Journal Club 202402

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2024.02

犬の骨肉腫患者における抗酸化物質1銅シャペロン遺伝子の発現と銅レベル

Antioxidant 1 copper chaperone gene expression and copper levels in dog osteosarcoma patients

Pedro L. Rivera, William T. Li, Sumail Bhogal et al. Veterinary and Comparative Oncology. 2023 Apr 21. Volume21, Issue 3: 559-564. doi: 10.1111/vco.12903

骨肉腫(OS)は犬でよく発生する腫瘍であるが、既存の治療法を上回る新規治療は長年開発されていない。人医学ではOS患者において血清中濃度が増加し、銅代謝に関する酵素活性が変化することがわかっている。そのため本研究ではOSを有する犬での銅代謝に着目し、新たな治療戦略を検討した。OSを有する四肢切断を受けた24頭の犬を研究対象とし、銅動態を測定した。手術時に血清、OS腫瘍、正常骨を採取し、RNAを抽出し、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いて遺伝子発現を行った。組織および血液中の銅濃度を分光光度法で測定した。骨と比較して、腫瘍サンプルは抗酸化1銅シャペロン(ATOX1, p = 0.0003)の発現が有意に高かった。OS腫瘍の銅レベルは、血清(p < 0.010)および骨(p = 0.038)よりも有意に高かった。マウスやヒトのOSにおける我々の以前の報告と同様に、イヌのOSは銅代謝を調節する遺伝子(ATOX1)の過剰発現を示し、それに伴い銅レベルも上昇した。OSを持つ犬は、薬理学的介入の可能性と同様に、これらの因子のさらなる研究のための強固な比較腫瘍学的プラットフォームを提供するかもしれない。

コメント

イヌの骨肉腫において、銅代謝に関わる因子の動態が一部明らかになったことは、今後の骨肉腫の生物学解明に寄与すると期待される。ドキソルビシン・ジスルフィラム・銅併用療法にて治療効果が認められたという報告もあるため、今後さらなる研究によって銅の動態が明らかになり、骨肉腫の治療成績が向上することに期待したい。

2024.02

外科用に調整されたPoly(I:C)放出ハイドロゲルの手術中局所投与は腫瘍の再発を抑制する

A surgically optimized intraoperative poly(I:C)-releasing hydrogel prevents cancer recurrence.

Francois Xavier Rwandamuriye , Cameron W Evans , Ben Wylie et al. Cell Reports Medicine. 2023 Jul 18. 4(7): 101113. doi: 10.1016/j.xcrm.2023.101113.

再発は原発巣の腫瘍摘出手術後にしばしば生じる。多くの腫瘍ではアジュバント療法は効果に限界がある。外科手術において術者は腫瘍微小環境に直接アクセスすることができ、局所的に免疫療法を適用させる機会を得る。本研究では、Toll様受容体3アゴニストであるPoly(I:C)の術創持続放出がなされるよう、生物分解性ヒアルロン酸ベースのハイドロゲルを外科用に開発し、複数のマウスモデルにおいて、本ゲルが外科療法後の腫瘍再発を防ぐことを示した。作用機序としては、Poly(I:C)が一時的なIFNαの動員をもたらし、炎症性単球を刺激し、かつ制御性T細胞を抑制することで腫瘍および創傷部の微小環境を変化させるといったものである。さらに筆者らは、治療前のIFNの存在強度によってPoly(I:C)含有ハイドロゲルの治療効果が変化することを示し、この効果は免疫チェックポイント療法を増強させることも示した。本ゲルの安全性、免疫原性、手術有効性は実際に犬の軟部組織腫瘍での試験にて担保された。したがって、このPoly(I:C)含有ハイドロゲルは腫瘍の再発を予防するための安全かつ効果的なアプローチである。

コメント

外科療法が腫瘍治療において重要な戦略であることは今後も変わらないであろう。その上で、再発率が高い腫瘍に対して、いかに再発を予防できるかというのは患者の予後に関わる重要な観点であると考えられる。本研究では、Toll様受容体3アゴニストであるPoly(I:C)に着目し、本物質が抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。さらに、その作用機序として、局所での単純な殺細胞性の効果(抗がん剤の局所投与のような)ではなく、免疫細胞の調整が関与していることを明らかにしている点が興味深い。特に、再発を予防するにあたって、本物質が記憶免疫を刺激している点に意義があると考えられる。今後犬での臨床研究がさらに進むことを期待したい。