Journal Club 202312

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2023.12

ビーグルモデルに舌粘膜移植片を使用した尿道再建の新技術

A new technique for ureteral reconstruction using lingual mucosa grafts in a beagle model

Yujie Xu, Lin Sun, Qiufeng Pan et al. Int Urol Nephrol. 2021 Jan;53(1):83-89. doi: 10.1007/s11255-020-02619-3. Epub 2020 Aug 30.

背景:尿管再建の理想的な術式はまだ確立されていない。われわれは、舌側粘膜移植片(LMG)を用いた尿管再建の実現可能性を検討し、ビーグルにおけるLMGの組織学的変化を評価した。
方法:雄のビーグル犬12頭を無作為にA、B、C群に分けた(n=4)。尿管壁の半分を切除して腹側尿管欠損モデルを作製した。欠損部の長さはA、B、C群でそれぞれ3cm、6cm、10cmであった。LMGを採取し、オンレイ法で尿管欠損を修復した。各群2頭を6ヵ月後に安楽死し、さらに各群2頭を12ヵ月後に安楽死した。静脈内尿路造影(IVU)と解剖後の各種検査を行い、腎機能と尿管開存性を評価した。組織治癒過程におけるLMGの組織学的変化を組織学的解析により評価した。
結果:術後合併症はみられなかった。C群の1頭だけが近位吻合部付近で軽度の狭窄を生じた。残りの11頭では、IVUで腎機能は正常であり、狭窄や線維化のない広い尿管口径を示した。LMGで再建された尿管の直径は、近位尿管および遠位尿管の直径よりも大きかった(各p値<0.01)。LMGは新たに形成された毛細血管とともに移植部位で生着していた。術後12ヵ月の舌側粘膜の上皮は尿路上皮に類似していた。
結論:LMGを用いたこの新しい尿管再建術は実現可能である。このアプローチは、長い尿管狭窄を治癒するための有望な代替臨床治療法である。

コメント

尿管再建を実施する機会は極めて稀であるが、稀であるがゆえに研究報告が少なく最適解が得られていない現状である。ところがいざ、外傷による尿管断裂や尿管移設後の破綻や壊死などで尿管再建実施を考慮する場合に、急激な臨床症状の悪化とともに主治医の迅速な判断(再建位置、方法)が求められるだけでなく、開腹後に尿管遠位端の壊死により尿管のトリミングを余儀なくされ腹壁開口が不可能となり、再建の選択肢が術中に制限されることもあるようである(2015, Can Vet J)。この場合に姑息的に結腸吻合が選択されているが過去に報告されるような重大な合併症(尿再吸収や感染など)が起こっており理想的なリカバリー方法とは言い難い。この論文では舌粘膜を用いた尿管再建方法の可能性が示唆された。尿管再建が必要とされる状況には様々なパターンが想定されるが、この論文が、上記のような判断が求められた際の選択肢の1つとなればと思う。