Journal Club 202104

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.04

プロプラノロールは、リソソームの薬物隔離と薬物排出を変化させることにより、血管肉腫細胞をドキソルビシンに感作させる

Propranolol Sensitizes Vascular Sarcoma Cells to Doxorubicin by Altering Lysosomal Drug Sequestration and Drug Efflux.

Jhuma Saha, Jong Hyuk Kim, Clarissa N. Amaya, Caleb Witcher, Ali Khammanivong, Derek M. Korpela, David R. Brown, Josephine Taylor, Brad A. Bryan, Erin B. Dickerson. Front Oncol.2020 Feb; DOI: 10.3389/fonc.2020.614288

ドキソルビシンのような疎水性の弱塩基化学療法剤は、リソソーム内に隔離され、細胞内濃度を制限することによって耐性を促進することが知られている。in vitroではベータアドレナリン受容体(β-AR)拮抗薬(プロプラノロール等)と複数の化学療法剤の間に相乗効果の可能性があると報告されており、in vivoでの相乗効果の可能性も示唆されている。
今回の研究では犬、人およびマウスの血管肉腫細胞株を用いてプロプラノロールがドキソルビシンのリソソーム隔離を抑制するのか、ドキソルビシンの薬剤排出にもプロプラノロールが関与することで相乗効果を示すのかを調査した。 またβ-ARに結合しないプロプラノロールの鏡像異性体においても相乗効果を示すのか検証した。
プロプラノロールは、ドキソルビシンのリソソーム隔離と細胞流出を減少させることにより、肉腫細胞の細胞質内ドキソルビシン濃度を増加させた。プロプラノロールに長時間暴露された細胞株においてはリソソームの数およびサイズが増大したが、プロプラノロールの存在下ではドキソルビシンへの感受性が保たれた。しかし、プロプラノロールを休薬すると耐性は促進された。また、プロプラノロールの鏡像異性体は、プロプラノロールと同様の効果を示した。プロプラノロールによる相乗効果はβ-AR非依存性に作用している可能性があ理、プロプラノロールの鏡像異性体はβ-ARの拮抗作用に関連する心血管および他の副作用なく、ドキソルビシン細胞毒性を高める可能性が示唆された。

コメント

プロプラノロールとドキソルビシンの相乗効果におけるβ-AR非依存性経路が示唆されたことから、血管肉腫以外のβ-AR発現が少ない腫瘍や様々な抗がん剤においても同様の効果が得られる可能性が示唆された。
人の血管肉腫も予後が厳しい腫瘍だが、発生率が犬に比べ非常に低いことから、研究が進みにくい側面を持っている。獣医療での研究成果が人医療に寄与する可能性がある。

2021.04

高い術中出血リスクを持つ腫瘍外科症例に対する術前貯血式自己血輸血(PABD)

Preoperative autologous blood donation and transfusion in dogs undergoing elective surgical oncology procedures with high risk of hemorrhage

Sarah E. Boston, Jerzy Kotlowski, Matthew Boylan. Vet Surg. 2021 Feb;DOI: 10.1111/vsu.13598

目的:高い術中出血リスクを持つ腫瘍外科症例に対する術前の貯血式自己血輸血(PABD)の有用性を検討する。
研究デザイン:前向き研究
供試動物:飼育犬12頭
方法:出血リスクの高い手術を予定している症例を組み入れた。手術の最低6日前に採血し、新鮮凍結血漿(FFP)と濃厚赤血球(pRBC)に分離した。手術開始時にFFPの輸血を開始し、pRBCは術中出血が続いた場合に輸血した。PCV/TS比をPABD当日、術前、術後、輸血24時間後に測定した。輸血副反応(高体温、低血圧、頻脈、徐脈、可視粘膜蒼白、CRT延長、頻呼吸・呼吸困難)についてモニタリングした。
結果:組み入れ症例が受けた手術は下顎骨切除、上顎骨切除、胸壁切除、肝葉切除だった。組み入れた12頭中10頭が、術中出血の初期臨床兆候が確認され多段階でPABDが行われた。術中出血に伴う貧血は2頭で確認された(PCV 30, 31%)。①採血後当日、②術前、③術後(輸血後)、④輸血後24時間後のPCV/TS平均値は、①採血後;45.1%/7.1g/dL、②術前; 42.2%/6.73g/dL、③術後; 33.2%/5.42g/dL、④輸血後24時間後36.5%/5.65/dLだった。全ての症例で輸血関連副反応は認めなかった。
結論:PABDの忍容性が確認された。
臨床的意義:出血のリスクが高い手術を控える症例で、自家献血と自己血輸血が可能である。

