Journal Club 202010

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2020.10

犬の乳頭状扁平上皮癌に対する根治的放射線治療

Treatment of canine oral papillary squamous cell carcinoma using definitive-intent radiation as a monotherapy-a case series.

Francine van der Steen, Maurice Zandvliet. Vet Comp Oncol. 2020 Sep 25. doi: 10.1111/vco.12646. Online ahead of print.

犬の口腔内乳頭状扁平上皮癌(COPSCC)はまれな腫瘍であり、高い浸潤性を示すが、広範囲の外科的切除により良好な予後をもたらす。放射線治療は、手術の補助療法として有効であると報告されている。しかし、単独治療としての放射線治療の役割に関する情報は限られている。この単施設の後向き研究は、肉眼病変のCOPSCCと診断され、根治的放射線治療(DRT)単独で治療された10例の犬についての報告である。これらの犬の年齢中央値は4歳(範囲:0.4~9.6歳)だった。腫瘍はすべての症例で口腔内吻側にあり、腫瘍サイズの中央値は2.5cm(範囲:0.8~6.8cm)だった。局所または遠隔転移は確認されなかった。すべての犬は電子線によるDRT(> 32Gy、1回線量3.2Gyの週5回、10~16分割)で治療された。追跡期間の中央値は961日(範囲:333~3498日)で、9例が完全奏効を達成し、1例が部分奏効だった。部分奏効の犬は、放射線治療開始後228日で疾患の進行を認めた。 2例が腫瘍と関連しない原因で死亡した。残りの7例は生存中であり、最後のフォローアップの時点で完全寛解を維持していた。無増悪生存期間中央値と生存期間中央値には達しなかった。 DRTは概ね良好な忍容性だったが、すべての犬で限定的な急性放射線粘膜炎(グレード2~3)および/または皮膚炎(グレード1)を発症した。晩発性の放射線障害は観察されなかった。肉眼で見えるCOPSCCは、DRTで良好な反応を得られる放射線感受性の高い腫瘍であり、進行した症例では広範囲切除の必要性を回避できるかもしれない。

コメント

PSCCに対する放射線治療の成績を調査した文献。まれな腫瘍ではあるが、治療により良好な予後が期待できるため従来のSCCおよび棘細胞性エナメル上皮腫との鑑別が重要である。肉眼所見、CT画像、病理検査などから診断していくことになるが、一番は他の腫瘍よりも若齢で発生しやすいということを覚えておく必要があるだろう。治療後の経過も長期にわたることが予想されるため、1回線量を落として晩発性障害を起こさないようにすることにも注意が必要である。

2020.10

犬の椎骨骨肉腫に対して補助治療は有効か

Surgical decompression, with or without adjunctive therapy for palliative treatment of primary vertebral osteosarcoma in dogs.

Dixon A, Chen A, Rossmeisl Jr. JH, et al. Vet Comp Oncol. 2019;17(4):472-478.

脊椎の骨肉腫(OSA)は犬の原発性椎骨腫瘍では最も一般的だが、これらの腫瘍の減圧手術後の生存期間に関する研究は限られている。また、これらの症例における放射線治療や化学療法などの補助療法の利点に関する情報も限られている。本研究の目的は、緩和的減圧手術のみの実施と、放射線治療および/または化学療法を組み合わせた場合の、原発性脊椎OSAの犬の生存期間を決定することだった。原発性脊椎OSAと診断され、減圧手術で治療された22頭の犬が8施設から回顧的に収集された。生存期間は、手術のみを実施された犬、および補助的放射線治療および/または化学療法を受けた犬について評価された。手術のみで治療された12例の生存期間中央値は42日だった(範囲:3〜1333日)。手術と化学療法で治療された3例の生存期間の中央値は82日だった(範囲:56~305日)。 1例のみが手術と放射線療法で治療され;この犬の生存期間は101日だった。 6例が手術、放射線療法、化学療法で治療された;これらの犬の生存期間の中央値は261日(範囲:223~653日)だった。最初の術後期間を生き延びたすべての症例の死因は、腫瘍の再増殖が確認または疑われた後の安楽死だった。この研究の結果は、根治的放射線治療が、おそらく化学療法と組み合わせることで椎骨OSAの緩和的減圧手術で治療された犬の生存を有意に改善させるため、有効な治療オプションとなるべきであることを示唆している。

コメント

発生がまれな椎骨の骨肉腫に対する手術±抗がん剤・放射線治療の有効性を検証した文献。部位的に根治的切除が困難であるため、補助療法の果たす役割は大きい。実際に抗がん剤と放射線治療を併用したグループにおいてもっとも予後が良い結果となっている。しかし症例数が少ないために腫瘍の発生部位、脊髄圧迫の程度、術式、抗がん剤の種類など様々なバイアスが存在することを考慮しておかなくてはならない。QOLの低下に直結する部位に発生する腫瘍のため、生存期間だけにとらわれない治療法を選択していく必要があるだろう。

2020.10

tigilanol tiglateによる犬肥満細胞腫の新たなる局所治療

Randomized controlled clinical study evaluating the efficacy and safety of intratumoral treatment of canine mast cell tumors with tigilanol tiglate (EBC-46).

