Journal Club 202212

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2022.12

筋肉浸潤性イヌ尿路移行上皮癌に対するピロキシカム、化学療法及びWPRT(全骨盤照射)/VMAT(強度変調回転放射線治療)の併用療法:初の臨床研究

A combined protocol with piroxicam, chemotherapy, and whole pelvic irradiation with simultaneous boost volumetric modulated arc radiotherapy for muscle-invasive canine urinary transitional cell carcinoma: First clinical experience

Luca Malfassi, Francesca Fidanzio, Massimo Sala et al. J. Vet. Med. Sci. 2021 Apr 24;83(4):695-704. doi: 10.1292/jvms.19-0662. Epub 2020 Sep 22.

本研究の目的は、犬TCC(移行上皮癌)症例に対して内科療法と併用して、WPRT(全骨盤照射)にVMAT(強度変調回転放射線治療)を利用した寡分割ブースト照射が実現可能であるか、有効性があるかどうかを評価することであった。TCC症例を尿路限局性のグループ1と転移のあるグループ2に分け、PTV(計画目標体積)の線量は36-42Gyで調整された。全頭(12頭)に対して放射線治療前にピロキシカムを投与し、11頭に対しては放射線治療中に増感剤としてのカルボプラチンを投与した。また、6頭では放射線治療後に化学療法を実施した。CTとMRIにより経過を追い、VRTOGの基準に沿って放射線障害を評価した。治療の認容性は高く、重篤な副作用は認められなかった。グループ1と2のOST(全生存期間)の中央値はそれぞれ1230日、150日であった。論文執筆時点でグループ1の多くの症例が生存しているため、より長期のフォローアップにより正確な生存期間の分析が可能となるであろう。この予備分析は、ピロキシカム、化学療法およびWPRTにVMATによるブースト照射を併用することが犬のTCC症例に対する安全性の高い治療法であることを示している。また、転移の存在は負の予後因子と考えられる。

コメント

犬の移行上皮癌に対する放射線治療の報告はまだ少なく、臨床症状の改善等の有効性が示唆されている反面、膀胱の線維化や破裂、消化管穿孔といった重度の副作用も報告されている。本研究ではVMATによるブースト照射を併用したWPRTの安全性が示されており、今後の研究で、正常な膀胱、尿道やリンパ節に対する予防的照射の予後への影響も明らかになるかもしれない。放射線治療単独で実施している訳ではないため、併用しているカルボプラチンの放射線増感効果や補助化学療法の効果も評価する必要がある。

2022.12

自然発症した軟部組織肉腫の犬におけるヒストトリプシー

Mechanical High-Intensity Focused Ultrasound (Histotripsy) in Dogs with Spontaneously Occurring Soft Tissue Sarcomas

Lauren Ruger, Ester Yang, Jessica Gannon et al. IEEE Trans Biomed Eng. 2022 Aug 25; PP. doi: 10.1109/TBME.2022.3201709. Online ahead of print.

緒論:ヒストトリプシーは制御された音響キャビテーションを使用して組織を機械的に破壊する非侵襲的集束超音波療法である。現在まで軟部組織肉腫(S T S)の治療法としてヒストトリプシーを検討した報告はない。
目的:本研究では、ヒストトリプシーによるS T S切除のin vivoでの実行可能性を調査し、イヌの自然発症S T S患者の急性免疫反応に対するヒストトリプシー部分切除の影響を評価することを目的とした。
方法:特注の500 kHz超音波治療装置を使って、S T S のイヌ、10頭を治療した。ヒストトリプシー4-6日後に腫瘍を外科的に切除した。安全性は治療中のバイタルサイン、治療後の身体検査、定期的な臨床検査及び飼い主の報告によって決定された。アブレーション領域はX線、C T及び病理組織学的に評価した。全身免疫学的影響はサイトカイン濃度を測定することで評価し、腫瘍微小環境の変化は、腫瘍関連マクロファージ及び腫瘍浸潤リンパ球の浸潤を多重免疫組織化学染色、遺伝子発現量で評価した。
結果:ヒストトリプシーによる切除は10頭全てで達成可能であり、忍容性も高いことが示された。免疫学的な結果は、ヒストトリプシーによって腫瘍微小環境に炎症性の変化を誘発することが確認された。
結論:本研究は、S T Sに対する精密かつ非侵襲的な治療法としてのヒストトリプシーの可能性を示している。

コメント

本研究では腫瘍体積の25%未満を治療範囲とし、数日で腫瘍を摘出している。獣医療域では摘出が不可能なSTSにも遭遇することも多い。治療範囲を拡大し、観察期間を伸ばした際の再発・転移の有無を調べることも、有効性を評価する点で重要であると感じる。