診断・治療ウェルシュ・コーギーの変性性脊髄症 Degenerative Myelopathy(DM)in Welsh Corgi

変性性脊髄症 Degenerative Myelopathy (DM) とは

変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy:DM)は、痛みを伴わず、ゆっくりと進行する脊髄の病気です。ジャーマン・シェパードに多い病気として、1973年にAverillにより初めて報告されました[1]。現在までに、多くの犬種で発生が報告されていますが[5, 12]、近年、ペンブローク・ウェルシュ・コーギー(以下PWC)での発生頻度が高く、欧米では注目を浴びています。日本では大型犬の飼育頭数が欧米と比べ少なく、現在までにDMの報告はそれほど多くありませんが、PWCでの発生は確実に増えてきています。

残念ながら現時点でDMを治す治療法はありません。しかし、DMを発症したコーギーの飼い主とその主治医として知っておいて頂きたいのは、病気をよく知り、適切なケアをしてあげれば、DMを発症しても幸せな時間を過ごすことが出来る、と言うことです。

DMの症状

PWCの場合、症状は10歳過ぎから現れるのが典型的です。病気は脊髄の真ん中あたり(前足と後ろ足の中間あたりの脊髄)から始まり、症状は後ろ足から出現します。病気が進行すると、病変は脊髄の前の方にも広がり、前足にも同様な症状が現れます。さらに進行すると病変は首の脊髄にも広がり、呼吸が少しずつしにくくなります。通常、これらの症状は3年くらいかけてゆっくりと進行します。進行の速さにはある程度の個体差があり、遅い場合には4年以上の経過を辿ることもあります。

初期の症状としては、以下の様な症状が特徴的です。これらの症状は、DMだけに認められるものではなく、PWCに多い椎間板ヘルニアやその他の病気でも同様に認められことがあります。ですから、このような症状が見られたら、動物病院で精密検査を受けることが大切です。

後ろ足をすって歩く

足先の感覚異常から、足の甲を地面にすって歩くようになります。アスファルトの上だと歩行時に爪が地面にすれる音が聞き取れるようになります。爪を見ると爪の上側が擦れて減ってきます。立ち止まって立っているときには、足先がひっくり返ったままになっていることもあります(ナックリングと呼ばれます)。

腰のふらつきや後ろ足の交差

歩行時に腰が安定せず、左右にふらふらしながら歩くなどの症状も初期に見られます。また、後ろ足を交差させながら歩くこともあります。足先の感覚異常により、自分の足の位置がわからなくなるために現れる症状です。2本の後ろ足をそろえてウサギ跳びのように歩くこともあります。

腰がフラフラし、足がもつれてしまう

さらに症状が進行すると、後ろ足の動きが鈍くなり、筋肉量も落ちることから下半身を支えることができなくなります。すでに述べたように、この病気では痛みは伴わないため、犬はこのような状態でもどんどん歩こうとします。下半身を持ちあげることができないので、腰が落ちた状態で下半身を引きずりながら前進します。

脊髄の病変がさらに前の方に広がると、前足の障害が現れます。次第に上半身を支えることができなくなり、伏せの状態になります。伏せの姿勢を維持できなくなると、横に寝たような状態になります。

この時期あたりから、声のかすれが出ることがあります。PWCに特有の太い吠え声ではなくなり、かすれたような声になります。

前足の症状が進行すると起立することが困難になります。また、排尿や排便の制御ができなくなるので、尿失禁や便失禁が現れることが多いです。

首の脊髄にまで病変が及ぶと呼吸障害が現れます。息づかいが荒かったり、不規則な呼吸をしたりします。呼吸障害がさらに進行すると呼吸不全となり、発症後約3年で亡くなります。

DMの原因

犬種を問わずDMの原因は不明な点が多く、未だはっきりとした原因は解明されていません。過去には、進行性軸索変性説[8]、免疫介在性疾患説[3, 13, 14]、遺伝性疾患説[6]、代謝性疾患説(ビタミンEおよびB12の欠乏)[10]などが提唱されていますが、いずれも確定的な結論には至っていません。しかし2008年、ミズーリ大学の研究グループによりDMの原因と考えられる遺伝子変異が見つかりました[2]。この変異した遺伝子は、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)というタンパク質をコードする遺伝子です。SOD1は生体内で発生した活性酸素などの酸化ストレスを除去するのに関係していると考えられています。人において、SOD1遺伝子の変異は家族性筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリッグ病)を引き起こすことが知られています。

