Journal Club 202207

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.07

四肢の骨肉腫に対する多分割照射と寡分割照射を受けた犬における骨折率と骨折までの時間:単施設試験

Fracture rate and time to fracture in dogs with appendicular osteosarcoma receiving finely fractionated compared to coarsely fractionated radiation therapy: A single institution study

Carissa J. Norquest, Charles A. Maitz, Deborah A. Keys et al. Vet Med Sci. 2022 May;8(3):1013-1024. doi: 10.1002/vms3.782.

背景:放射線治療(RT)は、特に外科手術が困難な四肢骨肉腫の犬に対し、疼痛緩和のために使用されている。しかし、過去のRTの報告の多くは骨折までの時間や骨折率が不明である。
目的:このレトロスペクティブ研究の主要な目的は、RTを受けた犬の骨折率と骨折までの時間を明らかにすることである。副次的な目的は、忍容性と疾患予後を評価することである。
方法:四肢骨肉腫の治療の一環としてRTを受けた51頭の犬を評価対象とした。
45頭が寡分割放射線治療(C-RT、1回8Gyまたは6Gy) [C-RT8またはC-RT6])を受けた。残りの6頭は通常分割放射線治療(F-RT)を受けた。
結果:全体の病的骨折率は37%であった。病的骨折率は、F-RTを受けた犬(5/6、83%)において、 C-RTを受けた犬(12/40,30%,p=0.021)に比べ有意に高かった。骨折した17頭の犬では、骨折までの時間の中央値は57日であった。全犬種において、無増悪生存期間(PFI)中央値と全生存期間(OST)の中央値は、それぞれ90日と140日であった。ゾレドロン酸とRTで治療した少数の群(n = 7)では、骨折率は0%で、生存期間の延長が認められた。
結論:病理学的骨折のリスクが低く、PFIが同程度であるため、C-RTはF-RTよりも推奨される。特に手術適応でない犬に対して、C-RTとゾレドロン酸の併用療法を前向きに評価することが必要である。

コメント

手術適応とならない四肢の骨肉腫の治療にあたり、主に腫瘍の進行によって生じる病的骨折は動物のQOLを著しく低下させる。本研究では照射方法による骨折率の違いを調査しており、著者らの当初の仮定に反し、寡分割照射(C-RT)を受けた症例において骨折率が有意に低いという結果が得られた。生存期間は通常分割照射(F-RT)が有意に優っており、C-RTを選択した症例はそもそも予後が悪く、骨折前に安楽死を選択させている可能性がある。しかし、C-RTにゾレドロネートを併用した症例で生存期間が延長し、病的骨折率が低下する可能性も明らかとなった。今後の前向き研究によりC-RTとゾレドロネートの治療効果が証明されれば、費用や麻酔頻度の面からも放射線治療を選択しやすくなると感じる。

2022.07

化学療法を受けた中皮腫の犬の転帰:40例のレトロスペクティブ臨床研究および文献レビュー

Outcome of dogs treated with chemotherapy for mesothelioma: A retrospective clinical study on 40 cases and a literature review

Mathilde Lajoinie, Thomas Chavalle, Franck Floch, David Sayag, Didier Lanore, Frédérique Ponce, Gabriel Chamel
Vet Comp Oncol. 2022; DOI: 10.1111/vco.12843. Online ahead of print.

中皮腫は犬では珍しいがんであり確立された治療基準はない。有効性を示す明確な根拠はないが、化学療法がしばしば提案される。本研究の目的は、化学療法が中皮腫の犬の予後に与える影響を評価することである。レトロスペクティブな多施設共同研究が行われた。中皮腫に関連する臨床経過を示し、病理学的に中皮腫と診断された犬が組み入れ対象となった。また、他の胸水の原因を除外できたこと、フォローアップが完了していることも組み入れ基準とされた。40例の犬が対象となり、そのうち27例が化学療法を受け (Group1)、13例が化学療法を受けなかった (Group2)。各群間において、治療の一環として手術を受けた犬の割合には有意差があったが (Group1は16例、Group2は2例;p=0.016)、それ以外の項目では有意差はなかった。単変量解析ではGroup1の犬はGroup2の犬よりも有意に長く生存した (MST:366日vs 74日;p<.001)。初回の化学療法実施後の胸水の完全消失は、Group1における生存と正の相関を示した (MST:415日 vs 160日;p<.01)。検討した他の予後因子に関しては単変量解析において有意差がなかったが、手術を受けた犬と画像診断で漿膜の異常所見が認められた犬ではより長く生存する傾向が認められた。多変量解析では化学療法が生存率と関連する唯一の因子であることが確認された (オッズ比5.57-6.12;p<.01)。

