Journal Club 202306

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.06

自然発生した口腔新生物を持つ愛玩犬において、造影および間接CTリンパ管造影は転移リスクのあるリンパ節を正確に同定することができる。

Contrast-enhanced and indirect computed tomography lymphangiography accurately identifies the cervical lymphocenter at risk for metastasis in pet dogs with spontaneously occurring oral neoplasia

Stephanie Goldschmidt, Nikia Stewart , Christopher Ober, et al. PLoS One. 2023 Mar 2;18(3):e0282500. doi: 10.1371/journal.pone.0282500.

口腔腫瘍の犬では、頸部リンパ節(LN)転移が治療と予後を左右する。そのため、治療前に臨床的な転移の有無(cN+頸部)を正確に判断することが賢明である。現在、外科的なLN切除と病理組織検査が、転移の診断のためのゴールドスタンダードとなっている。しかし、病期分類のために選択的頸部郭清(END)を行うことを推奨することは、罹患率の問題から稀である。間接CTリンパ管造影法(ICTL)によるセンチネルリンパ節(SLN)マッピングとSLN生検(SLNB)は、ENDに代わる選択肢である。この前向き研究では、自然発生した口腔新生物を持つ39頭の犬に対して、すべての下顎LN(MLN)と内側後咽頭LN(MRLN)のSLNマッピングと両側のENDが行われた。38頭(97%)の犬でICTLによりSLNが確認された。リンパドレナージパターンは様々であったが、多くの場合、SLNは同側の単一のMLNとして同定された。病理組織学的にLN転移が確認された13頭(33%)において、ICTLは全頭(100%)において排出リンパ中心を正しく同定した。転移は11頭(85%)でSLNに限局していたが、2頭(15%)で同側のSLNを越えて転移があった。造影CTの特徴は転移を予測するのに良い精度を示し、短軸寸法が10.5mm未満であることが転移がないことを最も予測しやすいとされた。ICTL画像の特徴だけでは転移を予測することはできなかった。細胞学的または病理組織学的なSLNサンプリングは、臨床的な意思決定に役立てるため、治療前に行うことが推奨される。これは、犬の口腔腫瘍における頸部LN評価のための低侵襲ICTLの潜在的な臨床的有用性を示す最大の研究である。

コメント

頭頸部腫瘍の転移を診断するためのENDは、術部の腫脹や感染等の合併症を伴うことが多く、侵襲性の高い手術である。転移したリンパ節の摘出が予後を延長することが示されている腫瘍は限られるため、診断時にENDの実施を選択することは少ない。したがって、SLNBによって高い精度で転移を診断できるのであれば、症例に対する侵襲性は低く、ステージングに有用である。本研究ではSLNを超えた転移が3件あったため、画像診断時に留意する必要がある。

2023.06

猫のリンパ芽球性リンパ腫に対する化学療法とその後の腹腔内照射

Chemotherapy followed by abdominal cavity irradiation for feline lymphoblastic lymphoma

Laurel E Williams, Amy F Pruitt, Donald E Thrall. Vet Radiol Ultrasound. 2010 Nov-Dec;51(6):681-7. doi: 10.1111/j.1740-8261.2010.01723.x.

背景:多剤併用化学療法は猫リンパ腫の標準治療だが、化学療法単独によって寛解期間の臨床的に重要な改善が得られる可能性は低い。 リンパ組織は一般に放射線感受性であり、リンパ腫の治療として化学放射線療法の支持は、ヒトとイヌの両方に見られる。
目的:リンパ芽球性リンパ腫の猫における導入化学療法後の15Gyの全腹部分割照射に対する正常組織の耐性を評価すること。
方法:腹腔内に限局したリンパ芽球性の消化器型または多中心性リンパ腫の 8 頭の猫に対し、6 週間の化学療法プロトコルおよび、1回 1.5Gy 、計10 回の全腹部照射が行われた。
結果:忍容性は良好であった。 放射線療法の開始時に1頭の猫で記録された腎不全は、安定した慢性腎不全に進行した。 放射線療法の時点で完全に寛解していなかった1頭の猫は2週間後に再発し、多中心性リンパ腫の1頭の猫は肝臓の大顆粒性リンパ腫で再発し、1頭の猫は放射線療法の完了から3週間後に他の理由で安楽死された。死後の評価では、リンパ腫または放射線障害の証拠は確認されなかった。 残りの5 頭の猫は、治療開始後少なくとも 266 日は寛解状態を維持した。
考察:導入化学療法後の合計 15Gyの全腹部分割照射が十分に許容されることが示唆された。このプロトコルは、有効性を定量化するためさらなる研究が必要と思われる。

