Journal Club 202304

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.04

中耳真珠腫の外科治療において口腔内アプローチを用いた犬2頭

Surgical treatment of middle ear cholesteatoma using an oral approach in 2 dogs

Kae Shigihara, Naoko Yayoshi, Harumi Sawada, et al. Can Vet J. 2022 Apr;63(4):400-406.

中耳真珠腫は鼓室胞内の上皮の蓄積により起こり、進行によって鼓室胞の膨張・拡大とそれに伴う周辺組織の破壊が生じる。本研究では、中耳真珠腫の犬2例に対して口腔外科的アプローチによって治療を行ったのでその概要について報告する。2例とも鼓室内容物の減量と咽頭の圧迫解除に成功した。CT画像、手術所見、病理組織学的結果は、両症例とも中耳真珠腫と一致した。2症例の結果から、口腔外科的アプローチは犬の中耳咽頭腫に対する代替治療となりうることが示唆された。

メッセージ

本研究で紹介した症例数は限られているが、我々の報告は、犬の中耳真珠腫に対する直接的な口腔内アプローチが外科的代替アプローチである可能性を示している。

コメント

中耳真珠腫の治療は外科摘出であり、外側鼓室胞骨切り術(LBO)、腹側鼓室胞骨切り術(VBO)が実施されてきた。しかし、進行した中耳真珠腫は咽頭に浸潤し、頭蓋骨の融解を引き起こすことがあり、外側、腹側からではアプローチが難しい。この報告では口腔内から中耳真珠腫にアプローチしており、腫瘤による気道閉塞から生じる呼吸困難や嚥下障害を改善することに成功した。進行症例においては腫瘤への最短アプローチであり、重要な神経を障害しないメリットがあるが、手術のために気管切開や軟口蓋切開を要し、顎動脈からの出血リスクがある点がデメリットである。咽頭部の病変は採食や呼吸に影響するため、口腔内アプローチによる腫瘤の摘出はQOLの改善に大きく貢献すると考えられる。

2023.04

微小血管内皮グリコカリックス:獣医学における追加情報

The microvascular endothelial glycocalyx: An additional piece of the puzzle in veterinary medicine.

Sara J Lawrence-Mills, David Hughes, Melanie J Hezzell, et al. Vet J. 2022 Jul;285:105843. doi: 10.1016/j.tvjl.2022.105843. Epub 2022 May 30.

グリコカリックス (Glx) は、上皮細胞や細菌など生細胞の細胞外膜を覆う微視的構造で、近年は、特に管腔表面を覆う内皮細胞に着目されており、多くの病態に関連していることがわかっている。この多層構造には、受容体、酵素、および増殖因子などのさまざまな成分が含まれており、アルブミンなど血漿由来分子が、一時的にGlxに結合する。その他にも、内皮細胞接着分子や凝固・線維素溶解カスケードの成分も含まれる。Glxの分解産物の定量化として、ELISAを用いたヒアルロン酸やシンデカン-1などが測定されている。
Glxについて様々な報告がある。敗血性ショック犬に対して低分子ヘパリンを投与した研究において、Glx脱落を保護する可能性が示された。出血性ショックの犬において、晶質液、HES、サクシニル化ゼラチン(GELO)を急速投投与後、晶質液で早期のGlx脱落が認められることが示された。他にも、輸液速度とGlx損傷の関連性も調査されている。
Glxは、敗血症を含む炎症、虚血再灌流障害、過剰輸液などに起因する体液量過剰、高侵襲手術、多発外傷・重症熱傷といった急性のストレス状況によって障害を受けるだけでなく、高血糖や糖尿病、高コレステロール血症のような慢性的ストレスによっても障害される。
多数のGlx 損傷に関する有害事象のエビデンスが増えていることから、様々な治療法の医学研究が注目されているが、残念ながら現在認可された製品はない。Glx 保護のための最も効果的な方法は、体液量の過負荷を防ぐこと である。他にも、ドキシサイクリンのGlx安定化作用や、ヘパリン系薬剤がGlxの再生を促進し、Glx 分解酵素の発現低下、内皮細胞に対して抗アポトーシスおよび抗炎症効果を発揮すると考えられている。

コメント

Glxは、恒常性の維持と様々な病態の進行に関与する複雑な構造物であり、このレビューに採用されている多くの報告ではELISA を使用した eGlxの間接的な測定方法の有用性が示されている。今後、一般臨床でも応用されれば診断・治療の足がかりとなり得る。
日々の診療では、侵襲性の高い手術や生検や手術に伴う出血性ショック、誤嚥性肺炎や出血治療後のARDSなどの治療に苦慮することがあり、Glxの損傷程度の数値化、それに伴う治療方針の検討や新規治療薬剤の開発が進むことが期待される。

2023.04

リンパ腫の犬におけるビンクリスチンの血小板数への影響

Evaluation of the effect of vincristine on platelet count in dogs with lymphoma

O Campbell, V S MacDonald, R M Dickinson, et al. J Small Anim Pract. 2019 Dec;60(12):734-738. doi: 10.1111/jsap.13080. Epub 2019 Nov 18.

目的:リンパ腫と診断されビンクリスチン投与を受けた犬の血小板数、血小板形態、血小板減少症の発生率を確認すること。
材料と方法:ビンクリスチン投与を受けたリンパ腫の犬59頭(全280回)の医療記録が遡及的に検討された。
結果:ビンクリスチン投与後、血小板数は増加し、血小板減少症の犬の数は減少した。ビンクリスチン治療後に巨大血小板、楕円状血小板を認めた犬の数に差はなかった。
臨床的な意義:ビンクリスチン投与により、リンパ腫の犬の血小板数は増加する。血小板減少症のリンパ腫を患っている犬にビンクリスチンを投与することは禁忌ではない。

コメント

血小板減少症の治療にビンクリスチンを用いることは過去の報告でも有効性が確認されており、本研究はリンパ腫のような担癌患者においてもその効果が期待できる可能性を示された。また、これ以降の報告ではビンクリスチンにより増加したあとの血小板の機能に問題がないことが示唆されており、単純に数を増やすのではなく機能的にも治療に貢献していることが示されている。Platelet number and function in response to a single intravenous dose of vincristine(Erin C.et 2021)