コメント

犬の中皮腫に対しては、過去の報告と同様に化学療法が予後に対して有効であると考えられる。シスプラチンはヒトの中皮腫の第一選択薬の一つであるが、強い腎毒性および消化器毒性のため犬では使用頻度が低い。今回の研究では化学療法を使用した症例の52%がシスプラチンを使用したが、十分に利尿に配慮したことで腎毒性は問題とならず、副作用は許容できるものであった。化学療法のプロトコルについては、各プロトコルにおける予後の違いが明らかとなっていないため、今後更なる研究が必要になると考える。

2022.07

腹部放射線療法とリン酸トセラニブの併用で治療された犬における胃腸毒性の発生率の増加

Increased incidence of gastrointestinal toxicity in canine cancer patients treated with concurrent abdominal radiation therapy and toceranib phosphate

Amber R. Prebble, Kristen M. Weishaar, Douglas H. Thamm, Del Leary, Susan M. LaRue, Tiffany Martin, Mary-Keara Boss. Vet Comp Oncol. 2022;20(1):142-153. DOI: 10.1111/vco.12756

チロシンキナーゼ受容体阻害剤(TKI)は、ヒトおよびイヌの癌を治療するために使用され、それらの抗癌および抗血管新生効果による腫瘍制御を強化するために放射線療法(RT)と組み合わせることができる。しかし、最近はヒトがん患者において抗血管新生療法を寡分割照射と併用した場合の胃腸毒性を示す症例が報告されている。我々は腹部寡分割RTとTKIトセラニブ(TOC)を併用したイヌにおける胃腸(GI)毒性の発生率を、腹部RT単独、TOC単独、または非腹部RTとTOCの併用治療を受けたイヌと比較して評価した。医療記録を遡及的にレビューし、症例を以下の治療カテゴリーに分類した:腹部RT+TOC(n=19)、腹部RT単独(n=29)、TOC単独(n = 20)、または非腹部RT+TOC(n = 9)。毒性は、VCOG-CTCAEの基準を用いてグレーディングされ、TOCのGI毒性に関するこれまでの報告と比較された。腹部RTを受けている間にTOCを投与された患者は、治療群間で比較した場合、全てのグレードの下痢(p = 0.002)、食欲不振(p = 0.0045)、および嘔吐(p = 0.003)の発生率が増加し、重度の食欲不振(p = 0.003)の割合は有意に増加した。このレトロスペクティブ研究は、イヌにおいて腹部RTをTOCと組み合わせた場合のGI毒性発生率の有意な増加を明らかにした。これらの知見は、抗血管新生薬をRTと併用した場合に正常組織毒性が増加するというヒト患者において報告された臨床的懸念と一致している。

コメント

腹部に対する放射線治療は、膀胱の移行上皮癌や手術不適応の乳腺腫瘍、皮膚肥満細胞腫、体軸の骨肉腫等で選択される。近年は獣医療においても分子標的薬の使用が増えており、放射線治療と併用することも多い。本研究の結論から、犬において分子標的薬であるトセラニブ(TOC)寡分割照射の組み合わせは消化器毒性を増強させる可能性があることがわかった。このリスクは治療開始前に飼い主にインフォームしておくべきである。しかしながら、症例ごとの消化管の線量分布に関しては記載がないため、腫瘍によってはビームの角度や放射線の種類を選択することでリスクを下げられるように思う。また、本研究では、各治療群の奏効率や生存期間の解析が行われていない。併用療法の治療効果がこれらの副作用を上回るものであるのかが気にかかる。

2022.07

32頭の猫の鼻および鼻咽頭リンパ腫に対する定位放射線治療の治療成績

Outcome of stereotactic body radiation for treatment of nasal and nasopharyngeal lymphoma in 32 cats

Alicja I. Reczynska, Susan M. LaRue, Mary-Keara Boss et al. J Vet Intern Med 2022 Mar;36(2):733-742. DOI: 10.1111/jvim.16388.

