Journal Club 202102

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.02

犬の機能性甲状腺腫瘍の臨床的特徴と転機

Clinical features and outcome of functional thyroid tumours in 70 dogs

V. F. Scharf1, M. L. Oblak, K. Hoffman, O. T. Skinner, K. M. Neal, C. J. Cocca, D. J. Duffy and M. L. Wallace. J Small Anim Pract. 2020;61:504-511.

目的: 犬の機能性甲状腺腫瘍の臨床的特徴と転帰について述べること。
方法: 甲状腺腫瘤と甲状腺機能亢進症を併発していると診断された犬70 頭を回顧的に多施設において収集した。
結果: 機能性甲状腺腫瘍を有する犬の全生存期間の中央値は35.1か月、1年および3年生存率はそれぞれ83%、49%であった。生存期間中央値は、外科切除により治療した犬で72.6カ月、手術を受けなかった犬で15.7カ月であった。手術により治療した犬50頭のうち、治療後に甲状腺ホルモンを測定している犬の64%が術後に甲状腺機能低下症を発症した。病理組織学的に転移が確認された犬は 3%であった。
考察: 機能性甲状腺腫瘍を有する犬では術後の甲状腺機能低下症が一般的に確認されるが、その後長期生存する可能性がある。

コメント

甲状腺癌の予後は悪性腫瘍としては良好であり、適切な処置をすることで長期生存が可能である。この報告では機能性甲状腺癌の転移は少なく、術後の補助治療のメリットは限定的と考えられる。しかし、術後数年で転移や再発病変が認められることも経験されるため、長期的なフォローアップは必須である。

2021.02

犬の皮下軟部組織肉腫を覆う皮膚への腫瘍性浸潤の評価

Evaluation of the neoplastic infiltration of the skin overlying canine subcutaneous soft tissue sarcomas: An explorative study

Sara Del Magno, Emanuela Morello, Selina Iussich, Cecilia Gola, Boris Dalpozzo, Maurizio Annoni, Marina Martano, Federico Massari, Davide Giacobino, Lisa Adele Piras, Damiano Stefanello, Paolo Buracco. Vet Comp Oncol. 2021 DOI: 10.1111/vco.12676 Online ahead of print.

犬の皮下軟部組織肉腫(sSTS)を覆う皮膚への腫瘍の浸潤に関する研究は十分でない。腫瘍の浸潤がない場合、皮膚を残すことが可能となり、手術が容易になる。この研究の目的はsSTSの上にある皮膚に腫瘍細胞が浸潤しているかを調査することであった。外科手術を受けた犬を前向きに調査し、切除した腫瘍から皮膚を自然な面で剥離し、組織学的に評価した。sSTSを有する犬29頭(gradeⅠ:22頭、gradeⅡ:6頭、gradeⅢ:1頭)が含まれ、sSTSを覆う皮膚は14/29頭(48.3 %)で浸潤を認めなかった。GradeⅡ、Ⅲで100%(P=0.06)であったが、gradeⅠにおいても8/22頭(36%)で皮膚浸潤を認めた。この浸潤は、腫瘍と接している真皮への浸潤(11例で多発性、4例でびまん性)であった。広範囲の切除は局所制御の可能性を高めるため、どのsSTSにとっても最も安全な方法と言えるが、gradeⅠのsSTSでは積極的でない皮膚切除であっても根治的となる可能性がある。今後は低悪性度のsSTSで腫瘍と接触している部分の皮膚のみの切除で根治的となる可能性を確認するための研究が必要である。

コメント

軟部組織肉腫は局所制御が重要な腫瘍であるため、初回の手術で十分なマージンをとって根治させることが望ましい。しかし、発生部位によっては水平方向3 cmの皮膚マージンの確保が難しいこともしばしば経験される。当院では理想的なマージンが取れなかった場合には術後の放射線治療を推奨しているが、今後の前向き研究の結果次第では補助療法の必要性が見直されるかもしれない。

2021.02

犬の原発性肺組織球性肉腫:37例の後ろ向き研究(2000-2015)

Primary pulmonary histiocytic sarcoma in dogs: A retrospective analysis of 37 cases (2000‐2015)

Katelyn W. Marlowe, Cecilia S. Robat, Dawn M. Clarke, Angela Taylor, Maude Touret, Brian D. Husbands, David M. Vail. Vet Comp Oncol. 2018;16(4):658-663

原発性肺組織球性肉腫(PHS)は既に報告されている疾患だが、十分に特徴付けられてはいない。この研究の目的は、大きな群での調査を実施し、PHSの臨床的特徴と予後因子を決定することであった。11施設でPHSと診断された犬の医療記録を後ろ向きに調査した。37頭の犬が含まれており、13頭がCCNUベースの化学療法のみ、18頭は手術とアジュバンド療法(CCNUベースの化学療法)、3頭は対症療法のみ、3頭は手術のみで治療された。全体的は無増悪生存期間(PFS)の中央値と生存期間(OS)の中央値はそれぞれ197日と237日であった。化学療法のみで治療された犬では治療反応が認められたが、PFS(91日)とOS(131日)は全体の中央値より短く、効果は一時的なものだった。手術と化学療法を受けた犬は、手術を受けていない犬と比較してPFS(276日、P=0.001)およびOS(372日、P=0.001)が大幅に延長した。術後に化学療法を実施していないのが3頭のみであるため、術後補助療法としての化学療法の有効性を評価することは不可能だった。胸腔内転移のない症例は手術を受ける可能性がはるかに高かった(オッズ比=7.04、P=0.018)。診断時の転移、臨床症状の存在はPFSを短縮させ、前者のみがOSにも悪影響を及ぼした。これらのデータは、転移がない症例が外科的介入の恩恵を受けやすいことを意味する。

コメント

手術を選択していない症例は、転移病巣が存在する、腫瘍が巨大である等の状況である可能性が高く、その時点でバイアスがかかっていると考えられる。また、手術のみの症例が少なく、術後化学療法の有効性も評価できない。しかし、手術と化学療法を実施した症例はその他の症例と比較してPFS、OSが明らかに延長していることから、手術ができる段階での診断が重要と言える。