コメント

消化管の高悪性度リンパ腫は化学療法に反応するものの、長期的な寛解が得られないことが多い。症例数が少なく、寛解した症例に限定した研究であるが、全腹部照射による有害事象は軽度であることが多く、治療選択肢が限られる症例には検討しても良いかもしれない。

2023.06

イヌ肥満細胞腫の間接CTリンパグラフィーと近赤外蛍光センチネルリンパ節マッピングの比較

Comparison of indirect computed tomographic lymphography and near-infrared fluorescence sentinel lymph node mapping for integumentary canine mast cell tumors

Alejandro Alvarez-Sanchez, Katy L Townsend, Lauren Newsom, et al. Vet Surg. 2023 Apr;52(3):416-427. doi: 10.1111/vsu.13929. Epub 2022 Dec 27.

目的:皮膚肥満細胞腫(MCT)の犬を対象に、センチネルリンパ節(SLN)マッピングのための間接的computed tomographic lymphography(ICTL)と近赤外蛍光(NIRF)の単独使用と併用使用を比較し、リンパ節転移率を報告すること。
研究デザイン:プロスペクティブ
動物:20頭の犬
方法:対象となった犬は術前のICTL、術中のNIRF SLNマッピングを実施し、解剖学的リンパ節(ALN)および/またはSLNの切除、および原発性MCTの切除を実施された。MCTは2段階および3段階でグレーディングされ、リンパ節はHN0-3の3段階で評価された;HN2-3は転移とみなされた。
結果:ICTLとNIRFの完全一致は8/20(40%)、部分一致は8/20(40%)、不一致は4/20(20%)の犬でそれぞれみられた。ICTL-SLNおよびNIRF-SLNの検出は、それぞれ1/20(5%)および4/20(20%)で失敗した。腫瘍は19/20頭(95%)でグレードII/低グレード、1/20頭(5%)でグレードIII/高グレードであった。20頭中19頭(95%)がHN2-3 LNであった。
結論:16/20頭(80%)の犬で少なくとも1つのSLNの部分的一致がみられた。ほとんどのMCTは中悪性度から低悪性度に分類されたが、LN転移がよく検出された。
臨床的意義:MCTのSLNマッピングにICTLとNIRFを組み合わせると、高いSLN検出率が得られる。リンパ節転移は、中等度から低悪性度のMCTにおいて、これまで報告されているよりも頻繁に発生している可能性がある。

コメント

2つの検査を組み合わせることで高い確率でリンパ節転移を検出することができた。いずれも実施可能な施設が限られる方法であり、NIRFに関しては深部のリンパ節においては皮膚切開が必要である。これまでと比較して高い転移率が示されたが、これらのリンパ節に対して治療が必要なのかは検討が必要である。

2023.06

口腔外科における骨表面に対するポリグリコール酸シートとフィブリン糊の適応:ケースシリーズ

Application of Polyglycolic Acid Sheets and Fibrin Glue Spray to Bone Surfaces During Oral Surgery: A Case Series

Satoshi Rokutanda, Souichi Yanamoto, Shin-Ichi Yamada, et al. J Oral Maxillofac Surg. 2015 May;73(5):1017.e1-6.doi: 10.1016/j.joms.2015.01.014. Epub 2015 Jan 29.

