Journal Club 202505
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2025.05
犬の癌に対するPD-L1免疫組織化学検査および肺転移がある口腔内悪性黒色腫の犬における抗PD-L1抗体の臨床的有用性
PD-L1 immunohistochemistry for canine cancers and clinical benefit of anti-PD-L1 antibody in dogs with pulmonary metastatic oral malignant melanoma
Naoya Maekawa, Satoru Konnai and Maki Nishimura et al.,NPJ Precis Oncol. 2021 Feb 12;5(1):10. doi: 10.1038/s41698-021-00147-6.
プログラム細胞死1 (PD-1)およびPD-リガンド1 (PD-L1)を標的とした免疫療法は、ヒトの癌に対する有望な治療法である。我々の先行研究では、一部のイヌの癌におけるPD-L1の過剰発現が実証され、イヌキメラ抗PD-L1モノクローナル抗体(c4G12)での治療の可能性が示唆された。しかし、そのような証拠は乏しく、犬への臨床応用は限られている。
本報告では、新しい抗PD-L1モノクローナル抗体6C11-3A11を用いて免疫染色を確立し、さまざまな種類のがんにおけるイヌのPD-L1発現を評価し、肺転移がある口腔内悪性黒色腫(OMM)の犬29頭においてc4G12の安全性と有効性を調査した。
PD-L1発現はOMMを含むほとんどの悪性腫瘍で検出された。生存期間は対照群(n = 15、中央値54日)と比較した場合、c4G12治療群(中央値143日)で有意に長かった。測定可能な病変がある犬(n = 13)では、1頭の犬(7.7%)がCRだった。一部の症例では1年以上の長い生存期間(417日、530日)が得られた。治療に関連した有害事象が15頭(51.7%)の犬で観察されたがどれも軽度なものであった。
PD-L1がイヌにおけるがん免疫療法の有望な標的であり、ステージ4のOMMの安全で有効な治療法となる可能性が示された。
コメント
ステージ4のOMMに有効な全身治療はなく緩和ケアが主体であったが、希望となり得る治療法だと感じた。高額な治療費が予想されるため、使用する症例を絞り込める検査法の確立が望まれる。
2025.05
5頭の犬と2頭の猫における切除不能な肝腫瘍に対する肝動脈コイル塞栓術
Hepatic Dearterialization for Nonresectable Liver Tumorsin Five Dogs and Two Cats
Michelle T Nguyen, Chick Weisse and Stacy Kaneko et al., J Vet Intern Med. 2025 Mar-Apr;39(2):e70023. doi: 10.1111/jvim.70023.
・Introduction
巨大な肝腫瘍や結節性肝腫瘍の中には、外科的切除が危険なものもある。近年、経動脈的塞栓術や化学塞栓術がイヌやネコで評価されているが、多結節性腫瘍やびまん性腫瘍では選択的塞栓術の実施は困難である。ヒトにおいて肝動脈コイル塞栓術は安全であり、腫瘍の一時的退縮に成功することもある。
・Materials and Methods
びまん性、または切除不能な巨大肝腫瘍で、胃十二指腸動脈起始部から近位肝動脈までの肝動脈に対する経動脈コイル塞栓術を実施した症例をレトロスペクティブに評価した。記録されたデータは、症例のシグナル、臨床症状、血清生化学的変化、画像検査結果、合併症、治療に対する反応などであった。
・Results
7頭(犬5頭、猫2頭)が経動脈的肝動脈コイル塞栓術を実施され、その対象となった。すべての症例で術後24後に治療前より肝酵素が上昇していた。全頭が退院まで生存し、5頭は治療後24以内に退院した。2頭は短期間の軽度の嘔吐と食欲不振を経験し、うち1頭は再入院が必要であった。治療から約6週間後の再検査では、ALT活性とAST活性がそれぞれ5/6頭と4/5頭で低下していた。CT検査にて評価された3/4頭では、腫瘍の縮小が確認された。生存期間は50〜505日であった。
・Conclusion
全頭が退院まで生存し、3匹で腫瘍退縮が認められたという観察結果から、結節性およびびまん性肝腫瘍に対する緩和的管理の選択肢として、肝動脈コイル塞栓術を検討すべきである。
コメント
あくまでパイロットスタディであるため、動物種、腫瘍が統一されておらず症例数も少ない。有効性の評価にはさらなる研究が必要と考えられる。有害事象は許容範囲内であることから、その他の有効な治療がない場合においては肝動脈コイル塞栓術の実施を検討してもいいかもしれない。