Journal Club 202309

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.09

犬の肥満細胞腫における腫瘍内免疫細胞浸潤と病理組織学的悪性度との関連の検討

Exploring the association of intratumoral immune cell infiltrates with histopathologic grade in canine mast cell tumors

Victoria R. Costa , Aimee M. Soileau , Chin-Chi Liu et al. es Vet Sci. 2022 Oct:147:83-91. doi: 10.1016/j.rvsc.2022.04.005. Epub 2022 Apr 22.

犬の皮膚肥満細胞腫(ccMCT)は、その生物学的挙動、治療、および予後がその悪性度により異なる。免疫細胞の浸潤は、一部のヒトの癌の予後や治療に対する反応性と関連しており、獣医腫瘍学においても免疫標的治療薬がますます検討されている。しかし、現在のところ、ccMCTにおける腫瘍微小環境(TME)についてはほとんど知られていない。そこで本研究の目的は、低悪性度および高悪性度ccMCTにおけるTリンパ球、T制御性リンパ球、PD-1+細胞およびマクロファージの浸潤を明らかにすることである。低悪性度30検体および高悪性度20検体のホルマリン固定パラフィン包埋ccMCTを対象とした。CD3、FOXP3、Iba1、PD-1を検出するため、連続切片で免疫組織化学(IHC)を行った。各腫瘍について、CD3+細胞の数が最も多い3つの400倍野を同定した。CD3+細胞、FOXP3+細胞、およびIba1+細胞の割合とPD-1+細胞数は、ImageJソフトウェアを用いて、これら3つの「ホットスポット」領域それぞれにおいて定量された。Iba1の発現は、低悪性度ccMCTと比較して高悪性度で有意に多かった(平均値=12.5%対9.6%、p=0.043)。PD-1発現は全体的に低かったが、高悪性度ccMCTではPD-1発現細胞数が有意に多かった(中央値1対0、p = 0.001)。CD3およびFOXP3の発現には、ccMCTの悪性度間で有意差は認められなかった。マクロファージおよびPD-1+細胞は、低悪性度 ccMCTと比較して高悪性度 ccMCTで頻度が高かった。高悪性度 ccMCTにおけるマクロファージおよび稀なPD-1+細胞の役割を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

コメント

腫瘍微小環境(TME)は、腫瘍細胞やその周囲の正常細胞、免疫細胞、血管系細胞、線維芽細胞等から構成され、腫瘍の進行に大きく関わっている。本研究では高悪性度ccMCTにおいて、マクロファージの増加が認められた。腫瘍の悪性度が高いため、結果として炎症反応で集まったマクロファージが多かったのか、逆にM2型マクロファージなどの腫瘍促進性のマクロファージが多数存在するためにccMCTが悪性であったのかは不明である。したがって今後はM2型マクロファージ等のサブタイプを定量し、高悪性度および低悪性度ccMCTにおける発現の差を調べる必要がある。TMEでのマクロファージの働きを明らかにすることで、ccMCTの新たな治療標的が得られる可能性がある。

2023.09

犬口腔悪性黒色腫治療における電気化学療法と治療結果に影響を与える要因

Electrochemotherapy in treatment of canine oral malignant melanoma and factors influencing treatment outcome

Matías Nicolás Tellado, Felipe Horacio Maglietti, Sebastián Diego Michinski, et al. Oncol. 2020 Mar 7;54(1):68-78. doi: 10.2478/raon-2020-0014

背景:悪性黒色腫は、犬の口腔内悪性腫瘍で最も一般的だが、非常に悪性度が高く予後不良である。 電気化学療法 (ECT) は、このような腫瘍に対して効果的な局所治療として可能性を秘めている。この前向き臨床研究の目的は、犬の口腔内悪性黒色腫の一次治療としてのECTの治療効果を評価し、治療結果に影響を与える因子を探索することである。
方法:外科治療が第一選択治療の候補ではない、原発性口腔内悪性黒色腫を患っている67頭の犬が登録された。すべての犬はECTを受け最大で2年間にわたり追跡検査を行った。
結果:RECIST基準に基づくと客観的奏効率は、ステージI、II、III、IVでそれぞれ100%、89.5%、57.7%、36.4%だった。部分的または完全奏効を示したステージ I、II、III の患者のみが生活の質が改善した。進行までの期間の中央値は、ステージ I、II、III、IV の患者でそれぞれ 11、7、4、4 か月、治療後の生存期間中央値は 16.5、9.0、7.5、4.5 か月だった。局所反応性は、ステージ I および II(p = 0.0013)、骨病変がない場合(p = 0.043)で有意に良好だった。
結論:電気化学療法は、代替治療法がない場合の犬の口腔内悪性黒色腫の局所治療に効果的である。骨病変のない腫瘍を有するステージ I および II の患者では、より良い反応が期待される。

コメント

犬の口腔内メラノーマの局所治療として、電気化学療法の有効性が示された。本研究では外科不適応の症例にのみ実施しているが、外科手術との組み合わせ(不完全切除の症例など)による局所制御率の改善や、再発症例に対する有効性等、今後の研究が期待される。