DMの病態解明

DM発症犬にはSOD1遺伝子の変異型ホモ接合体(両親から受け継いだSOD1遺伝子の両方に変異が存在する状態)が認められます。変異遺伝子からは異常なタンパク(変異タンパク)が作られます。DMでは、この変異タンパクが最終的に神経の変性を引き起こすと考えられていますが、詳細なメカニズムは明らかになっていません。SOD1というタンパクは細胞質内に豊富に存在する抗酸化酵素です。体の組織は細胞活動の結果、様々な酸化ストレスにさらされますが、SOD1のような抗酸化酵素のおかげで、細胞死を免れているのです。SOD1変異遺伝子から作られる変異タンパクは、正常な酵素のような抗酸化酵素としての機能がなく(または低く)、その結果、神経細胞は酸化ストレスにさらされて死んでしまう。このような仮説は十分に可能性がありますが、最近の研究では、変異遺伝子から作られた変異SOD1タンパクも正常な酵素活性を持つと報告されました(ref)。つまり、DM犬が持つ変異SOD1タンパクも正常な抗酸化酵素としての機能は持っている、ということです。現時点では、DMの正確な病態は不明ですが、人に認められる多くの神経変性疾患(たとえば、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、ALSなど)と同じように、DMも蛋白の立体構造異常によって発生する病気である可能性が高いと考えられています。

DMの診断

現在のところ、DMに対する特異的な生前診断法は確立されていません。確実に病気の存在を証明するためには、脊髄組織の病理組織学的検査が必要ですが、これは生前には不可能です。しかし臨床的には、各種検査を組み合わせることによりDMの診断を下すことができます。診断において重要なことは、犬種と特徴的なヒストリー(疼痛を伴わない慢性進行性の両後肢不全麻痺)を考慮し、血液検査や脳脊髄液検査で炎症性疾患を否定し、MRIやCTまたは脊髄造影検査などの画像診断で脊髄の圧迫性病変を除外することです。画像診断は、あくまでも椎間板ヘルニアなどの圧迫性病変を否定する目的で行われ、DMの病変を見つけるためではありません。さらに、変異したSOD1遺伝子をペアで持っており、臨床症状がDMと合致する場合は、DMに罹っている可能性が高いと考えられます。しかし、高齢のPWCでは、椎間板ヘルニアも多く、DMとの症状も似ているため両者を明確に区別することは困難な場合もあります。また、DMと椎間板ヘルニアを両方持っている犬もいますので、診断と治療は慎重に進めなければいけません。

SOD1遺伝子の検査

変異したSOD1遺伝子をペアで持っているPWCでは、DMを発症するリスクがあることがわかっています。変異遺伝子を持った個体での発症の時期や確率についてはまだ不明です。

SOD1遺伝子の検査は、当研究室と鹿児島大学共同獣医学部臨床病理学研究室との共同研究により実施しています。現在受け付けている検体は、画像診断を実施し、獣医師によりDMと臨床診断をすでに受けたPWCまたはDMが疑われているPWCの検体のみです。検査を希望される方は、下記メールアドレスまでご連絡ください。必要な書類をお送りします。検査の申し込みは獣医師(主治医)からのみとなります。