コメント

適応症例として、術前の一般状態が比較的良好な症例、輸血歴があり輸血反応を回避したい症例が挙げられる。施設側の要因として、供血犬が使用不可である場合、供血犬がいない場合、ドナー犬を登録しているが都合がつかない場合もPABDを考慮しても良いのではないか。
しかし、PABD を実施した症例の中には、手術日にHt値が回復していない症例も存在している。副反応がなく、早期に退院できたといえども、採血量や手術までの期間に関してはまだ検討の余地があると思われる。

2021.04

鼻腔内腫瘤性病変を有する79頭の猫のCT所見の比較

Comparison of CT features of 79 cats with intranasal mass lesions

Sarah Bouyssou, Gawain J Hammond, Caroline Eivers. J Feline Med Surg. 2021 Feb; DOI:10.1177/1098612X21994396

目的:この遡及的多施設共究では、鼻腔内腫瘤性病変と診断された猫のCT所見を比較し、異なる腫瘍タイプ間および腫瘍性病変と非腫瘍性病変の間に画像上の特徴が存在するかどうかを判断した。
方法:組織病理学的検査を実施した鼻腔内腫瘤性病変と一致するCT所見のある猫について、2つの施設の医療記録を調査した。各CT画像について、腫瘤の位置、増殖パターン、マージンの特徴、コントラスト強調パターン、病変内の石灰化または壊死の存在を記録した。また、顔面変形の存在、骨の変化の位置と種類、病変の鼻腔外への浸潤、領域リンパ節のサイズ、コントラストパターン、リンパ門の視認性も記録された。
結果:鼻腔内リンパ腫の猫35症例、リンパ腫以外の鼻腔内腫瘍(癌腫または肉腫)の猫28症例、炎症性病変の猫16症例が選択基準を満たした。リンパ腫以外の鼻腔腫瘍の猫は、片側の鼻の変化(オッズ比[OR] 3.9)、石灰化領域(OR無限大)、前頭洞への浸潤(OR 4.5)を示す可能性が高く、リンパ腫の猫は、混合(OR 4.5)および拡張性の増殖パターン(OR 7.8)および局所リンパ節腫大(OR 2.4)を示す可能性が高い結果となった。一方で、炎症性腫瘤様病変と診断された猫のCT所見は非常に多様であり、鼻腔腫瘍の所見と重複したが、骨の変化を伴わないことと有意に関連していた(OR10.2)。
結論:今回の研究の発見は、CT所見が鼻腔内腫瘤性病変を呈した猫の腫瘍タイプの鑑別を支持すること裏付けている。

コメント

論文中の増殖パターン(Permeative growth pattern、Expansile growth pattern)の定義の解釈が難しく客観性に欠ける点、腫瘍タイプ間、腫瘍と非腫瘍間に重複する所見がある点から、CT所見のみで確定診断をつけるのは難しいと考える。しかし、臨床経過などより腫瘍性疾患を強く疑うのにも関わらず複数回の生検でも診断がつかない場合、生検に伴う出血リスクの高い症例などでは、CT所見を含めた総合的な診断が有用である。
今回の研究では胸部CT画像でも異常が確認された症例が存在する。猫の鼻腔内リンパ腫は比較的高率に腎臓へ転移することが報告されていることから、頭部CTに加え全身のCT検査が診断の手がかりとなる可能性も考えられる。