Journal Club 202511
腫瘍科で行っているJournal Clubの要約を掲載いたします。内容の詳細につきましては原著論文をご参照ください。
2025.11
血清および組織中のマイクロRNAによって、犬の脾臓血管肉腫を他の脾臓腫瘤と鑑別できる
MicroRNAs in serum and tissue can differentiate splenic hemangiosarcoma from other splenic masses in dogs
Latasha Ludwig, Heather Treleaven, Arlene Khachadoorian et al. Vet Pathol. 2025 Sep;62(5):659-671. doi: 10.1177/03009858251317466. Epub 2025 Feb 19.
犬における脾臓腫瘤は一般的な病変であり、その臨床的挙動は極めて多様である。臨床的にも、また組織学的検査を行っても、良性腫瘤と悪性腫瘤を鑑別することはしばしば困難である。脾臓における最も一般的な悪性腫瘍である血管肉腫(HSA)は、極めて侵襲性が高く、予後不良の腫瘍である。本研究では、腫瘤組織および血清中のマイクロRNA(miRNA)が、HSAとその他の脾臓腫瘤を鑑別できると仮定した。
本研究では、逆転写およびリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)を用いて、HSA症例(血清 n=24、組織 n=17;摘脾後血清 n=11)、リンパ腫(血清 n=8、組織 n=11)、非血管性非リンパ性肉腫(血清 n=6、組織 n=10)、組織球性肉腫(組織 n=4)、良性脾臓腫瘤〔骨髄脂肪腫、結節性過形成、血腫;血清計 n=21、組織計 n=35〕、および正常犬(血清 n=14、組織 n=7)から得た検体において、計59種類のmiRNAを解析した。
その結果、HSA症例の血清および組織では、他の脾臓腫瘤または正常脾臓と比較して多くのmiRNAの発現に差異が認められた。血清においては、5種類のmiRNA(miR-135a-5p、miR-10a、miR-450b、miR-152-3p、miR-126-5p)からなるモデルにより、HSA犬24例全例(24/24)を正常犬および良性脾臓腫瘤の犬から正確に分類でき(HSAの再現率=1)、モデル全体の正確度は86%であった。
さらに、HSAおよび良性脾臓腫瘤の組織においては、3種類のmiRNA(miR-126-5p、miR-502-3p、miR-452-5p)からなるモデルにより、96%の症例を正確に分類することができた。
本研究は、血清および組織中のmiRNAモデルが、犬のHSAのスクリーニングおよび診断に有用であることを示すものである。今後は、前向き試験および診断前血清サンプルを用いた検証が課題である。
コメント
今回紹介した論文は、すでに発生した腫瘤が血管肉腫か良性腫瘍かを診断することに重点を置いているものである。これも重要な視点であるが、脾臓腫瘍の性質やmicroRNAの特性を踏まえると、血管肉腫などの悪性腫瘍の有無を判定するスクリーニングにおいて、より大きな効果を発揮すると考えられる。今後、このような研究がさらに進展し、より安価で高精度なスクリーニング検査が普及することで、手遅れになる前に治療に移行できる動物が増えることが望ましいと思われる。
2025.11
犬骨肉腫における細胞生存、細胞周期分布、臨床ステータスに対する照射前ゾレドロン酸と放射線療法の効果
Effects of neoadjuvant zoledronate and radiation therapy on cell survival, cell cycle distribution, and clinical status in canine osteosarcoma
Carissa J Norquest, Anita Rogic and Phyllis A Gimotty et al. Front Vet Sci. 2024 Jan 31:11:1237084. doi: 10.3389/fvets.2024.1237084. eCollection 2024.
Introduction
ゾレドロン酸(ZOL)は、第三世代のビスフォスフォネート製剤であり、従来のビスフォスフォネート製剤(パミドロン酸: PAMなど)よりも骨吸収部位への親和性が高い。ヒト医療において、ZOLは旧世代のビスフォスフォネートと比較して、骨痛の緩和効果が向上し、骨関連イベント発生までの期間が延長するとされている。前臨床研究では、抗腫瘍薬として、ZOL単独および放射線療法(RT)のと併用による相乗効果の両方で検討されており、ZOLとRTは、前立腺、乳がん、骨肉腫、線維肉腫など、いくつかのヒト腫瘍細胞株において相乗的に作用することが報告されている。しかし、ZOLの放射線増感作用の正確なメカニズムは完全には解明されていない。
Methods
様々な線量のメガボルテージ体外放射線照射を実施したイヌ骨肉腫細胞株におけるZOLのアポトーシス誘導能を検討した。次に、ネオアジュバント療法のタイミングの評価のため、ZOL投与細胞における細胞周期停止効果を評価した。臨床試験では、自然発症の四肢骨肉腫のイヌ20頭に対し、8Gyの放射線療法(週1回分割照射×4週間)を受ける24時間前に、0.1 mg/kgのZOLをIV投与した。
Results
ZOL処理を実施した全細胞株において、対照群と比較してアポトーシスが増加した。ZOLとRTの併用によるアポトーシス誘導能は、Abrams株、D-17株、およびHMPOS株間で異なる結果が得られた。ZOL投与によるG2/M期での細胞周期停止効果は弱く、細胞株間でばらつきがあったが、ZOL投与後48時間で最大となったと考えられる。臨床試験において、ZOLとRTを併用した治療を行った犬のうち、病的骨折を発症したのはわずか10%であったのに対し、過去にPAMとRTを併用した治療を行った犬では44%であった(p = 0.027)。
Discussion
ZOLとRTは、非外科的治療の対象となる患者にとって忍容性の高い併用治療計画であると考えられるが、今後の研究でZOLの理想的なタイミングを明らかにする必要がある。
コメント
in vitro実験では、ゾレドロン酸および放射線照射に対する反応性では細胞株間で違いが報告されたものの、相乗効果は認められなかった。論文中の機序的な考察は限定的であったが、今後は更なる条件設定および解析が求められるのではないか。
臨床研究においては、疼痛緩和効果、骨折リスク低減および安全性に関する良好な結果が示されており、緩和治療としての有用性が示唆される。緩和治療として使う際、抗がん剤よりも患者の負担や、飼い主の許容度は高いのではないかと考えられる。