Journal Club 202210

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.10

猫の鼓室胞切開を口腔内からアプローチした13例(2016-2019)

Transoral ventral tympanic bulla osteotomy in cats: 13 cases (2016-2019)

Pierre H M Moissonnier, Margaux Blondel, Maria Manou et al. J Am Vet Med Assoc. 2022 Apr 28;260(8):892-898. doi: 10.2460/javma.21.01.0054.

目的:猫における経口腹側鼓室胞骨切り術(TOVBO)の検討。
対象動物:2016年2月から2019年2月の間にTOVBOによる治療を受けた猫13頭。
方法:中耳炎(MED)と診断され、TOVBOを受けた猫の医療記録を回顧的に調査した。短期的なフォローアップは、退院前と術後15日目に臨床検査によって行われた。長期的なフォローアップは電話で行われた。
結果:13頭の猫(年齢範囲:8か月~12歳)が中耳炎(両側性を含むn=10)または鼻咽頭ポリープ(5)、鼓室胞の弾丸摘出(1)の治療のために片側(n=10)または両側(3)のTOVBO(16)を受けた。術中合併症は生じなかった。術前に状態が悪かった1頭は術後3日目に肺炎で死亡した。8頭の猫に、斜頸(n = 2)、ホルネル症候群(3)、食欲不振(2)、一時的な失明(1)を含む術後合併症が認められた。手術から6ヵ月後の調査では9頭の猫にMEDの徴候は認められなかった。
臨床的意義:この経口的アプローチにより、すべての症例で鼓室胞に良好なアプローチが得られた。TOVBO後に観察された合併症は、VBOの場合と同様であった。猫において、TOVBOはMEDに対処するために鼓室胞の他のアプローチに代わる許容可能で安全な低侵襲性方法であると思われる。

コメント

経口腹側鼓室胞骨切り術(TOVBO)では、従来の外側鼓室胞骨切り術(LBO)や腹側鼓室胞骨切り術(VBO)と異なり、重要な血管や神経に遭遇せずに鼓室胞にアプローチできる。今回は猫での検討であるが、中大型犬や術前CT検査でLBO、VBOによるアプローチが難しい(皮下脂肪が厚い、鼓室胞が内側に位置するなど)と判断される症例にも応用が可能なのではないだろうか。

2022.10

犬と猫における浅後腹壁動脈皮弁:70症例(2007-2020)

Outcome of caudal superficial epigastric axial pattern flaps in dogs and cats: 70 cases (2007-2020)

K. Forster, L. S. Cutando, J. Ladlow et al. Journal of Small Animal Practice (2022) 63, 128–135 DOI: 10.1111/jsap.13467

目的:犬と猫における浅後腹壁動脈皮弁の合併症と転帰について
症例:2007年から2020年の間に浅後腹壁動脈皮弁を実施した犬と猫、70症例 (犬51症例、猫19症例)。多施設後ろ向きコホート研究であり、シグナルメント、原因、腫瘍の場合は診断名、マージン評価、術後の感染の有無、周術期および術後の抗生物質の使用、麻酔時間、手術時間、低体温の有無と期間、低血圧の有無と時間、術後のドレーン使用の有無、皮弁の長さ、合併症の内容と発生率が記録された。
結果:犬では67%が合併症を発症し (59%が軽度、8%が重度)、33%が合併症なく治癒した。猫では症例の53%が合併症を発症し (47%が軽度、5%が重度)、47%が合併症なく治癒した。裂開、壊死、漿液腫、浮腫、術後感染を経験した症例の割合は、犬でそれぞれ 31%、29%、26%、26%、16%であり、猫ではそれぞれ26%、16%、11%、0%、5%であった。犬の77%、猫の79%は再手術なく術創が治癒した。重度の合併症は犬の4%と猫の0%で見られ、安楽死となった。浅後腹壁動脈皮弁は、伝統的に他のフラップよりも強固であると考えられているが、総合的な成功率が高いにもかかわらず、合併症率も高いままである

コメント

浅後腹壁動脈皮弁とは、軸状皮弁の一つであり、鼠径部や会陰部、大腿部等の手術に用いられる。皮弁を用いる手術は適応症例の選択が重要であり、術後管理次第では重度の合併症を伴う可能性がある。近年では排液ドレーンの改良が術後合併症率の低下に貢献しているため、アクティブドレーン等の使用を積極的に検討しても良いのではないだろうか。

2022.10

犬の固形癌に対するに緩和照射(3 Gy x 10 / 3D-CRT)とトセラニブの併用の忍容性を評価するパイロット研究

Pilot study evaluating the tolerability of a 3 Gy × 10 daily fraction 3D-conformal palliative radiation therapy protocol plus toceranib for the treatment of measurable carcinomas in the dog

Michele A. Keyerleber, Lisa G. Barber. Vet Radiol Ultrasound. 2022 Aug 15. doi: 10.1111/vru.13139. Online ahead of print.

分子標的薬と放射線治療を組み合わせた治療は、切除不能で転移リスクのある上皮性悪性腫瘍に対して検討されている治療法である。今回の前向きパイロット研究は、測定可能な上皮性悪性腫瘍の犬におけるトセラニブと緩和目的の放射線療法(PRT)の併用治療に関する忍容性と有害事象を評価し、二次的に短期的な腫瘍反応を評価することが目的である。
測定可能な上皮性悪性腫瘍を有する15頭の犬は、トセラニブと緩和照射(3 Gy、1日1回、連続10日間)による治療を受けた。有害事象はVRTOG/VCOGグレーディングシステムに則って評価され、忍容性は12週間の治療期間の生活の質に関するアンケートを用いて評価された。13頭の犬 (87%) が急性障害を呈し、3頭が重度と評価された。全頭がトセラニブの毒性を示し、1頭が重度と評価された。7頭 (47%) が 12 週間のプロトコルを完了した。4頭は毒性および/または関連する生活の質の低下のために、4頭は進行性疾患のためにプロトコルを中止した。
この調査の結果から、このトセラニブと緩和照射のプロトコルは、潜在毒性に関して知識のある適切なオーナーと注意深く熟考すべきである。忍容性の改善のために、より正確な治療計画技術や代替プロトコルが調査されるべきである。

コメント

トセラニブと放射線治療の併用の有用性や有害事象に関してはこれまでも報告があるが、腫瘍の種類や照射部位、照射プロトコルが統一されておらず、結果も様々である。本研究では粘膜病変の副作用が出やすい可能性、連日の照射によって急性障害が助長される可能性が考察されている。トセラニブは使用頻度が高く、紹介来院時に内服している症例も増えているため、放射線治療との併用におけるリスクやベネフィットがより正確に評価されることを期待する。