Journal Club 202510

腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。

2025.10

犬における抗PD-L1抗体に耐性を持つ腫瘍に対する併用療法としての犬化抗CTLA-4抗体の開発

Development of caninized anti-CTLA-4 antibody as salvage combination therapy for anti-PD-L1 refractory tumors in dogs

Naoya Maekawa, Satoru Konnai and Kei Watari et al. Front Immunol. 2025 May 20:16:1570717. doi: 10.3389/fimmu.2025.1570717. eCollection 2025.

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん免疫療法で広く用いられているが、抗PD-1/PD-L1単剤療法の臨床効果は一般的に限定的(約20%)であり、併用療法の開発が必要であることが示されている。犬はヒトと同様の免疫能を有する環境下で自然発生的な腫瘍を発症し、抗PD-1/PD-L1抗体は同様の臨床効果を発揮する。しかし、臨床的に有用な抗CTLA-4抗体は報告されていない。本研究では、犬のCTLA-4を分子レベルで解析し、CTLA-4/リガンド結合を阻害する犬由来抗CTLA-4抗体(ca1C5)を開発した。ca1C5投与はイヌPBMC培養におけるサイトカイン産生を増加させ、抗PD-L1抗体c4G12との併用により免疫刺激効果が増強された。健康なイヌにおける安全性の評価では予想される有害事象の範囲内であったため、従来のc4G12単剤療法に抵抗性を示す進行性腫瘍を有する犬(n=12頭)を対象に、抗CTLA-4抗体を併用療法として用いた安全性および有効性を示す臨床試験を実施した。併用療法(c4G12+ca1C5)ではグレード3の有害事象が25%(3頭/12頭)で見られ、口腔メラノーマを患う1頭の犬においてPR(部分奏功)が認められた。肝毒性のためca1C5中止後も、c4G12単剤療法で腫瘍縮小が持続したことから、併用療法が難治性の腫瘍において抗腫瘍反応を誘導し、その後の単剤療法が維持に役立つ可能性が示唆された。犬の獣医療を進歩させ、ヒト腫瘍免疫学研究のための犬ICIモデルをより詳細に特徴づけるためには、さらなる研究が必要である。

コメント

放射線・抗PD-L1抗体単独治療で効果が認められなかった口腔メラノーマで腫瘍の肉眼病変の縮小が見られたことから、治療効果は期待できるが、本研究はパイロット研究であり、小規模かつ腫瘍タイプや治療歴が統一されていないため、今後安全性・有効性の評価にはさらなる研究が必要である。

2025.10

猫の口腔内扁平上皮癌(FOSCC)に対する舌及び下顎骨の全切除術:20例の治療成績と合併症の検討

The Outcomes and Surgical Complications of Cats With Oral Squamous Cell Carcinoma Treated With Total Glosso-Mandibulectomy: 20 Cases(2008-2022)

Taisuke Iwata, Masanao Ichimata and Atsushi Fujita et al. Vet Comp Oncol. 2025 Jun;23(2):178-186. doi: 10.1111/vco.13043. Epub 2025 Feb 10.

猫口腔扁平上皮癌(FOSCC)は猫において最も頻度の高い口腔悪性腫瘍である。一般的にFOSCCは急速に進行し、局所浸潤性が極めて高い。FOSCCの既存治療法は限られている。本単施設後方視的コホート研究の目的は、猫口腔扁平上皮癌(FOSCC)に対し舌下顎骨全摘術(TGM)を受けた猫の予後と手術合併症を報告することである。組織病理学的検査でFOSCCと診断されTGMを受けた20頭の猫の医療記録を調査した。FOSCCの発生部位は下顎が12例、舌が8例であった。全例に経皮的内視鏡的胃瘻造設術を実施した。TGMの術後合併症は18例(90.0%)で認められ、うち11例に創部腫脹を観察した。このうち3例は気道閉塞を伴い、数日間の気管挿管による管理を必要とした。術後貧血は10例で認められ、うち2例は輸血を必要とした。術後死亡例はなかった。無増悪生存期間(PFI)と全生存期間(OST)はそれぞれ914日と533日であった。1年生存率と2年生存率はそれぞれ50.2%と37.8%であった。単変量解析では、組織病理学的切除縁のみがPFIおよびOSTと関連していた。TGMはFOSCCにおける長期生存の達成に有効であった。ただし、胃瘻チューブによる生涯にわたる栄養サポートと、口蓋・咽頭からの分泌物除去を含む日常的な在宅ケアが必要であった。周術期死亡はなかったが、一部の猫では重篤な合併症が発生した。組織病理学的切除縁は重要な予後因子であった。

コメント

本研究は、TGM法を導入し、TGMおよびPEGを受けた猫の臨床転帰を評価した初の報告である。特に、病理学的に完全切除が得られた症例では長期生存が確認され、TGMが口腔扁平上皮癌に対する有効な外科的選択肢となる可能性が示唆された。一方で、術後約90%の症例に合併症が認められ、終生にわたる栄養・口腔ケアが必要であることから、術後管理および飼い主のケア負担が大きいことが課題と考えられる。また、本研究は単一施設での後ろ向き研究であり、QOL評価においても確立された質問項目が用いられていないなど、限界が存在する。今後は、多施設による前向き研究の実施と、標準化された飼い主QOL評価法の導入により、TGM術後の生活の質と長期予後の関連をより明確にすることが期待される。