Journal Club 202108

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2021.08

血管浸潤を伴う甲状腺癌の犬73頭に甲状腺切除術を実施した結果と術後合併症

Outcome and postoperative complications in 73 dogs with thyroid carcinoma with gross vascular invasion managed with thyroidectomy

Max Latifi, Owen T. Skinner, Elisa Spoldi, et al. Vet Comp Oncol. 2021 May 16. doi: 10.1111/vco.12739. Online ahead of print.

甲状腺癌に対する甲状腺摘出術の予後は非常に良好と報告されているが、血管浸潤を伴う甲状腺癌に関してはほとんど報告がない。本研究では、血管浸潤を伴う甲状腺癌の摘出手術を受けた犬の臨床転帰と合併症について報告する。2010年1月1日から2019年12月31日までの間に10施設の病院で甲状腺切除を受けた犬の医療記録が評価され、臨床症状、診断記録、初期治療、追加治療、結果が抽出された。生存率はKaplan–Meier分析を用いて計算された。多重ロジスティック回帰分析を用いて疾患に関連した生存に関連する変数を特定した。73頭のうち、58頭が片側甲状腺切除術を実施され、15頭が両側甲状腺切除術を実施された。術中の合併症は5頭で報告され(6.8%)、術後の合併症は12頭で報告された(16.4%、2頭が死亡)。7頭(9.6%)は、術後中央値238日(15〜730日)で局所再発を認めた。9頭(12.3%)は、術後中央値375日(50-890日)で遠隔転移を認めた。27頭が補助療法(化学療法21頭、放射線治療6頭)を実施された。39頭が死亡または安楽死を実施された。そのうち10頭が腫瘍関連死、10頭の死因は原因不明、19頭が無関係の原因による死亡であり、9頭は追跡不能であった。全体的な生存期間の中央値は621日であり、疾患特異的生存期間は中央値に達しなかった。1年の疾患特異的生存率は82.5%であった。このデータセットでは、生存率に関連する変数は認められなかった。血管浸潤を伴った甲状腺癌に対しても、局所治療として外科手術を検討しても良いかもしれない。

コメント

外科適応の判断の基準は不明であった。また、外科不適応と判断された症例が含まれていないため、選択バイアスがあると考えられる。
本研究では、CT検査による血管浸潤の検出率が低く、甲状腺癌の血管浸潤をより正確に評価するためには、スライス厚を薄くするなどの工夫が必要かもしれない(この報告におけるスライス厚は1.25-5 mm)。

2021.08

消化管原発と推定される犬の大細胞性リンパ腫に対する継続的なL-Asp投与の有効性と有害事象

Efficacy and adverse events of continuous L-asparaginase administration for canine large cell lymphoma of presumed gastrointestinal origin.

Taisuke Nakagawa , Mari Kojima , Koichi Ohno , et al. Vet Comp Oncol. 2021 Jul 2. doi: 10.1111/vco.12749. Online ahead of print.

背景: 消化管由来と推定される大細胞性リンパ腫の犬において,L-アスパラギナーゼの持続投与の有効性と有害事象を検討する。
方法: 2009年から2018年に、消化器型の大細胞性リンパ腫に対してL-アスパラギナーゼの継続的投与を行った犬32頭の医療記録を遡及的にレビューした回顧的研究。シグナルメント、病変の発生部位、血液検査結果(CBC、生化学検査)、画像診断所見、細胞学的、組織学的診断所見、免疫表現型、L-アスパラギナーゼの投与頻度、治療反応、有害事象、レスキュープロトコールおよび患者の転帰を収集した。
結果: 犬32頭に対し毎週L-アスパラギナーゼの投与を実施。L-アスパラギナーゼの投与回数の中央値は7回(範囲:1~30回)。32頭中2頭にグレード3以上の消化管毒性が認められたが、アレルギー反応を起こした犬はいなかった。超音波所見による奏効率は18/32(56%)、臨床症状による奏効率は30/32(94%)であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は 50日(範囲:2~214日)、全生存期間(OS)中央値 147日(範囲:2~482日)であった。有害事象は稀であり、ほとんどの症例で診断時の臨床症状が改善した。
結論: L-アスパラギナーゼの持続的投与は、消化器型大細胞リンパ腫の犬にとって合理的な治療法であると考えられる。L-アスパラギナーゼの連続投与に伴う有害事象も非常に少なく、十分許容できるものと思われる。

コメント

消化器型リンパ腫は、積極的な多剤併用療法を実施しても予後の改善が難しく、副作用による消化器毒性(grade3以上)が問題となるため、化学療法の実施を希望されないオーナー様が比較的多い疾患である。しかし、この報告ではL-aspの連続投与が過去の多剤併用療法の報告と同等の奏功率を示し、ほとんどの症例で症状の改善を認めている。消化器毒性(grade3以上)を呈した症例も少ないため、提案しやすいプロトコールであると感じる。レスキュープロトコールも使用されているため、他の抗がん剤とL-Asp連続投与併用に関する検討も期待される。

2021.08

自家頬粘膜移植片による犬および猫のデスメ膜瘤、深部および穿孔性角膜潰瘍の外科的治療

Surgical treatment of canine and feline descemetoceles, deep and perforated corneal ulcers with autologous buccal mucous membrane grafts.

Valentina Mezzadri, Alberto Crotti, Samanta Nardi, Giovanni Barsotti. Veterinary Ophthalmology. 2021 Jun 4. doi: 10.1111/vop.12907. Online ahead of print.

目的:デスメ膜瘤、深部角膜潰瘍、虹彩脱落を伴うあるいは伴わない穿孔性角膜潰瘍の犬および猫を対象として、自家頬粘膜移植角膜修復手術の手技および術後転帰について報告する。
組み入れ症例:12頭の猫(13眼)と14頭の犬(14眼)。
方法:移植片はパンチ生検で色素沈着していない上唇粘膜から採取した。角膜病変部は慎重にデブリードメントし洗浄した。移植片は9-0ポリグリコール酸縫合糸を用いた単純結紮縫合あるいは連続縫合を組み合わせて正常角膜に固定した。25/27の眼ではその上に有茎結膜移植を行った。すべての症例で一時的な瞬膜フラップを使用した。有茎結膜フラップは術後10~20日ほどでトリミングした。観察期間の中央値は549.2日(範囲14-2691日)であった。
結果:手術中の合併症は認められなかった。24/27眼で潰瘍が治癒し、眼球の完全性が回復した。長期フォローアップ中に全例で異なるグレードの角膜線維症および/または血管新生および/または色素沈着が認められた。2例は術後の合併症のために眼球摘出術を行い、1例では眼球瘻を発症した。臨床経過の最終判断時には22/27の眼が有効な視覚を取り戻した。
結論:自己頬粘膜移植は,イヌおよびネコの重症角膜潰瘍の治療に有効であり,他の角膜移植に代わる有用かつ安価な方法であると考えられる。

コメント

穿孔を伴う症例や難治性の角膜潰瘍に対する眼球摘出前の治療選択肢の1つとなり得る。しかし、有茎粘膜フラップの吸収の程度や、通常のフラップ術と比較してどの程度有効性が高いのかは不明である。頭部腫瘍に対する放射線治療後においては、放射線障害によるドライアイや結膜炎の内科治療に苦慮し、二次的に角膜潰瘍が生じる場合がある。眼球摘出に進む前の治療として、自家頬粘膜移植が有用かもしれない。