Journal Club 202307

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.07

犬の棘細胞性エナメル上皮腫切除後の下顎骨再建に関するレトロスペクティブ・スタディ

A Retrospective Study on Mandibular Reconstruction Following Excision of Canine Acanthomatous Ameloblastoma

Anson J Tsugawa, Boaz Arzi, Natalia Vapniarsky, et al. Front Vet Sci. 2022 May 11;9:900031. doi: 10.3389/fvets.2022.900031. eCollection 2022.

犬棘細胞性エナメル上皮腫(CAA)のような局所浸潤性の高い腫瘍の切除を行った場合、一般的に下顎の欠損に伴う顎の運動性低下が生じるため患者のQOLに影響を与えることがある。このケースシリーズでは11頭の犬において下顎CAA切除のための下顎骨切除術後、rhBMP-2を注入したチタン製ロッキングプレートと圧縮耐性マトリックスを用いた即時または遅延再建の経験について述べる。手術計画には全例で造影剤を使用したCT撮影を行い、4例では3Dプリンターで作成したモデルを使用した。全例で完全切除が得られている。フォローアップ(平均23.1カ月)は身体検査およびCT/コーンビームCTを用いた画像検査がほとんどの症例で行われ、標準X線撮影(3例)および遠隔医療が5例で活用された。術後2週間で欠損部に硬い組織が触知された。術後1ヶ月のフォローアップ画像では不均質な新生骨が確認され、3~6ヶ月かけて本来の骨と同様のサイズ、形状、海綿状パターンを持つ骨へとリモデリングした。再生骨の組織学的評価は2例で行われ、正常な再生骨の臨床的および画像的所見を支持するものであった。臨床的には全例が通常の生活に戻り、採食も速やかに再開し、咬合も正常であった。合併症は1頭に創部離開、2頭に過剰骨形成がみられた。腫瘍の再発、インプラントの破損、再生骨の破壊は観察されなかった。CAAのような良性だが侵襲性のある口腔内腫瘍に対する下顎骨部分切除術及び両側吻側切除術後の犬において、本研究で利用した方法による下顎骨再建は安全で実現可能であり、下顎の輪郭を回復する結果となった。

コメント

犬の下顎切除では、広範囲の切除により摂食障害や不正咬合、外貌の変化等が生じることが多い。本研究では骨再生用生物製剤とインプラントにより良好な骨再生を実現できた。今回の症例は22-64 kgの大型犬であり、国内で多く飼育されている小型犬に適応となるかは定かでない。また、骨再生用生物製剤に対する免疫反応の有無も慎重に調査すべきである。

2023.07

犬のステージⅢ四肢骨肉腫の治療としてのゾレドロネートの評価:第Ⅱ相試験

Evaluation of zoledronate for the treatment of canine stage3 osteosarcoma : A phase Ⅱ study

Ashley A Smith, Stephanie E S Lindley, Greg T Almond, et al. Vet Med Sci. 2023 Jan;9(1):59-67. doi: 10.1002/vms3.1000. Epub 2022 Nov 18.

背景:犬の四肢骨肉腫の90%以上は、様々な治療にもかかわらず肺転移を呈する。ビスホスホネートの一種であるゾレドロネートは、イヌの骨肉腫細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍微小環境を調節することが示唆されている。
目的:この前向き単一施設第Ⅱ相試験では、骨肉腫による肺転移のある犬においてゾレドロネート単剤の使用効果・有害事象について調査した。
方法:ゾレドロネートを月に1回投与し、胸部X線にて反応性を評価。
結果:11頭の犬が研究対象となった。3例は1ヶ月以内に研究対象から離脱し、8例のうち 2例で病気の安定が達成された。無増悪生存期間の中央値は28日(範囲:4~93日)、ステージ III に特異的な生存期間の中央値は 92 日であった。有害事象が4例で報告された。2例がグレード3以上の毒性を示した。注目すべき有害事象には、結膜炎、発熱、低カルシウム血症、および低リン酸血症が含まれた。
結論:ゾレドロネートは、III期骨肉腫に対する単剤としての有効性が限られているようであり、この集団では予期せぬ毒性を伴う可能性があります。

コメント

過去の研究ではZOLの抗腫瘍効果が示唆されているが、本研究では進行症例が多いためか、ZOL単独治療での予後改善は難しいという結果であった。しかし、研究途中で犬の最大投与量が人よりも高いと発表されており、初期に使用された量が進行症例に対する投与量として適切であったのかは再検討が必要である。

2023.07

外科手術を受けた唾液腺腫瘍の犬の転帰と臨床的特徴:多施設後ろ向き研究

Outcomes and clinical features associated with surgically excised canine salivary gland carcinoma: A multi-institutional, retrospective, Veterinary Society of Surgical Oncology study

Kaleigh M Bush, Janet A Grimes, Daniel S Linden, et al. Vet Surg. 2023 Apr;52(3):370-378. doi: 10.1111/vsu.13928.

