell lymphoma.

Marquardt TM, Lindley SES, Smith AN, et al. J Am Vet Med Assoc. 2019;254(2):236-242.

目的:多中心型中〜大細胞性リンパ腫の犬に対し,シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾン(CHOP)プロトコルでドキソルビシンをミトキサントロンに置換したときの効果を評価すること。
方法:後ろ向きコホート研究。
症例:12 の紹介施設にて、シクロホスファミド、ミトキサントロン、ビンクリスチン、およびプレドニゾン(CMOP)で治療された44 匹の犬とCHOPで治療された51 匹の犬。
方法:医療記録から、治療への反応、無増悪生存期間、および全生存期間を決定した。 CMOPで治療された犬については、有害事象も記録された。
結果:CMOP で治療された44 匹(100%)の犬と、CHOP で治療された37/38 匹(97.4%)の犬は、完全または部分的な反応を示した。 CMOP で治療された犬の無増悪生存期間中央値は165 日(95%信頼区間[CI]、143〜187 日)で、全生存期間中央値は234 日(95%CI、165~303 日)だった。 CHOP で治療された犬では、無増悪生存期間中央値は208 日(95%CI、122~294 日)で、全生存期間中央値は348 日(95%CI、287~409 日)だった。無増悪期間と全生存期間はグループ間で有意差はなかった。全体として、CMOP で治療された44 匹中9 匹(20%)の犬は、ミトキサントロンに関連する可能性が高いまたはおそらく関連する有害事象を起こしたが、これらの有害事象はすべて軽度だった。
結論と臨床的関連性:結果は、ドキソルビシンが禁忌である場合、ミトキサントロンは、多中心型中~大細胞性リンパ腫の犬の治療のためのCHOP プロトコルにおける合理的な代替法であり得ることを示唆した。

コメント

CMOP グループのほとんどが心疾患を患っていたにも関わらずCHOPグループと全生存期間に有意差がなかったため,ミトキサントロンはリンパ腫治療において有効な選択肢となることが示唆される。そしてドキソルビシンを温存できるということはレスキュー療法でドキソルビシンを使用できる余地があるということなので,より長期間腫瘍をコントロールできる可能性が出てきたということである。