【DMの遺伝子検査の申込用紙】
下記のどちらかをダウンロードしてご利用ください。
Microsoft® Word®版 | PDF版

それぞれ、次の3ファイルがzip形式で圧縮してあります。

  • DMの遺伝子検査についてver4.2
  • DM遺伝子検査申し込み用紙ver2.3.doc
  • 基礎臨床情報シートver3.2.doc

件名を 「DMの遺伝子検査の申し込み(飼い主名+犬名)」としてください。
kamicna@gifu-u.ac.jp

DMのケアと治療について

DMの症状は進行とともに変化して行きますので、病期に合わせたケアが必要です。

肢端の保護

初期には、まだかなり運動量が多いので、ケアの中心は肢端の保護です。DMは無痛性の疾患ですので、犬は後肢が交差しようと、ナックリングしようと、グイグイと歩こうとします。アスファルトなど硬い地面を散歩させていると、爪が擦り減り、肢端から出血してしまいます。このことを予防するために、肢端を保護するためのものが必要です。様々な製品が市販されていますが、PWCの場合、靴を履かせることは難しいようです。我々はゴム製のカバー(PAWZ Natural Rubber Dog Boots (PAWS DOG BOOTS))を勧めています(Amazonや楽天などの通販で購入可能)。この製品は、ゴム風船のようなもので、擦り切れて破れたら新しい物に交換する、ディスポーザブルタイプです。DMの初期では起立時や歩行時に後肢が外側に流れることがよくありますが、PAWZは滑り止めとしても機能するため、これらの症状の改善も期待できます。多くの症例に使用してみましたが、うまく適応してくれる症例が多いです。靴やカバーなどをどうしても嫌がる症例の場合は、コンクリートやアスファルトなど硬い地面を歩かせることは極力避けてもらうようにします。

理学療法

過去にDMに対する理学療法の有用性が示されていますが[11]、大規模な臨床試験は行われておらず,客観的なデータは限られています。しかし、経験的には積極的な運動を継続している症例の方が自力での歩行可能な期間が長いという印象を持っています。運動の主な目的は筋肉の萎縮を抑え,症状の進行を予防することです。この時期の運動とは、今まで行なっていた散歩を含め運動を継続してもらうことで、特別な運動を指すわけではありません。脊髄の病気では運動を制限しなければいけないと信じている方が多いですが、DMと診断されている症例であれば、むしろ運動は積極的に行なう方が良いと考えています。しかし、前述した通り、DMは椎間板ヘルニアと症状が似ているので、まずは必要な精密検査をきちんと受け、椎間板ヘルニアやその他の運動制限が必要な病気ではないことを確認する必要があります。

体重管理

終末期を除き、DMでは食欲や元気が低下することはほとんどありません。痛みを伴わないことも、その理由の一つと考えられます。食欲は維持される症例が多いため、食事管理をしっかりとしないと体重はどんどん増加してしまいます。運動を継続している症例でも、健康時と比較すると運動量は減少するため、このことも体重増加につながっていると思われます。四肢や体幹の筋力は徐々に低下し、肥満になるとさらに負担が増加します。したがって、自力での運動をなるべく長く継続するためには、体重管理はとても重要です。

カートの活用

後肢による自力での起立・歩行が困難になると、そのままでは運動量が極端に減少します。運動量を維持するためには、後躯を支持するための介助が必要になります。短時間であれば、ハーネス等で後躯を吊り上げることが可能です。ハーネスにはいくつかのタイプがありますが、両後肢をすっぽりとハーネスにはめるタイプは両後肢の運動を妨げることがありますので注意が必要です。長時間の運動(散歩など)をさせる場合には、ハーネスでは介助者の負担が大きいので、積極的にカート(車いす)の導入を勧めます。

カートの活用にはたくさんのメリットがあります。最大のメリットは長期間、運動量を維持できることです。また、介護をして行く上でも非常に有用です。しかし、良いカートを導入しなければ失敗に終わることもあります。DMは症状が変化していく病気ですので、その変化に対応できるカートでなければいけません。つまり、後肢を支える機能から全身を支える機能へと変化するカートである必要があります。尿や便失禁も出てくることがあるため、カートに載せたまま排泄が可能なタイプが理想的です。このようなカートは我々が知る限り存在しませんでしたので、動物用の装具や車いすを作製するメーカーとDM専用のカートを共同開発しました。

DM用に開発された車いす(アニアルオルソジャパン

排泄の問題(失禁)に対するケア

排泄の問題は様々なタイミングで出てきます。具体的には尿失禁と便失禁です。意識的な排泄は可能ですが、排泄姿勢を終え、歩行を再開しても尿や便が出ることが多いです。失禁に対しては、尿や便で被毛や皮膚が不潔にならないようにしたり、オムツやマナーベルト等で対応します。初期に排尿または排便困難や不能となることはあまりありません。病気が進行すると意識的な排尿はあるが、膀胱を完全に空にできないために、常に少量の古い尿が膀胱内に残存しやすくなります。他の原因(たとえば椎間板ヘルニア)でも同様ですが、このような状況では膀胱炎が起きやすくなります。膀胱炎を予防するために、朝晩2回、飼い主により圧迫排尿をしてもらいます。呼吸機能が重度に低下している症例に対しては、圧迫排尿には細心の注意が必要です。腹部を膨らませることにより呼吸を維持しているので、腹部に長時間圧力を加えると呼吸が不可能になります。呼吸の状態にも気を配り、圧迫排尿をしなければいけません。尿が混濁したり、悪臭を放ったり、血液混入がある場合は、膀胱炎をすでに起こしていると考え、動物病院で尿検査を受けてください。通常、膀胱炎と診断されれば、一定期間抗生物質の投与が必要になります。