背景:猫の限局性鼻腔リンパ腫の治療における定位放射線治療(SBRT)の安全性と有効性は、これまで報告されていない。
仮説:補助化学療法の有無に関わらず定位放射線治療は猫の限局性鼻部リンパ腫に対して有効で、忍容性の高い治療法である。
動物:鼻部リンパ腫の治療のためにコロラド州立大学に紹介された32頭の飼猫。
方法:コロラド州立大学で2010年から2020年の間にSBRTによる治療を受けた猫のレトロスペクティブ研究。鼻腔リンパ腫の診断は、細胞診または病理組織診によって得られた。シグナルメント、放射線プロトコル、併用療法、副作用、生存期間を記録した。
結果:無増悪生存期間は225日(95%CI 98-514)、生存期間中央値(MST)は365日(95%CI 123-531)であった。単回照射と分割照射を受けた猫との間で生存期間に有意差は認められなかった(MST 427日 vs 123日、P = 0.88)。予後不良因子には、篩骨溶解(MST 121 vs. 876日、P = 0.0009)および頭蓋内浸潤(MST 100 vs. 438日、P = 0.0007)が含まれた。疾患の進行は38%(12/32)に認められ、局所的には22%(7/32)、全身的には16%(5/32)であった。急性障害を発生した猫はいなかった。10頭の猫では晩期障害が発現した:角膜炎/乾性角膜炎(n = 2)、脱毛(n = 4)、 白毛症(n = 4)であった。24頭(75%)の猫に慢性鼻炎と一致する徴候が見られた。
結論:SBRTは、猫の限局性鼻腔リンパ腫の治療に有効であり、忍容性も良好である。低病期の猫(犬のadamsの修正ステージ分類3以下)の治療成績は、分割照射で治療した猫の過去のデータと同等である。

コメント

猫の鼻腔リンパ腫に対するSBRTは忍容性が良好で、統計学的には分割照射と単回照射で同等の治療効果が得られた。したがって、SBRTの単回照射は麻酔・その他の合併症のために分割照射のリスクが高い猫の治療の選択肢となり得る。また、通院が負担となる飼い主にとってもメリットのある治療法である。これまでの報告と同様に、ステージ4の症例では生存期間が短い。これらの症例に対する有効な治療法については、さらなる研究が必要である。

2022.07

外科手術と抗CSP4ワクチンで治療した犬の口腔内悪性黒色腫における骨浸潤の予後への影響(レトロスペクティブ研究:68例 2010〜2020)

Prognostic impact of bone invasion in canine oral malignant melanoma treated by surgery and anti-CSPG4 vaccination: A retrospective study on 68 cases (2010–2020)

Camerino M, Giacobino D, Manassero L, et al. Vet Comp Oncol. 2022;20(1):189-197. doi: 10.1111/vco.12761

犬の口腔内悪性黒色腫の予後は、臨床的、組織学的、免疫組織化学的なパラメータを含んでいる。本研究の目的は、犬の口腔内黒色腫における骨浸潤の予後への影響を評価することであった。口腔内黒色腫のステージIIおよびIIIで、手術と抗CSPG4抗体接種を受け、組織学的データがあり、最低1年の追跡調査が可能な68頭の犬をレトロスペクティブに選択した。骨浸潤は画像および/または組織学的に検出された。骨浸潤の証拠がある犬(グループ1)の生存期間中央値は397日で、骨に浸潤していない口腔メラノーマの犬(グループ2、1063日)と比べて有意に短かった。腫瘍が頬、唇、舌、軟口蓋のレベルに限局している犬(軟組織-グループ3)は、上顎または下顎の歯肉内に腫瘍がある犬(硬組織-グループ4)と比較して有意に長く生き、生存期間の中央値はそれぞれ1063日と470日であった。グループ4の中で、骨に浸潤していない腫瘍を持つ犬のサブグループ(グループ5)は、グループ1(骨浸潤群)の犬と比較して、生存期間の有意な延長(972日)を示した。無病生存期間についても、各群で同様の結果が得られた。統計解析の結果、グループ1(骨浸潤あり)では、Ki67と有糸分裂数が生存期間の短縮と相関していることが示された。骨浸潤は予後不良因子と考えられるので、常に評価する必要がある。

コメント

著者らトリノ大学の研究チームはこれまでも口腔内悪性メラノーマに対する抗C S P G4ワクチンの治療効果を報告している。2つのレトロスペクティブ研究の中で、外科切除後の再発抑制のために抗C S P G4ワクチンを使用することで生存率が上昇すること、特にマージンが不十分な症例に対して有効であることを示唆している。本研究でもステージⅡ、Ⅲの症例は外科手術と抗C S P G4ワクチンによって予後が改善している。しかし、骨浸潤を伴う悪性メラノーマでは生存期間が有意に短いことがわかった。以前のWHO分類においても骨浸潤は予後不良因子としてステージ分類に組み込まれているため、悪性メラノーマの症例を診察する際には、診断時に骨融解の有無にも注目し、適切なインフォームを心がけたい。