Journal Club 202204

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.04

四肢の骨肉腫に対する断脚と化学療法を行った犬では、治療前の痛みではなく、周術期の鎮痛の強さが生存を予測する

Intensity of perioperative analgesia but not pre-treatment pain is predictive of survival in dogs undergoing amputation plus chemotherapy for extremity osteosarcoma

Nolan MW, Uzan OC, Green NA et al. Vet Comp Oncol. 2022 Mar 8. doi:10.1111/vco. 12808. Online ahead of print.

この2施設合同レトロスペクティブ研究の目的は、骨肉腫に対して四肢の切断と補助化学療法を行った犬において、 (1)ベースラインのがん性疼痛の重症度、または、(2)周術期の疼痛管理に使用されるアプローチのいずれかが腫瘍学的転帰に影響を与えるかを評価することである。
1997年から2017年の間に、限局性(非転移性)の四肢の骨肉腫に対し、断脚術と化学療法(カルボプラチンおよび/またはドキソルビシン)の両方を受けた犬284頭の医療記録からデータが抽出された。Kaplan-Meier生存曲線およびCox比例ハザード(PH)モデルを用いて、遡及的にスコア化されたベースラインの疼痛レベル(高 vs 低)と、様々な鎮痛剤および局所麻酔法が、無転移生存率と全死亡率の両方に与える影響を決定した。全例において、無病生存期間の中央値と全生存期間の中央値は、それぞれ253日、284日であった。ベースラインの痛みは、84頭が「低い」、190頭が「高い」と評価された。痛みの程度は無病生存期間や全生存期間に影響を与えなかった。既知の予後因子による潜在的影響を考慮すると、高度の周術期鎮痛(非ステロイド性抗炎症薬[NSAID]およびブピバカイン溶出型カテーテルの設置)は、それらを使用しない場合よりも生存確率が高く、全生存期間の中央値はそれぞれ252日と378日であった(ハザード比:2.922、p=0.020)。

コメント

高度な鎮痛管理を行うことで免疫機能が安定し、骨肉腫の生存期間の延長がみられるとすれば、腫瘍の治療において鎮痛剤の使用はこれまで以上に重要な役割を果たすことになる。本研究では、鎮痛方法を選択する際にバイアスがかかっている可能性があるため、前向き研究で効果を証明する必要がある。
また、本研究では術後の疼痛についての評価が行われておらず、高度な周術期管理の効果が確認できない。疼痛レベルも2段階の分類であるため、客観的な指標を用いた術前、術後の鎮痛評価の必要性も感じられる。

2022.04

犬のインスリノーマ(49例)に対する外科治療後の予後

Outcome after surgical management of canine insulinoma in 49 cases

Nicholas Trevor Cleland, John Morton, Peter James Delisser. Vet Comp Oncol. 2021;19:428–441. DOI: 10.1111/vco.12628

犬のインスリノーマは歴史的に予後が悪いとされてきたが、最近では生存期間の延長が報告されている。術前に確認可能な予後指標は予測精度が限定的であり、術後の治療法もコンセンサスが得られていない。本研究の目的は、外科的治療を受けたインスリノーマの犬の転帰を調査し、取り上げられた予後因子が手術後の転帰と強く関連するかどうかを評価することである。
外科的治療を受けたインスリノーマの犬について、2つの施設の医療記録を検索した。49頭の犬が対象となった。39頭(80%)は低血糖がすぐに改善したが、10頭(20%)は術後も低血糖が持続した。全体の生存期間(MST)の中央値は561日であった。低血糖が解消された犬のMSTは746日であった。また手術から術後の任意の時点で低血糖が初めて検出されるまでの時間の中央値は424日であった。低血糖が解消された症例の44%が、術後2年までに低血糖を再発した。病理学的なステージは、術後の低血糖の持続に関連し、それが生存期間の予測因子にもなった。これらの結果から、インスリノーマの犬は長期生存の可能性があり、病理学的ステージが転帰の予測因子であることがわかった。

コメント

外科手術を行なったインスリノーマの犬の生存期間中央値は、症例報告も含め10ヶ月〜26ヶ月である。この研究結果からも、早期発見や外科的技術の進歩、適切な術後管理によりインスリノーマの犬の予後は改善してきていることが窺える。本研究では術前に得られる予後指標からの正確な予後判定が難しいことを指摘しているが、結果的に予後因子は病理組織学グレードであり、術前には判断ができないようである。また、筆者は手術によるできる限りの減容積が術後低血糖を改善し、予後を延長させると考察しており、これまで手術対象でなかったグレード3症例への外科的介入を推奨している。しかし、インスリノーマに対するトセラニブの有効性の報告も増えているため、グレード3の症例に対する侵襲性の高い手術の提案には十分な検討が必要である。また、ハイリスク症例に対する化学療法の開始時期についても研究が進むことを期待する。

2022.04

犬の歯肉扁平上皮癌の治療における寡分割照射の可能性
英国の2つの高度医療施設の21症例 レトロスペクティブ研究

A possible role of coarse fractionated radiotherapy in the management of gingival squamous cell carcinoma in dogs: A retrospective study of 21 cases from two referral centers in the UK

Andrea Mosca, Danielle Gibson, Sarah L. Mason et al. J. Vet. Med. Sci. 2021;83(3):447-455. doi: 10.1292/jvms.20-0191

外科手術は、放射線治療の併用の有無に関わらず、犬の口腔扁平上皮癌(SCC)に対する最も有効な治療法である。単独治療としての通常分割照射もまた、SCCの長期的な制御に有効であるが、寡分割照射(CF-RT)の報告はあまり多くない。本研究の目的は、緩和および補助療法としてCF-RTを行った歯肉SCCの犬における副作用、治療効果、生存期間中央値(MST)を調査することである。
英国の2つの高度医療施設で、2013年7月から2019年6月の間に歯肉SCCに対してCF-RTを行った21症例をレトロスペクティブに評価した。その結果21頭中、11頭に軽度の急性障害が発生した。口腔粘膜炎は最も多い放射線障害であった。また3頭が重篤な晩期障害(口鼻腔瘻、骨壊死、歯肉退縮)を発症した。肉眼病変に対する緩和照射としてCF-RT を受けた犬では臨床的奏効率は77%、MSTは365日(60-1095日)であった。外科切除後の補助療法としてCF-RT を受けた犬ではMSTに到達しなかった。
肉眼病変が進行した症例では、CF-RT は臨床症状の一時的な緩和をもたらすかもしれない。しかし、生存期間が予想以上に長い症例では、晩発障害の発生リスクを伴うため、最適な CF-RT プロトコルを特定するためにはさらなる調査が必要である。また、不完全切除された歯肉SCCに対する補助療法としてのCF-RTの役割を確かめるための無作為比較試験が必要である。

コメント

犬の口腔内腫瘍は進行した状態で発見されることが多く、扁平上皮癌に関しても、第一選択である外科手術が適応とならない、あるいは外科手術による完全切除が望めない症例にたびたび遭遇する。本研究によると、肉眼病変に対する緩和治療および術後補助療法としての寡分割照射は、麻酔リスクの高い症例や頻回の通院や入院による負担を懸念する飼い主に提示する治療の選択肢となり得るようだ。しかし、一般的には通常分割照射の方が予後が良く、緩和照射で長期制御が可能であった場合には晩発障害のリスクが高い点をを十分理解いただく必要がある。今回の研究では症例数が少ないことに加え、フォローアップ打ち切りの症例も多かったため、今後の研究ではその点を改善して統計学的に比較を行えると良いだろう。