腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2021.03
Thomas Mignan, Mike Targett, Mark Lowrie. J Vet Intern Med.2020;34:1707–1717.
神経筋伝達障害である重症筋無力症は、後天性または先天性の病態として発症する。重症筋無力症(MG)は、骨格筋の神経筋接合部(NMJ)に対する自己抗体を特徴とする後天性自己免疫疾患であるが、先天性筋無力症候群(CMS)は、発症年齢が若く、NMJに影響を与えるいくつかの遺伝性疾患のグループである。どちらも、治療と結果いずれのためにも病態の認識が重要な疾患である。犬と猫のMGとCMSに関する文献を確認し、人医療で使用されている分類と比較して、犬と猫における分類システムを提案する。MGはまずに限局型、全身型、または劇症型という症状に基づいて分類される。次に、自神経筋接合部(NMJ)に対する自己抗体を持つか否かで細分類される。自己免疫性疾患のメカニズムは、胸腺腫の有無、または猫における抗甲状腺薬の投与に関連する。CMSは、影響を受けるNMJの構成成分、神経筋伝達の欠陥のメカニズム、影響を受けるタンパク質、そして最終的には原因となる変異遺伝子によって分類される。 犬と猫においてもMGとCMSのこの分類を提案することで治療を導き、予後を改善し、追加研究の枠組みを提供したい。
MGは有用な診断とされる抗体検査の結果が迅速には得られないことから、不確定な臨床兆候から仮診断を下す必要がある。実際には抗体検査が陰性のMG(その後陽性転換することもある)が存在したり、抗体検査が陽性でも認識できる症状がないMG症例も報告されており、確定診断が難しい場合がある。胸腺腫は腫瘍科でしばしば遭遇する疾患であるため、術後MGの発症を念頭に置いた注意深いモニタリングが必要と考える。
2021.03
Julia Gedon, Axel Wehrend, Klaus Failing, Martin Kessler. Vet Comp Oncol.2020. DOI: 10.1111/vco.12649. Online ahead of print.
この研究の目的は、乳腺腫瘍のサイズと悪性度の間に関連性があるかを評価することである。625頭の犬(1459個の乳腺腫瘍)を回顧的に分析した。80.3%の犬が未避妊であり、診断時の年齢は9.7±2.5歳であった。75.8%が純血種であった。平均体重は20.0kgであった。悪性腫瘍(n=580)は良性腫瘍よりも大幅に大きい傾向にあった(1.94cm vs 0.9cm、P≤.0001)。腫瘍のサイズと良性から悪性への変化は正の相関関係にあった。悪性腫瘍は悪性度により4つのタイプに分類され(複合性、単純性、充実性、退形成癌)、腫瘍サイズと悪性度においても正の相関関係にあることが示唆された。多くの場合、高悪性度の腫瘍はより悪性度の低い病変から発生を認め、悪性腫瘍サブタイプ内でのさらなる進行が概念される。複数発生した乳腺腫瘍は、悪性腫瘍の平均サイズが単一の症例より大幅に小さかった(1.67cm vs 2.71cm)。これらの所見から、乳腺腫瘍の進行は良性から悪性への転化だけでなく、低悪性度から高悪性度への変化を起こすことが示唆される。腫瘍の増大は数mmであったとしても症例の予後に大きく関わるかもしれない。
腫瘍の数と悪性腫瘍に対する避妊去勢手術の状態の影響は本研究では評価されておらず、またそれぞれのグループにどのサイズの腫瘍が認められたかは明言されていない。
今回の研究では、小型犬種が正の予後因子とは言えなかったが、平均体重が20kgと中~大型犬が多く、かつ小型犬種としては悪性腫瘍の発生率が高い可能性が示唆されているミニチュアダックスフントが多く含まれていたことが影響しているかもしれない。
2021.03
Stephanie L. Goldschmidt, Cindy M. Bell, Scott Hetzel, Jason Soukup, J Vet Dent. 2017;Vol.34(4);241-247
棘細胞性エナメル上皮腫(CAA)は犬における最も一般的な歯原性腫瘍と報告されている。この後ろ向き研究では、組織学的に診断された犬263頭を評価した。この研究では、CAAは大型犬の成犬の下顎骨吻側に発生しやすく、ゴールデンレトリーバーに好発すると示された。根治を目的とした外科手術の後、適切なフォローアップを実施した患者を評価し、局所再発に対する病理学的マージンの評価も行った。いずれの患者にも局所再発は認められなかった。この研究結果はCAAの治療のための外科的な推奨マージンがどうあるべきかという問題を提起する。また、マージンが不十分であった場合の追加治療が必要か、医学的監視が適切かという議論をもたらす。これらの問題の回答を得るには、前向き研究が必要である。
外科マージン、病理組織学的マージンを評価できた症例が少ないため、今回の結果から推奨マージンを判断することは難しい。
完全摘出でない症例で1例も再発がないことは、再手術や補助療法の必要性を検討する際の材料となり得る。マージンに不安がある場合でも、以前の報告(平均術後1カ月で再発)を踏まえ、経過観察を選択して良いのではないか。
今後の研究によりこれまでより狭い外科マージンでの手術が推奨される可能性があるが、扁平上皮癌との鑑別が難しい場合があるため、術前の組織学的検査は重要である。