Journal Club 202001

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.01

犬のリンパ腫細胞株に対するドキソルビシンとイマチニブの併用効果

Imatinib enhances the anti-tumour effect of doxorubicin in canine B-cell lymphoma cell line.

Chen W, Liu L, Tomiyasu H, et al. Vet J. 2019 Dec;254:105398.

イヌのリンパ腫は最も一般的な悪性腫瘍の1つであり、世界中で高い発生率を示している。がん予防の進歩にもかかわらず、腫瘍の治療にはまだ改善が必要である。一部のがん細胞は、ドキソルビシン耐性の腫瘍細胞で一般的に見られるメカニズムである薬物輸送のアップレギュレーションにより化学療法薬の効果に抵抗し、薬物流出を増加させ、内因性または後天性薬物耐性をもたらす場合がある。この研究において、培養中にドキソルビシン濃度を増加させることにより、CLBL-1に由来するドキソルビシン耐性B細胞リンパ腫細胞株であるCLBL1-8.0は、P糖タンパク質(P-gp、ATP -結合カセットサブファミリーBメンバー1 [ABCB1])の高発現を示した。これらのタンパク質は、一般的にドキソルビシンに対する腫瘍細胞の耐性に関与している。チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブは、P-gpを過剰発現するドキソルビシン耐性細胞におけるドキソルビシンの感受性を有意に増強した。さらに、これら2つの薬物の組み合わせは、P-gpタンパク質の過剰発現に影響を与えることなく、ドキソルビシンの流出を減少させることにより、ドキソルビシンの保持を増加させる可能性がある。結論として、イマチニブはP-gpを過剰発現するドキソルビシン耐性リンパ腫細胞における薬物流出を減少させることにより、ドキソルビシン耐性を減弱させた。これらの結果は、イヌリンパ腫の治療で最も広く使用されている化学療法薬の1つであるドキソルビシンとイマチニブを組み合わせることで、ドキソルビシン耐性を克服できる可能性があることを示唆している。

コメント

犬で使用されるもう一つの分子標的薬であるトセラニブと他の抗がん剤との併用効果についててはいくつか報告があるが、イマチニブとの併用についての報告は本文献が初めてである。リンパ腫は初期の治療反応率は高いが、長期的には多くの症例で薬剤耐性を示すことが問題となる。その薬剤耐性の原因となるP糖タンパク発現の増加をイマチニブが抑制できる可能性が示されており、イマチニブの副作用が比較的少ないことを考慮すると臨床応用しやすいのではないかと期待したい。

2020.01

犬の骨肉腫に対するメラルソミンによる抗腫瘍効果

Melarsomin suppresses canine osteosarcoma cell survival via inhibition of hedgehog-GLI signaling.

Nam A, Kim T, Li Q et al. J Vet Med Sci. 2019;81(12):1722-1729.

ヘッジホッグG L I シグナル伝達経路は犬や人の骨肉腫(OSA)で活性化され、OSAを含む悪性腫瘍の潜在的な治療標的となりうる。また、三酸化ヒ素はGLIの発現を抑制する。ヒ素化合物であるメラルソミンは犬の糸状虫症の治療薬として承認されている。したがって本研究では、メラルソミンがイヌOSA細胞株のGLIシグナル伝達を阻害するという仮説を立てた。本研究は、この仮説を評価することを目的としている。メラルソミンで処理した後、イヌOSA細胞株エイブラムスおよびD17では、細胞生存率およびコロニー形成が減少した。メラルソミン誘発アポトーシス細胞死は、ヨウ化プロピジウム染色を使用した細胞周期分析により評価した。定量的リアルタイム逆転写PCRおよびウエスタンブロット分析により、メラルソミン治療後のGLI1、GLI2、およびPTCHを含むヘッジホッグシグナル伝達経路の下流遺伝子の低発現が明らかになった。本結果は、メラルソミンが抗腫瘍効果を発揮し、イヌOSA細胞のGLI阻害剤として機能することを示唆している。In vivoでのメラルソミンの抗がん効果と関連する治療用量を評価および確認するには、さらなる研究が必要となる。

コメント

イヌ骨肉腫細胞株を用いて、糸状虫駆虫薬であるメラルソミンの作用を調査した文献である。細胞株によって多少の差はあるもののin vitroでは細胞増殖抑制効果を得ているが、メラルソミンの安全域が狭いことから、生体での抗腫瘍効果を得るための用量が果たして重篤な副作用なく投薬できるかどうか、慎重なin vivoでの検証が必要となるだろう。本文献とは関係ないが、メラルソミンの他にもフェンベンダゾールやスラミンなど、駆虫薬による抗腫瘍効果の研究は意外と進められているのだなと感じた。

2020.01

犬の脾臓結節に対するFNAの有用性について

Clinical relevance of splenic nodules or heterogeneous splenic parenchyma assessed by cytologic evaluation of fine-needle samples in 125 dogs (2011-2015).