De Ridder TR, Campbell JE, Burke-Schwarz C, et al. J Vet Intern Med. 2020 Jun 16. doi: 10.1111/jvim.15806. Online ahead of print.

目的:犬肥満細胞腫の局所腫瘍内治療としてのチジラノールチグラート(TT)の有効性と安全性を評価すること。
方法:細胞学的に肥満細胞腫と診断された犬123例を含む2段階のランダム化比較臨床研究を実施した。フェーズ1ではTTの治療を受けた犬81例と対照犬42例を比較し、フェーズ2では対照犬のTTとフェーズ1でTT治療後に腫瘍の消失を達成できなかった犬の再治療を行った。TT(1mg/ml)を腫瘍体積に基づき腫瘍内に注入した。肥満細胞腫の脱顆粒の可能性を最小限にするために、併用薬が用いられた。RECISTを用いて、28日目と84日目に治療効果を評価し、有害事象と生活の質についても同様に評価した。
結果:TT単独の治療により、28日目までに75%が完全奏効(CR)(95%信頼区間 61-86)を達成し、84日目まで93%(95%信頼区間 82-97)で再発がなかった。TTの治療でCRが得られなかった犬8頭が、再治療後にCRを達成し、全体のCRの達成は88%に増加した(95%信頼区間 77-93)。対照犬では5%が28日目までにCRを達成した。腫瘍脱落後の創傷形成と腫瘍体積に対する創傷サイズは、有効性と強く関連した。有害事象は通常、低グレードであり、TTの作用機序に直接関連したものであった。
結論:TTは効果的で認容性が高く、肥満細胞腫の局所治療に新たな選択肢を提供する。

コメント

TTは国内ではまだ入手できないが、一回の投与でこれだけの奏効が得られるのであれば、手術で十分なマージンを確保できない症例や麻酔リスクの高い症例において有効な手段になり得るだろう。ただし、創傷の管理には獣医師を必要とせず飼い主によって行われたと記載されているが、腫瘍の脱落により病変部が露出した状態となるため、果たして自宅での対処のみで管理できるのかどうかは疑問である。再発の有無や他の治療法との併用なども含め、今後さらなる検討が期待される薬剤である。

2020.10

犬の肝細胞癌に対するソラフェニブ

Sorafenib for the treatment of unresectable hepatocellular carcinoma: Preliminary toxicity and activity data in dogs.

Marconato L, Sabattini S, Marisi G, et al. Cancers (Basal). 2020;12(5):1272.

切除不能な結節性もしくはびまん性の肝細胞癌は、治療の選択肢が制限されており予後不良である。従来の全身性化学療法の報告はほとんどなく、あったとしても満足のいくものではない。この前向き非ランダム化非盲検の単一施設臨床試験の目的は、進行、もしくは切除不可能な肝細胞癌に対するサリドマイド、ピロキシカム、およびシクロフォスファミドからなるメトロノーム化学療法(MC)と比較して、ソラフェニブの安全性プロファイル、客観的奏効率、進行までの期間および全生存期間を調査することであった。2011年12月から2017年6月までの間に、13例の犬が組み入れられた。13例のうち7例がソラフェニブによる治療、6例がメトロノミック療法による治療を受けた。進行までの期間の中央値は、ソフェラニブによって治療された群での363日(95%信頼区間:191-535日)に対し、メトロノミック療法によって治療された群では27日(95%信頼区間:0-68日)であった(p = 0.044)。全生存期間の中央値は、ソラフェニブによって治療された群で361日(95%信頼区間:0-909日)、メトロノミック療法によって治療された群で32日(95%信頼区間:0-235日)であった(p = 0.079)。ソラフェニブは、疾患制御における利点と許容できる安全性プロファイルから、見かけ上進行した肝細胞癌を発症した犬の治療の良い選択肢となり、本研究はメトロノミック療法や従来の化学療法と、ソラフェニブの効果と欠点とを比較するための前向きランダム化臨床試験の実施を支持するものである。

コメント

ソラフェニブは人医療における根治切除な腎細胞癌、肝細胞癌および甲状腺癌に対して認可されているマルチキナーゼ阻害薬である。発症機序は人と犬とで異なるとされているものの犬でもソラフェニブが奏効する可能性は十分考えられ、特に再発・多発した肝細胞癌に対する治療法は現状皆無であることから今後の研究発展が期待される。現時点で日本国内において動物に対しての使用は行われていないが、今後トセラニブのように使用していく可能性はあり、効果や副作用について検討していく必要があるだろう。