床材の工夫

伏せまたは横になる時間が増えるため、特に痩せた犬だと褥瘡(床ずれ)ができてしまいます。褥瘡を予防するために床材(敷物)はなるべく高反発のものを選択します。また、夏場など気温が上昇する時期には、通気性の良い床材が必要になります。ブレスエアー(東洋紡)は高反発で通気性が良い素材なので、DMに対しては優れた床材です。動物用にはドッグケアマット(爽快潔Living)という製品があります。これも通信販売で入手可能です。

性格の変化に対するケア

横臥状態が長くなる頃から、犬が凶暴化したり届く範囲のものを咬みちぎるような行動をとることがあります。動けないことに対するストレスからくる行動ではないかと考えています。このような行動が見られた場合は、積極的に外へ連れ出す、可能な限り犬とのスキンシップをとる、咬んでも良い犬用玩具を与えるなど、ストレス軽減になるような工夫をして頂きます。

呼吸機能低下に対するケア

DMが進行する中で呼吸への影響が出てきますが、DMの呼吸機能障害についてはまだよく理解されていません。人の呼吸機能を評価する検査を犬に実施することは困難です。たとえば、肺活量や呼気ガス分析などを犬で測定することはほぼ不可能です。これに代わる方法として犬では血液中のガス分析が有用です。血液中の酸素分圧や炭酸ガス分圧を測定することで、どの程度ガス交換ができているかを客観的に評価することができます。外見上、呼吸機能が低下していないと思われる時期から、すでに血液ガス分析値は変化しています(低酸素血症や高炭酸ガス血症が起きている)。実際には酸素分圧がかなり下がっていても、一見、呼吸機能に全く問題ないように見える犬が多いのです。これは何故かと言うと、おそらくDMがゆっくりと進行する疾患であるため、呼吸機能の低下に伴う変化に体が慣れているのではないかと思います。登山家が高い山に登る前に、低酸素の環境に体を少しずつ慣らすのに似ています。
血液ガス分析は動物病院に犬を連れて行かなければできません。しかも血液ガス分析用の装置はどこの病院にでも置いてあるわけではありません(むしろない病院の方が多いでしょう)。実際には血液ガス分析を定期的に受けられないことの方が多いと思います。では、呼吸機能を知るための他の方法はないのか?実は手軽に自宅でもできる方法があります。それは胸部と腹部の動きの観察です。正常な呼吸をしている動物は胸腹式呼吸をしています。これは胸部(肋間筋)と腹部(横隔膜)の両方を使って行う呼吸です。胸腹式呼吸をしている動物では、胸部と腹部の両方を動かしていることがわかります(動画)。DMが進行すると次第に胸部の動きが低下します。これは脊髄の変性が進行し、肋間筋を支配する肋間神経に麻痺が出てくるからです。DMの中期以降(概ね発症後2年以降)には胸部の動きが減少し、その後は腹部だけを動かす腹式呼吸になる犬が多いです(動画)。この時期は、肋間筋は完全に麻痺し、横隔膜のみを動かして呼吸をしています。肋間筋が麻痺をすると、横隔膜をより大きく動かして呼吸をしようとしますので、腹部の動きはさらに大きくなります。

横向きに犬を寝かせ、腹側から見たとき、正常では胸部(緑矢印)と腹部(赤矢印)の両方が動く「胸腹式呼吸」をしています。DMが進行すると徐々に胸部の動きが低下し、逆に腹部の動きが大きくなり「腹式呼吸」に変化して行きます。