Yankin I, Nemanic S, Funes S, et al. J Vet Intern Med. 2019 Nov 6. doi: 10.1111/jvim.15648. [Epub ahead of print]

背景:脾結節と不均一な実質は犬の腹部超音波検査で頻繁に見られるが、これらの病変の臨床的重要性は不明のままである。
目的:特定の超音波検査所見が臨床的に関連する細胞診と相関するかどうかを判断し、これらの診断と相関する超音波検査所見を特定する。もう1つの目的は、脾臓の特定の超音波検査所見が細針細胞診による評価が妥当かどうかを臨床医が決定するのに役立つ採点項目を開発すること。
症例:超音波検査で同定された脾結節、不均一な実質、またはその両方を有する125匹の成犬。
方法:超音波ガイド下脾細針細胞診報告について医療記録を遡及的に検索した。結節の数、サイズ、エコー源性および遠位音響増強、脾臓の不均一性の程度、および腹水について超音波画像を評価した。症例は以下の2つのグループに分けられた:臨床的に重要、または臨床的に無関係な細胞学的所見を持つグループ。潜在的に有用で識別可能な超音波検査所見が統計分析によって特定され、最も有用な所見が採点項目の作成に使用された。
結果:臨床的に重要なグループには、125匹中25匹の犬(悪性腫瘍22匹、化膿性炎症3匹)が含まれた。直径1〜2cmの脾結節、腹水、および1つ以上の標的様結節は、臨床的に重要な細胞学的所見と関連していた。ROC分析は、採点項目が臨床的に重要なグループの犬を識別するのに役立つことを示した。
結論と臨床的重要性:脾臓の細針細胞学的所見により、犬の20%で臨床的に関連する診断が特定され、結節のサイズ、標的様病変の数、および腹水の存在により、臨床的に重要な疾患の検出の可能性が高まる。

コメント

日常の診療において脾臓結節を偶発的に検出する機会は多い。本文献は2 cm以下の結節に対してFNAを実施し,悪性腫瘍を診断するためのエコー所見およびその所見を用いた診断精度を提供している。結節の数,サイズなどに基づいたスコアリングシステムからは,スクリーニング検査を目的とした感度優先の結果と,診断検査を目的とした特異度優先の結果が示されており,臨床に用いやすい形となっている。ただ,できれば組織診断による確定がなされていればなお良かったと思われる。

2020.01

犬の骨肉腫に対してオーラノフィンの併用は有効か

Auranofin improves overall survival when combined with standard of care in a pilot study involving dogs with osteosarcoma.

Endo-Munoz L, Bennett TC, Topkas E, et al. Vet Comp Oncol. 2019 Aug 23. doi: 10.1111/vco.12533. [Epub ahead of print]

骨肉腫は、小児(ヒト)の骨に発生する最も頻度の高い悪性腫瘍である。骨肉腫の主な死因は薬剤耐性の肺転移である。過去の研究から、チオレドキシン還元酵素2が骨肉腫の転移ドライバーであり、オーラノフィンによって阻害されることが示されている。さらに、オーラノフィンは異種移植モデルの肺転移を有意に減少させることが証明されている。今回、ヒトの骨肉腫の自然発生モデルとして広く認識される犬の骨肉腫におけるオーラノフィンの第1相、第2相試験について報告する。標準治療(断脚+カルボプラチン)と組み合わせて、オーラノフィンの単一群多施設予備研究を実施した。この試験の為に40頭の犬を募集し、過去に標準治療のみを実施した対照群(26頭)と比較した。15kg以上の犬にはオーラノフィン9mgを、15kg未満の犬には6mgを3日おきに内服投与した。フォローアップは少なくとも3年間実施した。オーラノフィン治療を受けた犬において全生存率が改善した(P=0.036)。この結果は、雄犬の生存率が改善されたことに完全に起因していた(P=0.009)。執筆時点で、この治療群の10頭(25%)が大きな疾患もなく生存しており、生存期間は806~1525日である。今回の研究から、オーラノフィンを標準治療と組み合わせることで、雄犬の生存期間が改善することが示された。また、我々の調査結果は、犬とヒトの骨肉腫の治療に関して橋渡しとなる可能性がある。さらに今回のデータは、犬でのより大規模な多施設共同第2相試験および第一選択の外科手術が不適応となったヒト患者での第1,2相試験の正当性を示している。

コメント

断脚などの外科手術と術後カルボプラチン投与といった標準治療に加え,オーラノフィンを併用することで生存期間の有意な改善が認められた。結果を解釈すると,初期に転移が生じた症例では予後の改善は見込めないが,半年程度経過するとコントロール群と比較し生存率が上昇し始めているようである。しかもその効果はほぼ雄に認められており,非常に興味深い結果である。