Journal Club 202105

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.05

マウスにおける心基底部照射後の不整脈の発生と心臓の損傷を評価する実現可能性調査:短報

Feasibility study evaluating arrhythmogenesis and cardiac damage after heart-base irradiation in mice: A brief communication

James Elliott, Keith Linder, Michael W. Nolan. Vet Med Sci. 2020;6:1009 –1016. DOI: 10.1002/vms3.303

放射線誘発性心疾患(RIHD)は、胸部照射を受けている犬の罹患率と死亡率の原因の1つとして挙げられる。不整脈と突然死は、心基底部腫瘍に対して定位放射線療法を受けた犬で記録されている。そこで、マウスモデルにおける不整脈発生および組織学的変化を含むRIHD発症に関する研究が考案され、パイロット研究が行われた。CD1(n=3)およびC57Bl/6J(n=3)の雌マウスの心基底部に、直線加速器を用い放射線治療を実施(36 Gy / 3Fr連日)。照射後、重篤な障害は認められず、全例が3か月の観察期間生存した。さまざまな時点でのECG分析では、不整脈は確認されなかった。心臓組織学検査を放射線治療後3ヶ月で行い、HE染色およびピクロシリウスレッド染色を用いた。 CD1マウス1例とC57BI/6Jマウス2例では、照射部位に多発性の血管周囲リンパ形質細胞性炎症が認められた。各系統の1匹のマウスで、フィブリノイド血管壊死が観察された。全例で、重大な心筋壊死、萎縮、または炎症は認められなかった。ピクロシリウスレッド染色では、明らかな線維化を認めなかった。線量測定による検証では、計画どおりに照射され、予測と実測の平均線量差が5%以内であることが示された。この研究は有意な不整脈発生を示さなかったが、SBRTによる犬の心臓反応性を検討するための、適切なマウスモデルの検討、照射手順の修正について示されている。

コメント

大動脈小体腫瘍を伴う心臓と、正常な心臓では洞房結節領域への腫瘍浸潤の差が大きく、不整脈発生に関する単純な比較は困難なのではないか。また、心臓は照射中に体動が生じやすい臓器であり、マウスの小さな心臓ではそれを犬同様に再現することには限界がある。犬の臨床例で失神や突然死が発生していることに対しては今後さらなる調査が必要であり、ホルター心電図と比較して軽量化され、より長時間観察できる心電図が発売されていることから、これらを用いて不整脈発生率、急性障害および晩期障害についての検討がなされることを期待する。