Grade1の呼吸運動様式。胸郭と腹部を動かす胸腹式呼吸をしている。

Grade3の呼吸運動様式。胸郭の運動はほぼ消失し、腹部だけを動かす腹式呼吸をしている。

呼吸機能が低下していることが明らかな犬では、残存する呼吸筋の運動能力を妨げないような工夫が必要です。腹式呼吸をしているDM症例においては、腹部を強く圧迫しないことに留意すべきです。日常生活ではカートの使用時や圧迫排尿を行う際などに注意します。呼吸筋麻痺が進行すると、呼吸による熱放散がしにくい状態になります。そのため、環境温度を低めに設定し、体温上昇を防ぐことが重要です。特に夏場は、熱中症になるリスクが高くなります。そのため、暑い時間帯の散歩などは避け、日中もなるべく風通しのよい場所を用意する必要があります。冬場に暖房やホットカーペットを使用する際、犬が自力で移動ができず、体温上昇が起こることがあります。

酸素供給

低酸素血症を生じているDM症例に対する酸素供給は、吸気中の酸素濃度を高めることで全身への酸素供給量を補います。酸素供給源には酸素ボンベや携帯用酸素ボンベの他に、大気中の酸素を濃縮して供給する酸素濃縮器などの選択肢があります。供給経路には経鼻カテーテル、酸素マスク、酸素テントなどがあります。DM症例に対する酸素供給方法は確立されていませんが、基本的には慢性進行性の呼吸不全の犬に対する酸素供給と同様に、低濃度の供給から始めるのが良いと考えています。慢性疾患であるDMの場合、入院させて酸素供給を行なうことは現実的ではありません。我々は、終末期の症例に対しては、酸素濃縮器(購入またはレンタル)を用いた自宅での酸素供給によるQOLの維持を推奨しています。自宅で酸素濃縮器を使用する際は、火気に近づけないなど装置の設置場所や取り扱い上の注意事項を必ず守ってください。人の在宅酸素療法に対する厚生労働省の注意喚起が参考になります。

在宅酸素療法における火気の取扱いについて

薬物・サプリメント

DMに対する薬物治療は、その原因がはっきりと解明されていない現時点では、経験的に行われています。抗酸化作用を持つとされるいくつかの治療薬が使われています[7]。神経変性疾患において、酸化ストレスは病気の進行に深く関与していると考えられているため[4, 9]、抗酸化作用を有するビタミン類やサプリンメントは効果があるかもしれません。抗酸化作用を有するビタミン類やサプリンメントは病態の進行予防に効果があると期待されていますが、その効果を客観的に証明した研究はあまりありません。ビタミンB、C、E、ε−アミノカプロン酸、N-アセチルシステインなどがDMに対して経験的に使用されてきましたが、過去の研究ではそれらの有効性は証明されませんでした(引用)。効果が曖昧な複数の薬剤やサプリメントを長期間投与することは服用の負担になります。現在我々は、ウコンの成分であるクルクルミンを主成分とする神経疾患用総合サプリメント(ニューロアクト®)(日本全薬工業(株))を使用しています。ニューロアクト®の主成分は、水溶性クルクミン、ヘスペリジン、ビタミンB群、メチルスルフォニルメタン、グルコサミンです。クルクミンには強い抗酸化作用があり、慢性炎症を抑制する効果も報告されています。また、人SOD1蛋白の立体構造異常の結果として起きる凝集体形成を抑制する効果も報告されています(引用)その他、抗酸化作用をもつヘスペリジンや神経修復作用を持つビタミンB群等がオールインワンで含有されているため、飼い主の投薬の負担も少なく、DM犬への長期的な投与に適していると考えています。神経病でよく使われるステロイドは、DMに対しては効果がありません。

嚥下障害に対するケア

終末期を迎えた一部の症例では嚥下障害が現れます。また、舌の動きも悪くなるために、このことも加わって採食や飲水が困難になることがあります。嚥下障害がある場合は、給餌の際にクッションなどで頭部をやや高めに保持し、飲み込みやすく少量ずつ餌を与えるようにします。ドライフードは少しふやかすと嚥下がしやすくなります。舌の動きがさらに低下すると、特に飲水が困難になるため、スポイトやシリンジ等で飲水の補助をしてあげてください。

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著書・執筆

「知っておこう コーギの変性性脊髄症(DM)」
コーギ・ファン 誠文堂新光社

「DAMNIT-Vで学ぶ神経病学各論 第26回 変性性脊髄症 」
月刊「CAP」2010年8月号(緑書房/チクサン出版社)