目的:外科治療を受けた唾液腺腫瘍の犬の臨床的特徴、予後因子、および転帰を説明すること
研究デザイン:多施設レトロスペクティブ研究
組入:唾液腺腫瘍を切除した16 施設の犬72頭
方法:2000年1月1日から2020年1月1日までに唾液腺の切除術を受けた犬の医療記録を対象に、シグナルメント、臨床徴候、術前病期分類、術前集団評価、合併症、組織病理学的診断、局所再発、転移性疾患、生存期間について検討した。生存関数は、Kaplan-Meier 曲線を使用した。生存に関連する要因には、ログランク検定を使用した。
結果:唾液腺腫瘍に関連する全生存期間中央値 (MST) は 1886 日。局所再発は 29/69 頭 (42%) の犬で発生し、全無病期間 (DFI) は 191 日。転移性疾患は 22/69 頭 (31.9%) の犬で発生し、全体の DFI は 299 日。手術時にリンパ節切除術が行われた11/38頭(28.9%)の犬では、手術時にリンパ節転移が存在していた。これらの犬のDFIは 98 日で短く ( P = 0.03)、MST は 248 日で短かった ( P < 0.001)。
結論:外科的に治療された唾液腺腫瘍の犬の予後は、これまでの報告よりも良好であった。リンパ節転移は犬唾液腺腫瘍の予後不良因子だった。
臨床的な意義:唾液がんの犬には外科的介入を考慮する必要がある

コメント

本研究では唾液腺腫瘍を外科摘出した症例の長期予後が示された。リンパ節転移は負の予後因子であったが、腫瘍の皮膜内浸潤の有無やマージンは予後に関連しなかった。よって、手術を検討できる唾液腺腫瘍に対しては、積極的な外科的介入が推奨される。しかしながら、周囲組織への浸潤が著しい進行した唾液腺腫瘍にもたびたび遭遇する。手術以外の有効な治療に関する研究が望まれている。

2023.07

犬と猫の口腔顎顔面腫瘍手術後の局所皮弁再建

Locoregional Flap Reconstruction Following Oromaxillofacial Oncologic Surgery in Dogs and Cats: A Review and Decisional Algorithm

Michel Guzu, Diego Rossetti and Philippe R. Henne. Front Vet Sci. 2021 May 21;8:685036. doi: 10.3389/fvets.2021.685036.

犬や猫の多くの口腔顎顔面腫瘍の第一選択肢は外科手術である。悪性腫瘍の治療では、生命機能を維持しながら(広範囲/根治的)外科的切除を達成する必要があり、非常に難易度が高い場合がある。口腔顔面腫瘍を除去すると、大きな欠損が生じて口腔が露出したり、鼻腔、咽頭、眼窩との連絡が生じることがある。このような欠損には、呼吸機能や運動機能を回復するために口腔顔面再建が必要である。獣医師は欠損部を閉じることができず、切除が不十分になる可能性を防ぐために、再建技術に精通している必要がある。鼻腔が露出する小さな口腔欠損は、局所的な粘膜で閉じるのが最善である。大きな口腔欠損の閉鎖は、顔面または口蓋に基づく軸状皮弁を使用することでより適切に達成できる場合がある。軽度から中等度の顔面欠損は、局所的な前進皮弁または移植によって閉創することができる。大きな顔面欠損の再建には、多くの場合、後耳介動脈皮弁、浅側頭動脈皮弁、または顔面(口角筋)筋肉皮弁などの局所領域軸状皮弁の使用が必要となる。 最近の出版物では、顔面(口角筋)皮弁が口腔顔面再建手術において非常に多用途で信頼性の高い皮弁であることが示されている。欠損の大きさ、性質、位置に基づいた外科的決定アルゴズムが提案されている。

コメント

近年は動物の病気に対する意識が高まり、腫瘍が比較的早期に発見されたり、動物に対しても積極的な外科手術を望まれることが増えている。頭頸部は外科手術の際にマージンが取りにくい部分の一つであり、元々の機能を維持しつつ腫瘍を摘出するのが難しい場合もある。解剖を理解し、綿密な計画を立てて手術に臨むべきである。また、術後合併症に関しては予め十分にオーナー様にご説明し、ご理解いただく必要がある。