Journal Club 202509
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2025.09
YouTubeにおける犬の癌に関する誤情報の拡散の特徴
Characterization of the dissemination of canine cancer misinformation on YouTube
Eliza R. Richartz, Brittany A. Hodgkiss and Noah C. Black-Ocken et al. Vet Comp Oncol. 2024;22(3):359-366. DOI : 10.1111/vco.12977
YouTube は世界で 3 番目に人気のあるアプリで、毎年成長を続け、毎月 20 億人以上のユーザーに達している。YouTube ではさまざまな獣医のトピックが取り上げられているが、これまで YouTube やソーシャルメディア上のさまざまな犬の癌に関するトピックの誤情報を分析した研究はない。この研究では、99 本のユニークな動画の特徴について説明し、消費者向け健康情報の検証済みの DISCERN 品質基準と患者教育資料評価ツール (PEMAT) を使用して、動画の有用性を特徴付けた。全体的な DISCERN 品質スコアの中央値は 3 (5 点満点中) で、PEMAT 理解度スコアの中央値は 72% で、動画の 61% にはほとんど誤情報が含まれなかった(それぞれp = .0228 とp ≤ .0001)。誤情報がほとんどまたは全く含まれない動画は、統計的に有意に高いDISCERN品質スコアを示した(3 vs. 2、p = .0001)。誤情報のレベルと動画の長さ、PEMAT理解度、1回の視聴あたりの高評価、または1ヶ月あたりの視聴回数との間には統計的な有意差は認められなかった。これらのデータは、犬のがんに関する動画における誤情報の割合が、人間のがんに関する様々なトピックで報告されているものと同程度であることを示している。この研究は、獣医師がペットの健康に関するより信頼性が高く理解しやすい情報をクライアントに提供する必要があることを浮き彫りにしている。
コメント
本研究は、YouTube 上で流通する犬のがんに関する情報の質を客観的に評価した点で、非常に興味深いと感じた。調査は英語圏を対象としているため、日本の状況にそのまま当てはめることは難しいものの、日本でも同様の傾向が見られる可能性があると考えられる。本研究を通じて、獣医師がエビデンスに基づいた正確で分かりやすい情報発信を行う重要性を改めて認識でき、臨床現場やペットオーナーの教育に活かされることが期待される。
2025.09
カウピーモザイクウイルスナノ粒子を用いた腫瘍内免疫療法の予備的研究:難治性犬口腔内腫瘍における安全性の検討
Pilot Study of Intratumoral Immunotherapy with Cowpea Mosaic Virus Nanoparticles: Safety in Refractory Canine Oral Tumors
Pablo Delgado-Bonet, Hugo Arias-Pulido and Noemídel Castillo Magan et al. Mol Pharm. 2025 May 5;22(5):2671-2683.
doi:10.1021/acs.molpharmaceut.5c00100. Epub 2025 Apr 14.
犬の口腔内腫瘍(扁平上皮がん、悪性黒色腫、線維肉腫)は、すべての犬のがんの6〜7%を占める。これらの腫瘍は局所再発率および転移の可能性が高く、従来の治療では十分な効果が得られないため、予後不良となることも少なくない。本研究では、カウピーモザイクウイルス(CPMV)由来のウイルス様粒子を使用した腫瘍内免疫療法を、難治性の口腔内悪性腫瘍およびリンパ節転移を有する4頭の犬に対して実施した。これらの腫瘍は化学療法に反応しない症例であり、CPMVによる治療後、軽度ながら反応を示し、重篤な免疫関連の副作用は認められなかった。追跡期間中、肺転移は確認されなかったが、すべての症例で局所進行がみられた。さらに、CPMV投与後には腫瘍組織内のT細胞(免疫細胞)の浸潤が増加し、腫瘍微小環境の活性化が示唆された。また、腫瘍促進性ケモカインであるIL-8およびCXCL1の血中濃度が急速に低下し、CPMV療法による転移抑制の可能性が示された。浸潤免疫細胞の増加、腫瘍促進性因子の減少、そして重大な副作用がみられなかったことから、本治療は安全性が高く、今後の治療選択肢としての可能性があると結論づけられる。
コメント
CPMVを用いた腫瘍内免疫療法は、局所治療としては十分な効果が得られず、生存期間の延長も本研究の結果からは望めないと言える。既報の論文の結果を踏まえると、より早期の病態に対してはより効果が期待できると推測される。しかし本研究において、元々リンパ節転移がある症例でも転移巣の増大が抑制され、かつ肺転移も確認されなかった。そのため、既に進行性で化学療法に反応しない進行性の病態に対しても転移のスピードを遅らせるという緩和目的での効果が期待できると考えられる。また、安全性が高いことから、末期のリスク症例に対しても実施しやすい治療法であるといえる。ただし本研究はパイロット研究であり、確実に経過を追えているのは2症例のみであるため、今後はより大規模な臨床試験を実施する必要がある。