目的:過去の研究では、ポリグリコール酸(PGA)シート(吸収性生体材料)とフィブリン糊を組み合わせることで、口腔外科手術による軟部組織の解放創を治療可能であることが示された。しかし、露出した骨組織の治療に関する詳細な調査は存在しない。この研究では、口腔外科手術における露出した骨表面を治療するためのPGAシートとフィブリン糊の有用性を調査した。
材料と方法:PGAシートとフィブリン糊は、悪性腫瘍と診断された8人の患者(10部位)の病変摘出に露出した骨表面に塗布された。シートは細かくカットされ(幅5〜10 mm)、露出した骨の表面に塗布された。
結果:PGAシートの接着は、術後28〜56日目(平均、35.8日)まで確認された。PGAシートが早期に創傷から脱落した症例はいなかった。創傷表面の上皮化は徐々に起こり、創傷の大きさに関係なく、術後4〜5週目までに完了した。
結論:この方法は、術後の出血を予防し、疼痛を軽減する。口腔内の腫瘍切除後の骨表面の治療に非常に有効であると考えられた。

コメント

貼り付けるだけで縫合が不要であるため、手術時間の短縮、動物の不快感の軽減が期待できる。フィブリン糊の強度はそれなりにあるようだが、動物での使用に耐えられる程度なのか不明。口腔内の使用では肉芽腫を形成することが多いという報告もあるようで、長期的なモニタリングが必要である。また、シート、フィブリン糊共にアレルギーのリスクがあるため注意が必要。

2023.06

8頭の犬の褐色細胞腫の治療における副腎摘出手術の代替治療としての定位放射線療法

Stereotactic body radiation therapy as an alternative to adrenalectomy for the treatment of pheochromocytomas in 8 dogs

Teresa Linder, Cory Wakamatsu, Joseph Jacovino, et al. Vet Comp Oncol. 2023 Mar;21(1):45-53. doi: 10.1111/vco.12859. Epub 2022 Oct 7.

目的:犬8頭の褐色細胞腫に対する体幹部定位放射線療法(SBRT)の有用性と有害事象について調査すること。
材料と方法:2019年1月1日〜2020年3月2日の間に、副腎腫瘤、臨床症状、尿ノルメタネフリン/クレアチニン比および/または細胞診結果より褐色細胞腫と診断し、VCA West Los Angeles Animal Hospitalにて副腎摘出術の代わりにSBRTによる治療を受けた犬8頭。6頭に対して合計33Gy(11Gy x 3、3日連続)、2頭に対して合計35Gy(7Gy x 5、EOD)を実施。
結果:すべての犬は、SBRTの終了後、臨床症状が完全に消失した。試験期間終了時、5/8頭が生存していた。死亡した患者を含む全8頭の追跡調査期間の中央値は19.75ヶ月(6-31ヶ月)。追跡調査時に生存していた患者については、追跡調査期間の中央値は25.8カ月。腹腔内出血を呈した3頭も、SBRT後出血は認められなかった。尿中ノルメタネフリン/クレアチニン比が測定された7頭について、SBRT後1-3ヶ月に再測定したところ、7例すべてで改善されていた(SBRT前の平均ノルメタネフリン/クレアチニン比は3619。SBRT後の平均ノルメタネフリン/クレアチニン比は1214)。RECIST評価では、SD 2頭、PR 2頭、CR 2頭、評価不能 2頭。生存期間の中央値は、追跡調査時に生存している患者の割合が高いため、算出することができなかった。
結論:この研究は副腎摘出術の代替として犬の褐色細胞腫の治療にSBRTを使用することを支持しており、SBRTは、麻酔または手術のリスクが高い患者、手術を妨げる併存疾患がある患者、または手術とその関連リスクを嫌うオーナーに対して検討されるべきである。

コメント

手術/麻酔リスクが高い褐色細胞腫において、麻酔時間及び麻酔回数の少ない放射線治療プロトコルは非常に有用である。また放射線治療において解剖学的に周囲臓器が近い副腎において、放射線障害の発現が少ない点も魅力的である。腹腔内出血を呈した症例の全てで症状が改善しているため、SRBTは出血に対する緊急手術の代替手段ともなり得る。実施可能施設は少ないが、さらなる症例数の蓄積に期待したい。