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献体についてのお願い

DMの原因についてはまだ不明な点が数多く残っています。そのために有効な治療法もありません。DMに対する新しい治療法を開発するために病気の原因についてもっと知る必要があります。そのためにはDMになった犬の病理検査が必要です。長年家族の一員であった愛犬を送り出すことは大変つらいことではありますが、現在DMと闘っている他の多くの犬のために是非ご協力をお願いします。闘病を終えた犬の遺体を献体してくださる方は以下アドレスまでメールにてご連絡ください。

※ご遺体は、病理組織学的検査を実施した後、ペット葬儀社にお願いして個別火葬して頂きます。火葬後のご遺骨はお返し致します。

※献体は岐阜大学へ直接お越し頂ける方に限らせていただいています(遠方からの献体は受け付けていません)。

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お問い合わせ

DMに関してご質問などあれば下記のお問い合わせページへお進みいただき、ご連絡ください。
診察をしていない症例に対する具体的な診断や治療に関するコメントはできません。

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参考文献

  1. Averill, D. R., Jr. 1973. Degenerative myelopathy in the aging German Shepherd dog: clinical and pathologic findings. J Am Vet Med Assoc. 162: 1045-1051.
  2. Awano, T., Johnson, G. S., Wade, C. M., Katz, M. L., Johnson, G. C., Taylor, J. F., Perloski, M., Biagi, T., Baranowska, I., Long, S., March, P. A., Olby, N. J., Shelton, G. D., Khan, S., O'Brien, D. P., Lindblad-Toh, K. and Coates, J. R. 2009. Genome-wide association analysis reveals a SOD1 mutation in canine degenerative myelopathy that resembles amyotrophic lateral sclerosis. Proc Natl Acad Sci U S A. 106: 2794-2799.
  3. Barclay, K. B. and Haines, D. M. 1994. Immunohistochemical evidence for immunoglobulin and complement deposition in spinal cord lesions in degenerative myelopathy in German shepherd dogs. Can J Vet Res. 58: 20-24.
  4. Beal, M. F. 1995. Aging, energy, and oxidative stress in neurodegenerative diseases. Ann Neurol. 38: 357-366.
  5. Bichsel, P., Vandevelde, M., Lang, J. and Kull-Hachler, S. 1983. Degenerative myelopathy in a family of Siberian Husky dogs. J Am Vet Med Assoc. 183: 998-1000, 1965.
  6. Braund, K. G. and Vandevelde, M. 1978. German Shepherd dog myelopathy--a morphologic and morphometric study. Am J Vet Res. 39: 1309-1315.
  7. Clemmons, R. M. 1992. Degenerative myelopathy. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 22: 965-971.
  8. Griffiths, I. R. and Duncan, I. D. 1975. Chronic degenerative radiculomyelopathy in the dog. J Small Anim Pract. 16: 461-471.
  9. Ilic, T. V., Jovanovic, M., Jovicic, A. and Tomovic, M. 1999. Oxidative stress indicators are elevated in de novo Parkinson's disease patients. Funct Neurol. 14: 141-147.
  10. Johnston, P. E., Knox, K., Gettinby, G. and Griffiths, I. R. 2001. Serum alpha-tocopherol concentrations in German shepherd dogs with chronic degenerative radiculomyelopathy. Vet Rec. 148: 403-407.
  11. Kathmann, I., Cizinauskas, S., Doherr, M. G., Steffen, F. and Jaggy, A. 2006. Daily controlled physiotherapy increases survival time in dogs with suspected degenerative myelopathy. J Vet Intern Med. 20: 927-932.
  12. Matthews, N. S. and de Lahunta, A. 1985. Degenerative myelopathy in an adult miniature poodle. J Am Vet Med Assoc. 186: 1213-1215.
  13. Waxman, F. J., Clemmons, R. M. and Hinrichs, D. J. 1980. Progressive myelopathy in older German shepherd dogs. II. Presence of circulating suppressor cells. J Immunol. 124: 1216-1222.
  14. Waxman, F. J., Clemmons, R. M., Johnson, G., Evermann, J. F., Johnson, M. I., Roberts, C. and Hinrichs, D. J. 1980. Progressive myelopathy in older German shepherd dogs. I. Depressed response to thymus-dependent mitogens. J Immunol. 124: 1209-1215.

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岐阜大学附属動物病院 神経科

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