Journal Club 202503
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2025.03
次世代シーケンシングに基づく多癌種早期検出『液体生検』血液検査の臨床検証
~1,000匹以上の犬を対象にした独立した検証セットを用いたCANcer Detection in Dogs(CANDiD)研究~
Clinical validation of a next-generation sequencing-based multi-cancer early detection “liquid biopsy” blood test in over 1,000 dogs using an independent testing set: The CANcer Detection in Dogs (CANDiD) study
Andi Flory, Kristina M Kruglyak and John A Tynan et al. PLoS One. 2022 Apr 26;17(4):e0266623. doi: 10.1371/journal.pone.0266623. eCollection 2022.
癌は犬の死亡原因の中で最も多いが、早期発見のための確立されたスクリーニング方法は存在していない。血液中の細胞外DNAにおける癌由来のゲノム変化を調べる液体生検方法は、ヒト医療における多癌種早期発見のために採用されており、現在は獣医療にも利用可能である。犬の癌早期発見のために開発された新しい多癌種検出「液体生検」検査の性能を検証することを目的とした国際的な多施設共同臨床試験である「CANcer Detection in Dogs (CANDiD)」研究の結果が報告されている。本研究には、1,358匹の癌が診断された犬と、癌がないと思われる犬が参加し、一般的な臨床で見られる犬種、体重、年齢、癌の種類が幅広く代表されている。1,100匹の犬が分析対象の基準を満たし、検査の検証に使用された。液体生検検査の全体的な感度は54.7%(95%信頼区間:49.3–60.0%)、特異度は98.5%(95%信頼区間:97.0–99.3%)であった。最も攻撃的な3種類の犬の癌(リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫)の検出率は85.4%(95%信頼区間:78.4–90.9%)であり、最も一般的な8種類の犬の癌(リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、肥満細胞腫、乳腺癌、肛門嚢腺癌、悪性黒色腫)の検出率は61.9%(95%信頼区間:55.3–68.1%)であった。この検査は、30種類の異なる癌タイプを示す癌信号を検出し、血液疾患を持つ患者群の一部には癌信号の発生元予測を提供した。さらに、臨床症状が現れる前に4匹の癌がないと思われる犬において癌信号を正確に検出し、液体生検が早期検出テストとして有用であることをさらに支持した。これらの結果を総合すると、次世代シーケンシング(NGS)を基盤とした液体生検が犬における非侵襲的な多癌種検出の新しい選択肢を提供できることが示された。
コメント
液体生検は、動物に対して低侵襲に複数種のがんを検出できる検査である。本研究の結果から、臨床症状を示さないがん高リスク犬(高齢、がん好発犬種など)に対するスクリーニングとしては有用であるといえる。逆に、既に病期が進んでおり症状が出ている犬に対して液体生検を用いる必要性は低く、より診断率の高い、個々のがん種に特異的な検査を用いるべきであると考えられる。また、病変や症状が出る数か月前にがん信号を検出できた症例もあり、液体生検ががんの早期摘発として利用できる可能性が示されたといえる。
2025.03
四肢骨肉腫を有する小型犬の術後補助化学療法の有用性
Adjuvant Chemotherapy Is Associated With Prolonged Survival Time in Small- Breed Dogs Undergoing Amputation for Appendicular Osteosarcoma
Stefano Zanardi, Silvia Sabattini and Federica Rossi et al. Vet Comp Oncol. 2025 Jan 11. doi: 10.1111/vco.13041. Online ahead of print.
補助化学療法は、大型犬の四肢骨肉腫に対する確立された治療法であるが、小型犬に関する研究は限られており、その治療成績の向上に寄与するかどうかは明らかではない。本研究は、体重15kg未満で四肢骨肉腫を発症し、治癒切除術を受けた犬を対象に、術後補助化学療法の有無による腫瘍学的転帰を検討することを目的とした。評価指標として、遠隔転移までの期間(TTDP)および全生存期間(OS)を設定した。
複数の施設のカルテを調査し、解析対象となった43頭のうち、17頭は手術単独、26頭は術後補助化学療法を併用していた。全体のTTDP中央値は265日であり、治療群間に有意な差は認められなかった。一方、OS中央値は全体で270日であり、手術単独群(150日)と補助化学療法群(353日、p=0.002)との間に有意な差が認められた。本研究のコホートにおいて、小型犬の骨肉腫は大型犬と同様に進行が速く攻撃的であることが示唆された。また、補助化学療法は生存期間の延長に寄与する可能性がある。小型犬の四肢骨肉腫における補助化学療法の有効性を確立するためには、さらなる無作為化研究が必要である。
コメント
インターネット上では「小型犬の骨肉腫は転移が少なく予後が良い」といった情報が多く見られるが、本論文ではそのような傾向は示されず、大型犬と同様に悪性度が高いことが示唆されていた。
また、補助化学療法を行っても遠隔転移は発生するものの、生存期間は約1年と大幅に延長する結果が得られており、その有効性が示された。したがって、小型犬の骨肉腫においても補助化学療法は推奨されるべきだと考えられる。